日本MRSニュース Vol.10 No.2 May 1998

やあこんにちは

究極の材料をもとめて

京都大学大学院工学研究科 附属イオン工学実験施設
施設長・教授 山田  公  

 日進月歩の材料研究も、一つの材料やプロセスを完成させるには相当の年月がかかるものです。したがって、日々新鮮にして新しく、毎日、嬉々として材料と戯れる、と言うようなものではありません。毎日が苦渋の連続です。科学史をひもとくと、多くの先達の研究成果は、艱難辛苦の賜物、次世代に花咲く例がほとんどであります。皆さんの研究はいかがでしょうか。
 
 現代では、超先端装置や、多くの高感度高性能の計測評価装置が開発され、実験の精度はたかまり、今まで不可能であったナノスケールの世界にまでも踏み込んでいます。材料研究の分野にも新しい展開が見られます。原子分子を操作し多くの人工材料が創製されました。計算機シミュレーションで原子分子の世界を、美しいカラーディスプレーに、さまざまなスケールやアングルで立体的に、静止から動画にいたるまで表示してくれます。材料研究と言う言葉の響きは、今や生き生きとした輝きにあふれたものになりました。初めてテーマを選ぶ学生にも、十分未知の世界の素晴らしさを理解させることが出来るようになりました。今まで陰惨で不評であった材料研究が、現代のアドベンチャーと期待されるようになりました。ご同慶の至りではありませんか。 
 私の専門はイオン工学です。イオンビームと固体との相互作用を研究しています。簡単に言えばイオンビームと言う道具を使って、新材料の創製や、次世代の材料プロセスを研究しています。この分野の研究も受難の歴史から始まりました。約100年前のことです。
ゴールドシュタインは不思議なビームを発見しカナール線と名づけましたが、その正体は、彼にはとうとう謎のままでした。その後、王立研究所のJ.J.トムソンが、やっと当時の先端装置を用いて、正の荷電粒子であることを示しました。イオンビームと材料の関わりも、同様であります。1948年にベル研究所のショックレー達がトランジスターを発明した頃、米国の大学や研究所でも放射線物理の研究に使う半導体の損傷を研究していました。半導体にイオンビームを当てると、半導体の結晶は壊れるばかりで、その性質が改善されることはありませんでした。ところが、現在では、イオン注入技術は、半導体素子の製作には無くてはならない技術にまで発展したのです。トランジスターが発明されてから、今年はちょうど50年の記念すべき年になります。6月22日から京都で開かれる第12回イオン注入技術国際会議でも、これを記念した講演が予定されています。 
 いくら、高性能デバイスの材料が開発されても、人体を構成する材料ほど深淵なものはありません。微細な原子配列が心臓の鼓動の原動力であり、遺伝子の暗号の一文字の違いが性格の決定因子になっているのだそうです。実に驚きです。どのようにして、熱運動の場のランダムな分子運動が一定方向の運動である心臓の鼓動の原動力になるのか。ここには、多分エントロピーの法則に逆らう量子の世界があるのではないでしょうか。人間の遺伝子は4種類の文字で書かれていて、その遺伝子の一文字の違いが情報伝達物質の生産を左右し、性格を決めているそうです。半導体中の不純物の敏感な効果や、結晶欠陥の作る特異性の類ではないようです。生命の誕生の歴史をみると、自然の偉大さを認識せざるを得ません。究極の材料をもとめて、さまざまな研究が始まっています。しかし、我々の研究は、まだまだそれらに足元にもおよばないことを、謙虚に認識しなくてはなりません。 
 虚々実々の限りを尽くして、我々が挑む究極の材料といえども、もとはといえば、15 0
億年前に起こった量子宇宙から、一瞬の爆発・ビッグバン?で創製された物質に端を発しています。我々は、それらを組み合わせて原子や分子の周りの電子の結合を変えているに過ぎないのです。ビッグバンの研究と言えば、ベル研究所のベンジアスとウイルソンの予想外である背景幅射の発見や、高性能の天体望遠鏡から得られた莫大な観測結果が、宇宙の始まり、星の誕生、さらに物質の誕生に至る理論を支持する大きな柱になりました。第一次大戦後の好景気で生まれたアメリカの資産家による健全な研究助成が、この分野の研究の進展に寄与したのです。
 
 今、我が国ではビッグバンが起こっています。それらを取り巻く環境は、道理を極める我々サイエンティストには、到底理解できない次元の現象に起因しています。何はともあれ、昨今のマスコミに、尽きない種を与えている現代のビッグバンが、科学技術の根幹である材料研究の効果的なサポートにつながることを願おうではありませんか。


■トピックス

ホトリソグラフィ技術を用いて形成される超小型水晶振動子セイコーインスツルメンツ 川島 宏文  

 水晶振動子の重要性

 戦後のエレクトロニクスの発達には目を見張るものがある。この中で、水晶振動子は通信機器、民生機器における要素部品として非常に重要な役割を果たしてきた。そして、通信機器、民生機器に使用される水晶振動子には周波数安定性が最も強く要求され、この特性がその時代の技術レベルを表していると言える。 振動子の周波数安定性を決める要因としては多く存在するが大きく分けて、次の3つに要約できる。
 ? 周波数温度特性に優れていること。
 ? エージング特性に優れていること。
 ? 発振器として周波数が安定していること。 水晶振動子は上記要因を全て満たし、高精度が要求される通信機器、民生機器の要素部品として重用されている。本稿では、ホトリソグラフィ技術と化学的エッチング加工法を用いて形成される超小型水晶振動子を紹介する。

 水晶振動子の周波数温度特性と振動モード

 ・ 周波数温度特性
 図1は零温度係数を有する、化学的エッチング法によって形成された水晶振動子の周波数温度特性の一例を示す。水晶振動子の周波数温度係数α、β、γと周波数偏差Δf/ fと
の間には3次までのテイラー展開項をとり以下のように表される。    Δf/f=α(t?t0)+β(t?t0)2+γ(t?t0)3・氈@     但し、t0:テイラー展開温度 この図1に示された水晶振動子は温度t0=20℃でα=0となり、βの値によって周波数温度特性の挙動が決定される。例えば、+1°Xカット屈曲水晶振動子とTT(X1)カット
捩り水晶振動子は2次温度係数βが比較的大きく、β=?3.5??1.5×10?8/℃2 の値を持つ。これに対して、ATカット厚みすべり水晶振動子およびNS-GTカット幅・長さ縦結合
水晶振動子(以下、NS-GTカット水晶振動子と記す)のβは、その絶対値が1.5×10?9/℃2以下となるので3次曲線で近似できる。特に、NS-GTカット水晶振動子の3次温度係数γはATカット厚みすべり水晶振動子より2?3桁小さくなるので、広い温度範囲に亙って、周波数変化が小さくなる。今までに報告されている零温度係数を有する水晶振動子の中で、このNS-GTカット水晶振動子は水晶振動子単体で最も周波数温度特性に優れた振動子で
ある。また、NS-GTカット水晶振動子は結合水晶振動子であるので、周波数温度特性の変
曲点温度を自由に設定できる。これはATカット厚みすべり水晶振動子などの単一モード振動子とは著しく異なる点である。
 ・ 振動モードと形状
 図2は水晶振動子の振動モード図を示す。本稿で示した7つの振動モードの水晶振動子が零温度係数を有する代表例である。他にも振動モードが存在するが、振動子支持法が難しいことや零温度係数を与えるカット角が存在しないなどの理由から用いられていない。(g)の厚みすべり振動モードを除いて、振動子の支持方法が難しいのがよく分かる。振動子の支持方法を容易にするには振動部と支持部を一体に形成できる、化学的エッチング加工法が優れている。なぜならば、支持部でのエネルギー損失の小さい振動子が容易に設計できるからである。
 図3は図2に示した水晶振動子の具体的形状とその励振電極構成図を示す。振動モードを考慮して振動子形状と励振電極は設計される。フォトリソグラフィ技術を用いると、任意の振動子形状を加工できるので、振動損失の小さい振動子設計が可能となる。最適振動子形状の設計は振動子が複雑となるので難しくなることは言うまでもないが、有限要素法(Finite Element Method)などの解析手法を用いると容易に設計できる。

 おわりに

 本稿で紹介したように、ホトリソグラフィ技術と化学的エッチング加工法を用いると、超小型で、複雑な形状をした水晶振動子が実現できる。また、これらの振動子はその大きさによって共振周波数がきまるので、用途に応じて選択され、通信機器を始めいろいろな機器に用いられている。

参考文献
・ R.A.Sykes,・Quartz Crystal for Electrical Circuits?, ed. R.A. Heising, D. Van Nostrand, New York(1946).
・ W.G.Cady,・Piezoelectricity?, Dover Publications, Inc.(1964).・ 川島宏文,・両端部に支持部を有するGTカット水晶振動子の変分解析?,信学論(A)
,vol. J68-A,8(1985).
・ 川島宏文,松山 勝,中里光弘,・新形状輪郭すべり水晶振動子の変分解析?,信学
論(A),vol. J72-A,7(1989).
・ 川島宏文,須永健兒,・厚み,回転慣性とせん断力を考慮した音さ型屈曲水晶振動子の周波数特性の解析?,信学論(A),vol. J72-A,11(1989).・ 川島宏文,中里光弘,・断面変形を考慮した新形状縦水晶振動子の変分解析?,信学論(A),vol. J73-A,3(1990).
・ 川島宏文,中里光弘,・新カットねじりモード音さ型水晶振動子?,信学論(A),v ol. J76-A,1(1993).
・ 川島宏文,松山 勝,・2軸回転ラーメモード圧電振動子のエネルギー法による解析?,信学論(A),vol. J79-A,6(1996).

連絡先
セイコーインスツルメンツ株式会社
川島宏文
現在、ピエデック技術研究所
〒164-0002 東京都中野区上高田1-44-1
電話 03-5345-7817

図1 周波数温度特性の一例
(a) 屈曲振動モード
(b) 捩り振動モード
(c) 長さ縦振動モード
(d) ラーメ振動モード
幅縦振動モード(正振動)
長さ縦振動モード(副振動)
(e) 幅・長さ縦結合振動モード
(f) 輪郭すべり振動モード
(g) 厚みすべり振動モード
図2 水晶振動子の振動モード図
(a) +1°Xカット音叉型屈曲水晶振動子
(b) TTカット音叉型捩り水晶振動子
(c) Zカット長さ縦水晶振動子
(d) LQ1Tカットラーメモード水晶振動子
(e) NS-GTカット幅・長さ縦結合水晶振動子 (f) CTカット輪郭すべり水晶振動子
(g) ATカット厚みすべり水晶振動子
図3 水晶振動子の具体的形状と励振電極構成図


■研究所紹介

VDEC・VLSI Design and Education Center・:東京大学大規模集積システム設計教育研究センター

東京大学大規模集積システム設計教育研究センター・教授  浅田 邦博

 センターの発足

 VDEC(VLSI Design and Education Center)は全国大学共同利用の施設として平成8年5月に発足し、VLSI設計に関する
 ? 教育情報発信
 ? CADツールの整備提供
 ? チップ試作支援
の3機能を持っている。
 VDEC活動は全国のサテライトセンター(北海道大学、東北大学、東京工業大学、名古屋大学、金沢大学、京都大学、大阪大学、広島大学、九州大学)の協力のもとで進められている全国規模の「ネットワークセンター」でもある。 全国ユーザー大学との連携を密にするために教官中2名は2年を単位とした派遣教官であり、現在は東北大学と横浜国立大学からそれぞれ1名の助教授が赴任している。また産業界との協力を密にするために客員教授を置いており、現在はNTTエレクトロニクスから
教官を迎えている。
 VDECは日本の総ての大学・高専の教官・学生が利用でき、当初から情報発信にはWWWや
電子メール等のインターネットを積極利用している。CADツールの利用やチップ試作は教
官がアカウント・パスワードをVDECから取得し申し込む。詳しくは、

http://www.vdec.u・tokyo.ac.jp
のホームページを参照してください。

 設計教育情報の発信活動

 教育情報発信では
 ? CADツール利用法セミナー
 ? VLSI設計技術セミナー
 ? VLSIテスト技術セミナー
等の各種教育セミナーを企画開発している他、VLSI設計法に関する教材整備やモデルカリキュラムの整備を行っている。
 VDECのホームページから各セミナー開催案内・申し込み情報の他、CADツール情報、関
連の設計規則やライブラリー等の技術ファイル、チップ試作スケジュール、チップ試作申し込み情報が入手できる。 
 またこれまでの各ユーザーの試作チップの概要のページも整備されつつある。

 CADツールの整備提供

 CADツールは平成8年度に入札・契約を行い、昨年度から提供を開始している。 種類は
 ・ 論理合成・シミュレーション(Cadence, Synopsys)、 ・ 自動配置配線ツール(Avanti, Cadence)、 ・ 会話型・アナログツール(Mentor, Cadence)である。
 各ツールごとに500から1000ライセンスを一括してVDECが契約導入している。ライセン
スサーバーはVDECとサテライト校に分散配置し全国をカバーしている。 CADを利用したいユーザーはVDECのホームページから申し込み、インストールに必要なCD ROMをVDECから受け取る。ユーザーは手元のワークステーションにインストールし、最
寄りのライセンスサーバーからオンラインでライセンス認証を受け利用する。 サポートしているワークステーションはサンマイクロとHP社製(同等品)のものである。

 チップ試作支援

 チップ試作はCMOS技術を用いている。現在試作申し込みを受け付けているものは次のとおりである。それぞれ年2回の割合で試作を実施している。 試作費用は面積に比例しユーザー負担であるが、6万円程度から100万円程度までの範
囲である。

チップ試作会社     製造技術       備考日本モトローラ    CMOS 1.2μm ポリシリコン2層メタル2層 NTTエレクトロニクス CMOS 0.5μm ポリシリコン1層メタル2層ローム        CMOS 0.6μm ポリシリコン2層メタル3層 Sony/Intex      LPGA 0.6μm (近々開始)

 VDECのチップ試作では関係会社の支援による低価格化とともに、米国のMOSIS同様の「
相乗り効果」によるマスク作成コスト、ウェーハプロセスコスト等の低減を図っている。そのため各ユーザーの試作時期の同期をとる必要があり、試作会社ごとに年2回の設計締切を設定している。
 設計締切までにVDECに提出された設計を、VDECでは最終チェックするとともに、相乗りチップの形式(図2)に合成する。試作会社ごとに若干の差はあるが、合成したチップの設計データをマスクデータの形式に変換した後、試作会社へ送り試作を委託する。 チップ試作には約3ヵ月を要する。ただしLPGAが1ヵ月程度である。ユーザーへは「パッケージサンプル」(10個)と要求に応じ「ベアチップ」も提供している。 その他、VDECおよび上記のサテライトにはテスター等が設置されており、順次ユーザーに公開する予定である。また、セラミックパッケージで蓋があくものは、VDECの電子ビームプローバーを用いてチップ内信号の測定ができ、動作不良の解析が可能である。 収束イオンビームによる簡単な配線の修正もできる。

 VDECの実績

 これまでVDECに利用登録している全国教官数は300名を超え、大学数も120を超えている。利用登録大学の中で約半数が実際にCADの導入を行っている(図3)。 平成9年度には5月、8月及び3月に、東京、大阪、金沢、広島の各地区でCADツール
利用法・ライブラリー利用法のセミナーを企画実施し、9月と10月に分けテスター関係の技術セミナーを開催した。
 VLSI設計技術セミナーに関しては、米国のVHDL Initiativeや我が国の半導体理工学研
究センターと協力して3月に東京と大阪で米国から派遣された講師によるハードウェア記述言語VHDLを軸とした設計技術セミナーを実施した。 教材整備では、
 ? 論理合成・シミュレーション検証(上流設計) ? セルベースによる自動配置配線(中流設計) ? 会話型設計(下流設計)
の3つのカテゴリーに分け、それぞれをセンター提供のCADツールを利用しながら約2日
間程度で自習できる教材を開発し、順次センターから全国の教育関係者に発送する予定である。
 図4はVDECとその先行活動でのチップ試作数の推移を示したものである。試作チップ数は依然として増加傾向にある。

 将来計画

 今後も各CADツール利用法の技術セミナーを東京地区と地方拠点でそれぞれ開催するこ
とに加えて、VLSI設計を志す学生・若手研究者向けの「啓蒙セミナー」を企画・開催して行きたい。VDECで設計試作を経験している学生・若手研究者をコアとして未経験者を交えた情報交換の場を提供し、具体性をもった入門セミナーの開催や手引き書の整備充実を行うことが目的である。これにより自然な形で若いVLSI設計者の層を厚くし、情報交換の場を確立していきたい。

連絡先
東京大学大規模集積システム設計教育研究センター教授 浅田邦博
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel 03-3812-2111-ex6671
Fax 03-5800-5797

図1 VDECの組織
図2 相乗りチップの例
図3 利用車数
図4 VDECのチップ試作数


■第7回インテリジェント材料シンポジウム報告

科学技術庁金属材料研究所 小林幹彦

 未踏科学技術協会のインテリジェント材料フォーラムが主催するインテリジェント材料シンポジウムが、例年どおり青山学院大学の渋谷キャンパスで開催された。開催当日の3月19日は、たまたま青山学院大学の卒業式があり、学内全体が華やかな雰囲気で溢れていた。入口の辺りでは、あでやかな姿のお嬢さん達が順番に記念写真を撮っており、ちょっとその間を割って中にはいるのがためらわれるほどであった。 さて、肝心のシンポジウムであるが、2件の特別講演の後、2つの会場に分かれて32件の発表があった。高木俊宜会長の開会挨拶に続いて、まず政策研究大学院大学の藤正巌先生から、「生物機構からみた微小機械」という題目で特別講演があった。筋肉の動きの解明から始まり、微小世界ではランダムな分子の熱振動エネルギーを利用しているのではないかという仮説まで、説得力のある論旨で説明された。もう1つの特別講演は、新日本製鐵顧問の村田朋美氏で「資源の生産性を考える」という題目で、これまでの産業を貫いていたパラダイムが変革の時を迎えているということを、豊富なデータを交えて力説された。
 一般講演はA、Bの2つの会場に分かれて、それぞれ無機材料と有機材料を中心に発表がなされた。発表のすべてを聞けるわけでもないし、また聞いたとしてもそれぞれを紹介する紙面もない。以下にセッション名のみを示すので、内容をご想像していただきたい。 A会場 「光応答材料・光学特性」、「形状記憶合金・圧電材料」、「自己修復・機械的特性」、「表面・界面機能」
 B会場 「刺激応答性インテリジェント高分子材料」、「インテリジェント表面を持つインテリジェント材料」、「インテリジェントDDS」、「超構造インテリジェント材料」
 筆者は最近、米国のSmart Materialsに関するシンポジウムに参加する機会を得たが、
米国では軍事関係等の応用研究が多く、企業等も多数参加して熱気に溢れていた。本シンポジウムでは、直接の応用というよりも、さまざまな分野の研究者がいろいろなアイディアを出し合っているという感じで、小規模ではあるが米国とはひと味異なる静かな熱気のようなものが感じられた。


■日本MRS「ウッドセラミックス研究会」と連携強化

 ウッドセラミックスをはじめ木質材料に関する研究グループは、青森県工業試験場・岡部敏弘氏を中心にIUMRS-ICA97でシンポジウムを開催するなど、これまでにも日本MRSの中で活発な活動を展開してきた。
 1998年4月13日、日本MRS・吉村昌弘会長は林野庁を訪問し、高橋勲長官はじめ、技術
開発室・青木勇一郎室長、研究普及課・須崎幸男課長、平沼孝太課長補佐らと懇談を行った。
 長官からは「林野庁ではこれまで木材だけの研究にしか取り組んでこなかったため研究も行き詰まっている状態にあり、また、業界も大変な苦境に立たされている。その点で、日本MRSの横断的な学術活動に大変な興味があるので、今後とも協力指導をお願いしたい
」と要望があり、また吉村会長は「材料は歴史的に見ても百年単位の長期展望に基づくべきであり、木材など天然材料との調和も必要である」との見解を示した。 林野庁では、現在環境材料として「ウッドセラミックス」を題材とした研究組合のほか、4組合を運営しており、そこで、環境材料としての植物系材料を横断的な視点から検討することを目的に、日本MRSの会員で「ウッドセラミックス研究会」を発足させた。
 会長には東京農工大学の伏谷賢美教授、副会長には職業能力開発大学校の須田敏和教授が、また、顧問には日本MRS前会長の東京大学・山本良一教授、現会長の吉村昌弘東京工
業大学教授、姫路工業大学の木原諄二教授、東北大学名誉教授の齋藤好民教授が就任する。日本MRSの環境材料の部門で今後、積極的に林野庁と連携して活動を進めることにして
いる。興味ある方は、是非「ウッドセラミックス研究会」にご入会下さい。(事務局:三木雅道・姫路工業大学工学部/Tel & Fax:0792-67-4925;e-mail:miki@ esci.eng.himeji-tech.ac.jp)

写真 林野庁で懇談する高橋勲長官(左)と吉村昌弘会長(右)


ご 案 内

■日本MRS第10回年次総会・学術シンポジウム
 -新材料・新素材、その環境調和へ向けて-

日時:1998年12月10日(木)?11日(金)
場所:かながわサイエンスパーク(川崎市高津区)シンポジウムのテーマおよびチェア(Fax,E-mail)

1.材料と歴史・・科学史から学ぶ来るべき世紀

杉山滋郎(北大)、加納誠(東理大、03-5261-1023、[email protected]
2.材料と環境の矛盾の解決に向けて
高須芳雄(信州大、0268-22-9048、[email protected])、吉葉正行(都立大)、吉村昌弘(東工大)、柴田清(東北大)、江口晧一(九大)、三木雅道(姫工大)
3.水処理と材料・・きれいな水を作る材料はあるのか
仲川勤(明治大、044-934-7906、[email protected])、谷岡明彦(東工大)、山村弘之(東レ)
4.自己組織化材料・・その可能性と限界
加藤隆史(東大、03-3818-4868、[email protected])、関隆広(東工大)、重里有三(青山学院大)、多賀谷英幸(山形大)
5.酸化物ヘテロ構造・・新しい電子デバイスへの挑戦
鶴見敬章(東工大、03-5734-2514、[email protected])、吉本護(東工大)
6.クラスターの物性と応用・・クラスターから実用材料を作る
今福宗行(新日鉄)、山根治起(沖電気)、小田克郎(東大、03-3402-6350、[email protected]
7.計算材料科学のフロンティア
香山正憲(大工技研、0727-51-9627、kohyama@onri・go.jp)、川添良幸(東北大)、渡辺聡(東大)
8.マテリアルズフロンティア(「ポスター」)
伊熊泰郎(神奈川工大、0462-42-8760、[email protected])、前野仁典(沖電気)、安中正彦(千葉大)、鈴木淳史(横浜国大)
シンポジウムの開催趣旨、scope、招待講演等については日本MRSのホームページをご参照下さい。

発表論文募集中(アブストラクト提出期限1998年9月末日)です。
希望される方は、研究題目・発表者氏名・所属・連絡先・口頭/ポスター希望を直接各シンポジウムチェアに連絡してください。
参加費:会員6,000円、非会員10,000円、学生1,000円(要旨集なし)
申込み/問合わせ先:日本MRS事務局(Tel 044-819-2001、Fax 044-819-2009)


■日本MRS協賛の研究会等

◇エコデザインのための実践的LCAコース

神奈川科学技術アカデミー主催、1998年5/26、6/2、6/9、6/16(4日間)、
問合わせ先:神奈川科学技術アカデミー
Tel 044-819- 2033、Fax044-819-2026、E-mail [email protected]
 
◇平成10年度第2期教育講座材料工学コース
(財)神奈川科学技術アカデミー主催、8月26日〜9月1日、
問合わせ先 (財)神奈川科学技術アカデミー教育部教育研修課
Tel 044-819-2033
◇第12回International Conference on Ion Implantation Technology(IIT98)
1998年6月18?19日、都ホテル(京都)、
問合わせ先:京大イオン工学実験施設・山田 公、
Tel075-753-5971、e-mail [email protected]
 
◇第10回ISTEC国際超電導ワークショップ
(財)国際超電導産業技術研究センター主催、
1998年7月12日(日)〜15日(水)、沖縄ハーバーヴューホテル、
問合わせ先 ISTEC国際部、
Tel03-3431-4002、Fax 03-3431-4044
◇JSPS International Workshop on Design and Soft Solution・Processing of Advan ced Inorganic Materials
日本学術振興会主催、1998年8月20日(木)〜21日(金)、東京工業大学総合研究館(長津田)、
問合わせ先 東京工業大学応用セラミックス研究所・吉村昌弘、
Tel 045-924-5323、Fax 045-924-5358
 
◇第4回磁性材料の物理的諸問題国際シンポジウム
日本応用磁気学会主催、1998年8月23?26日、仙台国際センター、
問合わせ先:東北大金属材料研究所 藤森研究室内・高梨弘毅、
Tel022-215-2098、e-mail [email protected]
 
◇第4回固体内照射効果の計算機シミュレーション国際会議(COSIRES-98)
1998年9月15〜19日、岡山国際会議センター、
問合わせ先:堂山昌男、
Tel 0554-63-4411、Fax 0 3-3310-0931
◇The 4th International Conference on Intelligent Materials(ICIM'98)
1998年 10月5?7日、新日鉄幕張研修センター、
問合わせ先:未踏科学技術協会(担当津田)
Tel 03-3503-4681、Fax 03-3597-0535、e-mail [email protected]
 
◇第3回エコバランス国際会議
1998年11月25?27日、工業技術院筑波研究センター共用講堂(つくば市)、
問合わせ先:未踏科学技術協会(担当 松尾、津田)
Tel/Fax/E -mail(上記)

■IUMRSメンバーMRS等のMeeting

◇E-MRS Spring Meeting

1998年6月16〜19日、Strasbourg、
問合わせ先:E-MRS
Tel 33-3-88-10-63-72、Fax 33-3-88-10-63-43、[email protected]
 
◇IUMRS-ICEM-98
1998年8月24〜27日、韓国済州島、
問合わせ先:MRS-Korea
Tel 82 -2-880-7167 Fax 82-2-884-1413 icem98@plaza・.snu.ac.kr
 
◇IUMRS-ICA-98
1998年10月13〜16日、インド・バンガロール、
問合わせ先:MRS-India
[email protected]
◇MRS Fall Meeting
1998年11月30日〜12月4日、ボストン、
問合わせ先:MRS
Tel724 -779-3003 Fax724-779-8313 http://www.mrs.org/
 
◇MRS Spring Meeting
1999年4月5〜9日、サンフランシスコ
 
◇IUMRS-ICAM-99
1999年5月30日〜6月4日、北京、
問合わせ先:C-MRS
Tel/Fax 86- 10-68428640、[email protected]
 

編集後記

 これからの近代化社会はどうなって行くのだろうか。 経済の側面からすれば、製品の製造だけでなく形のないものが経済活動に大きく寄与し、いわゆるソフト化経済へと発展しております。技術革新とともに工業化社会から情報化社会へと変化しソフト化経済を進行させております。このように社会の構造が変化すると、人間の暮らしも、価値観も大きく変化し、物づくりに対しても、モノに対する考え方も変化して来ております。
 21世紀は工業化社会から情報化社会へと本格的に変化する時代と考えられます。 エネルギー多消費型、大量生産・消費、機械の発達から省エネルギー・省力型、適量生産・消費型、制御システム化型へと移行すると思われます。これらの工業化社会から豊かな情報化社会へと進行する要素はテクノロジー、システム化技術とエレクトロニクス等のさらなる技術革新が必要です。
 以上の基盤技術は新素材、材料工学、半導体工学等であり、日本MRSに期待して戴きた
いと思います。(大山昌憲)

 平成10年度 日本MRSニュース編集委員会
委員長:山本 寛(日大理工)
委 員:大山昌憲(東京高専)、岸本直樹(金材研)、館泉雄治(東京高専)、寺田教男(電総研)、林 孝好(NTT入出力システム)、藤田安彦(都立科技大)事務局:縣 義孝(千代田エイジェンシー)、清水正秀(東京CTB) 皆様からの気軽なご投稿を歓迎いたします。連絡先は山本委員長までお願い致します。
Tel 0474(69)5457、Fax 0474(67)9683
E-mail:[email protected]


To the Overseas Members of MRS-J

Greetings from a Newly Appointed Vice・President of MRS-J
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1
Prof. Dr. Isao Yamada, Ion Beam Engineering Experimental Laboratory, Kyoto University
 Recent materials research sounds like an adventure of new worlds. Many type s of high technology equipment and machines are working days and nights and th eir large displays show colorful figures and characters. Many challenging sub jects have been achieved. There are so many subjects to attract young scienti sts in these fields.
 In order to create so-called new materials. still we need many kinds of to ols which can control atoms and molecules in a precise manner. I believe that without developing such new process technologies new materials will not be cr eated. A well-known saying says that "New wine must be stored in new wine skins !" Let's make new materials by new process technology.

Ultra・miniature Quartz Crystal Resonators Formed Using
Photolithography・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.2
Mr. Hirofumi Kawashima, Piedek Technical Laboratory
 Ultra-miniature quartz crystal resonators which are formed using photo・lit hographic technology are described. Since the technology makes it possible to form resonators of complicated shapes. it can provide small-sized and low l oss resonators with excellent frequency temperature behavior. Actual resonato r shapes with vibration mode are introduced, whose resonators are designed by finite element method.
 
VDEC:The Center of VLSI Design Education in Japan・・・p.4
Professor Dr. Kunihiro Asada, VLSI Design and Education Center, The Univers ity of Tokyo
 VLSI Design and Education Center (VDEC) was established in 1996 as an inter-university center at the University of Tokyo for promoting education of VLSI design in Japan (Historically, its concept was intensively discussed i n early 1980's. Unfortunately it was not realized because of some econom ical situations in the middle of 1980's in Japan). VDEC is a kind of CE O of VLSI design education, which covers mainly three functions;(1) providing educational information for VLSI design,(2) providing CAD software tools and (3) supporting implementation of VLSI chips. Now, more than 300 teaching s taffs in Japan are registered as users. Number of chips implemented through V DEC in 1997 was about 150, that is still increasing this year.

The 7th Intelligent Materials Symposium・・・・・・・・・・・・p6
Dr. Mikihiko Kobayashi, National Research Institute for Metals
 The 7th Intelligent Materials Symposiu, sponsored by the Society of Non-Traditional Technology (MITO), was held on March 19th, 1998, at Aoy ama Gakuin University, in Tokyo. Two invited lectures,"Micromachines desi gned by principles of biomechanism" by Professor Iwao Fujimasa of National Gr aduate Institute for Policy Sudies and "Productivities of the Resources" by Dr. Tomomi Murata of Nippon Steel Corporation were presented. Concurrent ses sions regarding to inorganic and organic materials were held and 32 papers were presented: these included were photosensitive materials and their properties, shape m emory alloy and piezoelectric materials, self-repairing and mechanical properties, surface and interface functions, intelligent polymers with stimulation-responsibility, materials with intelligent surface, intelligent DDS and hyper-structural intelligent materials.
 

The Japan Wood Ceramics Research Association
Established・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p6
 In order to develop a high-performance environmentally friendly plant materials, The Japan Wood Ceramics Research Association has been established in cl ose relation with MRS-Japan. Professor Fushitani of Tokyo University of Agri culture and Engineering has been named as the first president. For further in formation contact Prof. Masamichi Miki, Himeji Institute of Technology,  tel & fax 0792-67-4925, e-mail [email protected]
 
10th MRS-J Annual Symposium・・・・・・・・・・・・・・・p6〜7
 The 10th MRS-J Annual Symposium will take place December 10 - 11 1998, at Kanagawa Science Park, Kawasaki-shi. Following 8 sessions are scheduled: Material andHistory/MateriaDevelopmentandEnvironment-Trade off probl ems?/Materials for Water treatment/Self-organization Material/Oxide Hetero-structure/Property and Application of Cluster Materials/Computer-assisted Mate rial Science/Frontier of Materials.
 
IUMRS Meeting・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p7
・E-MRS Spring Meeting
    Date & Venue June 16-19, 1998, Strasbourg, tel 33-3-88-10-63-72 fax 33-3-88-10-63-43 e-mail [email protected]

・IUMRS-・ICEM-98
    Date & Venue August 24-27, 1998, Korea, tel 82-2-880-7167, fax 82-2-884-1413 e-mail [email protected]

・IUMRS・ICA・・・
    Date & Venue October 13-16, 1998, India, e-mail [email protected]

・MRS Fall Meeting
Date & Venue November 30 - December 4, 1998, Boston, http://www.mrs.org/

・MRS Spring Meeting
    Date & Venue April 5 - 9,1999, San Francisco

・IUMRS-ICAM-99
    Date & Venue May 30 -June 4, 1999, Beijing, tel & fax 86-10-68428640, e-mail [email protected]