日本MRSニュース Vol.12 No.4  Nov. 2000

やあこんにちは

ラテンアメリカ・プラズマ材料プロセシング・コース

 名古屋大学大学院工学研究科・教授 高井 治 

  地理的に日本から一番遠い国がアルゼンチンである.一昨年,日本とアルゼンチンは修好100周年を迎えた.ちなみに,アルゼンチンMRS(MRS-A)は,IUMRSのメンバーになった.このアルゼンチンにおいて,3年前より,日本の国際協力事業団(JICA)の支援により,ラテンアメリカ・プラズマ材料プロセシング・コース(Curso Latenoamericano de Procesamiento de Materiales por Plasma)が開催されている. アルゼンチンの正式国名は「アルゼンチン共和国」.人口は約3,300万.人口の2倍以上の牛口?がある( 牛がいる).このため牛肉の値段の安いこと.炭火で焼いた,厚さ2センチで500グラム位のステーキが,1,000円ほどで食べられる.調味料は塩だけで,軟らかくおいしい.牛,豚,鳥,魚と,肉の値段は高くなり,ちょうど日本の反対である.サッカーの強いこととタンゴは有名.公用語はスペイン語.面積は約280万平方キロメートルで日本の約8倍.日本と同様に南北に長く,約3,600キロメートル(東西は約1,700キロメートル).このため,北は亜熱帯の密林地帯から,南の南極に近い亜寒帯のパタゴニアまで多彩な気候や地理状態の場所がある.時差は12時間.季節は日本の反対で,日本の真夏がアルゼンチンでは真冬となる.日本から直行便はなく,乗り継いで約30時間かかる(搭乗時間で約24時間).日本人のアルゼンチンへの移住は1907年に始まり,現在,日系人および在留邦人が約35,000名暮らしている(全人口の約0.1%).国内の産業を発展させるため,日本から200万ないし300万人,移住してほしいと,前大統領が言ったとか. 
  首都はブエノスアイレスで,よい空気という意味.現在は車の排気ガスのため,あまりよい空気とはいえない.しかし,青くきれいな空が広がる.ラ・プラタ(銀)川に面しており,対岸はウルグアイ国である.川といっても海のようで,対岸は見えない.ほぼ平地で,高い山は市内には全くない.首都圏に約1,200万人が住み,人口の首都圏集中が問題である.今世紀初頭には,世界有数のお金持ちの国になり,「南米のパリ」と呼ばれる町を作った.ロココ調,バロック調,ゴシック調などの優美な建物,教会が見られる.市内には地下鉄が5路線あり,日本の地下鉄より歴史は古い.車両も古く,歴史を感じさせる.最近,東京や名古屋の地下鉄の古い車両が再利用され,好評となっている. このブエノスアイレスで標記のコースが開かれている.本年で第3回目を迎えた(毎年1回開催し,5年間行う予定).JICAが,ラテンアメリカ諸国の技術者・研究者16名を,ブエノスアイレスに招き,国立原子力委員会(CNEA)の研究機関で,1か月にわたり,「プラズマによる材料の表面処理技術」の基礎と実習を学ぶようになっている.JICAが,旅費,滞在費,講師派遣などを支援し,CNEAが場所,講師,実習などを提供している.今年は,7月31日より8月25日まで行われた.私は,後半の2週間のコースに参加し,講義を行ってきた.参加者は,ブラジル1名,チリ2名,キューバ2名,メキシコ3名,ベネズエラ2名,ペルー2名,コロンビア4名であり,アルゼンチン国内からも2名の参加があった.キューバからの参加は今年が初めてである.私は毎年参加しているが,参加者の熱意・学習意欲は高く,講義・実習に熱心に取り組んでいる.
  ラテンアメリカには,「明日できることは明日しよう」という,私の大好きなことばがあるが,コースの参加者は異なっている.1ヶ月近くコースに参加していると,皆,お互いに親しくなる.帰国後の交流もなされており,国際親善の良い場となっている.本コース以前には,筑波大の河辺隆也先生とCNEAのA.Rodrigo先生の協力により,同じテーマでJICAのミニプロジェクトが3年間行われ,日本よりCNEAへ,プラズマを用いた表面処理技術の移転がなされた.この際,プラズマPVDおよびCVD装置,薄膜評価装置などの供与も行われた.このミニプロジェクトの成果を生かし,CNEAを通じ,アルゼンチン国内およびラテンアメリカ諸国に,さらに技術移転を行うことを目指している.
   プラズマを用いた表面処理技術について,ラテンアメリカ諸国でも関心は大変高い.切削工具,自動車部品を中心にドライ表面処理は実際に行われており,産業の基礎技術として重要になっている.まだまだ産業の規模は小さいが,毎年確実にレベルは向上し,普及していることが伺える.現在,ラテンアメリカ諸国は,各種材料技術について日本の支援を求めている.距離的には遠い国ではあるが,日本製品は多く使われており,日本からの技術移転は強く望まれている.


■トピックス

カーボンナノチューブの電界放出型電子源への応用

三重大学工学部 教授 齋藤 弥八

1.はじめに 
 カーボンナノチューブは,C60フラーレンの副産物として,アーク放電の陰極堆積物中に発見された。それから10年近い時が経過した現在では,ナノチューブはフラーレンよりも注目され,益々研究が盛んになっている。その理由は,エレクトロニクスからエネルギーまで非常に広い分野への応用(表1)が期待されているからである1)。
  樹脂に導電性を持たせるための添加材,走査プローブ顕微鏡の探針などのように,既に実用化の段階に入った応用もある。他方,エネルギー分野において最近注目されている水素吸蔵,二次電池,スーパーキャパシターへの応用に関しては,まだ今後の研究開発の発展を待たねばならない。ここでは,ナノチューブを電子放出素材として利用した電界放出型ディスプレイ(Field Emission Display, FED)の研究開発について紹介する。

分野                                                                         応用

複合材料                 樹脂の強化 伝導性複合材料 セラミックスの強化 金属の強化 C/C 複合材料

エレクトロニクス         トランジスタ ダイオード 配線

電子源                     電界放出型電子源 ディスプレー(CRT,FED,VFDなど) マイクロ波増幅器 工業用/研究用各種電子線装置

ナノテクノロジー         走査プローブ顕微鏡(STM,AFM等)の探針 ナノスケール加工機械 ナノメカトロニクス構成部品

エネルギー                 水素貯蔵 二次電池の電極材料 スーパーキャパシタ

化学                         ガスセンサー 触媒およびその担体 有機化学の原料
    表1 カーボンチューブの応用分野

2.カーボンナノチューブと電界放出
  カーボンナノチューブの製造法としては,炭素アーク放電,炭素のレーザー蒸発,炭化水素ガスの熱分解およびプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などが現在知られている.特に,アーク放電やレーザー蒸発法により得られるナノチューブは構造の完全性が高く,優れた機械強度と電気伝導性を有している.  ナノチューブには,単層ナノチューブ(single-wall nanotube, SWNT)と多層ナノチューブ(multiwall nanotube, MWNT)の2種類がある2).SWNTは一枚の炭素六角網面が円筒状に閉じたチューブでその直径はわずか 1 〜 3 nm である.MWNT はこの円筒が多層に積み重なったチューブで,外径は 5 〜 50 nm,中心空洞の直径は 3 〜 10 nmである.どちらのチューブも長さは 10μm を超え,大きなアスペクト比を持つ.
  針状炭素からの電子の電界放出はカーボンナノチューブが注目される随分前から研究されていたが3,4),実用には至らなかった.ナノチューブからの電界放出の最初の報告は1995年になされ5,6),この時すでにディスプレイデバイス用の電子放出素材として,その応用が提案されていたが,工業材料としての取扱いや製造プロセスの困難さのため,物理現象そのものに対する興味の域を出なかった.しかし,1998年に,伊勢電子工業と筆者の共同研究によりナノチューブ冷陰極をもつ発光ディスプレイが初めて試作され,実用の可能性が示された7).これを契機にサムソン(韓国)をはじめ多くのディスプレイメーカーもナノチューブFEDの研究を開始した.

3.カーボンナノチューブの電界放出素材としての特性
  固体表面に強い電界がかかると,電子を固体内に閉じ込めている表面のポテンシャル障壁が低くかつ薄くなり,電子がトンネル効果により,真空中に放出される.この現象を電界放出という.電界放出を観測するには,107V/cm(1 V/nm)オーダーの強い電界を表面にかけなければならない.このような強電界を実現するために,通常は先端を鋭く尖らせた金属針が用いられる.その針に負の電圧を掛けると,尖った先端に電界が集中し,必要とされる強電界が得られる.
  カーボンナノチューブは (1) 鋭い先端と大きなアスペクト比を持ち,(2) 化学的に安定で,(3) 機械的にも強靭で,さらに (4) 原子の拡散がなく高温での安定性に優れている,もちろん (5) 導電性をもつなど,電界放出のエミッター材料として有利な物理化学的性質を備えている.

4.ナノチューブFEDへの応用
4.1 発光デバイスの試作

  当初,未処理のMWNTがそのまま導電ペーストで電極ベースに接着されていたが,現在は,安定な電極形成と大面積への均質な電極を形成を可能とするスクリーン印刷法や吹付け法が用いられている。また,CVD法でナノファイバーを作る場合には,シリコンやガラスの基板に触媒金属の薄膜をパターンニングしておけば,パターンに沿ってナノファイバー陰極を直接得る事もできる。 
  最初に試作されたディスプレイ素子は,屋外大型表示用の画素として実用されている高電圧型蛍光表示管をベースに,そのフィラメント状熱陰極の代わりにカーボンナノチューブ冷陰極を配置したものである。
  図1に示すように,この発光素子は陰極,グリッドおよび陽極(蛍光スクリーン)からなる三極真空管の一種である。試作されたナノチューブ陰極は,電流密度で 0.1〜1 A/cm2 を取り出すことが可能で,また,寿命試験においても10,000 時間以上の安定動作が確認され,カーボンナノチューブが電界放出材料として実用可能であることが示された。

図1 カーボンナノチューブを冷陰極に持つディスプレイ素子

4.2 フラットパネル化
  カーボンナノチューブを用いた平面ディスプレイの実現までには,幾つもの課題があるが,それらの中で最も大きな課題は駆動電圧の低減と,電子放出面の均一化である。MWNTを用いた二極型FEDパネルの試作は1998年に伊勢電子工業によりはじめて報告され8),1999年にはSWNTを用いたカラーの二極型FEDパネルの試作がサムソンから発表された9)。
  サムソンの二極型カラーFEDパネルは,スクリーンサイズが対角9インチ,ピクセルサイズは0.54 mm×0.32 mmである.200 cd/m2の輝度で動画が映し出されている.さらに最近,三極型のカラーFEDパネルも伊勢電子工業により試作された10)。そのパネル構造を図2に示す。スクリーンサイズは66 mm×66 mm,ピクセルサイズは3.0(RGB)mm×2.54mmである.陽極電圧 6kV,陰極電流密度 1 mA/cm2において,105 cd/m2を超える極めて明るい輝度が得られているが,表示画面がまだ荒いので,その改善が課題となっている.

図2 カーボンナノチューブ陰極を用いた平面ディスプレイの 構造

5.むすび
 
 ナノチューブ電界放出電子源は,シリコンやモリブデンで作られたスピント型エミッタ11),ダイヤモンド(あるいは“DLC”と呼ばれるダイヤモンド状炭素)薄膜12)などの従来の電子放出素材に比べ,電流密度,駆動電圧,頑健さ,寿命などの特性において総合的に優れている。ディスプレイに限らず,今後,マイク波増幅器,電子線照射装置など産業用電子源,研究用の種々の電子源にナノチューブが利用されるものと期待される。
   電界放出電子源は,熱陰極とは異なり陰極を加熱する必要がないので,消費電力が低く,かつ高い電子電流密度を得ることができる。さらに,電子源に使用さる炭素は資源としては無尽蔵であり,環境にも悪影響はない。このようにカーボンナノチューブ電界放出電子源は省資源,省エネルギー,環境適合性など,今日の社会的要請に応えるものである。

参考文献
 1) 齋藤弥八,固体物理 35 (2000) 印刷中 
 2) 齋藤弥八,坂東俊治;カーボンナノチューブの基礎(コロナ社,東京,1998)
 3) F. S. Baker, A. R. Osborn and J. Williams; Nature, 239 (1972) 96
 4) S. Yamamoto, S. Hosoki, S. Fukuhara and M. Futamoto; Surface Sci., 86 (1979) 734
 5) A. G. Rinzler, J. H. Hafner, P. Nikolaev, L. Lou, S. G. Kim, D. Tomanek, P. Nordlander, D. T. Colbert and R. E. Smalley; Science 269 (1995) 1550  
 6) W. A. de Heer, A. Ch液elain and D. Ugarte; Science 270 (1995) 1179
 7) Y. Saito, S. Uemura and K. Hamaguchi; Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) L346
 8) S. Uemura, T. Nagasako, J. Yotani, T. Shimojo and Y. Saito; SID '98 Digest, pp. 1052-1055.
 9) W. B. Choi, D. S. Chung, S. H. Park and J. M. Kim, SID'99 Digest, pp. 1134-1137
10) S. Uemura, J. Yotani, T. Nagasako, Y. Saito and M. Yumura; Proc. Euro Display '99 (19th IDRC), pp. 93-96
11) C. A. Spindt, I. Brodie, L. Humphrey and E. R. Westerberg: J. Appl. Phys. 47 (1976) 5248.
12) W. Zhu, G. P. Kochanski and S. Jin: Science 282 (1998) 1471.


■研究所紹介

東京電力技術開発センター

東京電力株式会社 技術開発本部 研究支援G 吉澤 純一

1.はじめに
  東京電力の研究開発への取り組みは、昭和34年に社長直属の機関として技術研究所が設置されたことにはじまります。昭和40年には原子力開発本部が新設されたことに伴い、原子力に関した研究開発を担当する原子力開発研究所が誕生しています。その後組織の改編等を経て、昭和60年に、当社の研究開発を統括する技術開発本部が組織され、その体制のもとに、技術研究所、開発研究所、原子力研究所が新たな枠組みとして誕生しました。また昭和62年には、情報通信社会の進展に伴いシステム研究所が新設され、現在の体制の基礎が築かれました。
   当時は、まだ都内3カ所に分散された体制で研究開発に取り組んでいました。その後、技術開発の効率化、総合力の発揮のために、平成6年10月、横浜市鶴見区の変電所跡地に技術開発センターが建設され、4研究所が1カ所に集結しました。
  本稿では、当技術開発センターの概要を紹介するとともに、特に材料開発に関連の深い3研究グループ(材料G、超電導G、物質科学G)の取り組みについて紹介いたします。

2.技術開発センターと4研究所の概要
  技術開発センターの敷地は4万6千m2程あり、その中に、2棟の研究施設と1棟の会議施設が設置されています。

        図1 技術開発センターの全景

 技術開発センターは、電力技術研究所、エネルギー・環境研究所、システム研究所、原子力研究所の4研究所から成り立っています(図2)。 
(1)電力技術研究所では、電気を発電所からお客様にお届けするまでの送電線、変電所、配電線など電力流通設備に関わる研究を中心に、電気の合理的な使い方の研究、電力系統の安定運転に必要な系統解析や電力設備の土木、建築、耐震設計、材料などの幅広い分野について、基礎的な研究から実用化に至るまでの研究開発に取り組んでいます。
 (2)エネルギー・環境研究所は、火力発電を中心とした既設電源の効率向上・寿命延伸技術開発、マイクロガスタービン/燃料電池等の分散電源や電力貯蔵(NAS電池)による新パラダイムへの挑戦と新規事業への対応、さらにCO2固定・有効利用など環 境に配慮した循環型社会を目指した技術開発に取り組んでいます。 
(3)システム研究所は、最先端のコンピュータ技術や高度情報通信技術を応用し、ニーズ・シーズを先取りした研究開発を推進しています。また21世紀のマルティメディア社会の到来に向け、新しいエネルギー・情報社会の創造と円滑なコミュニケーションづくりを目指した、様々な先端技術の研究開発に取り組んでいます。 
(4)原子力研究所は、原子炉の保守・点検性の向上や経済性の向上を目指した軽水炉研究をはじめ、人間と機械の調和を目指したヒューマンファクター研究や、将来の高速増殖炉を含めた原子燃料サイクルの確立に向けた研究など原子力発電に関わる幅広い研究開発に取り組んでいます。

       図2 技術開発センターの組織

3.材料に関連した研究開発 
  (1) 電力技術研究所 材料グループ  材料グループでは、火力・原子力発電設備や送変電設備等に使われる部材に発生する材料問題について、設備ユーザの立場から試験、研究を行っています。 
  材料問題は、材質、荷重(応力)、環境の相互作用により発生しますが、これらの組み合わせにより種々の損傷が現れます。例えば火力発電設備材料では高温・高圧の蒸気、あるいは燃焼ガスの下でクリープ、疲労、脆化などの損傷が生じます。経年化した機器においては非破壊的な手法を用いて定期的に損傷状況を把握し、設備の安全性を確保することが求められます。
   材料グループでは、実機で使用された材料の劣化状況をクリープ試験などの材料試験により評価するとともに(図3)、様々な非破壊的な手法によって評価した結果と比較することにより、余寿命診断手法の精度向上を目指した研究に取り組んでいます。これまでボイラや蒸気タービン等の汽力発電機器材料(主に低合金鋼)について研究し、その成果は設備の信頼性向上や寿命延伸に活かされてきましたが、近年のコンバインドサイクル発電設備の急増に対応してガスタービンの高温ガス通路部品(Ni基、Co基等の超合金)の寿命評価に関する研究も精力的に行っています。

   図3 クリープ試験装置                         図4 低歪速度引張試験装置

 原子力発電設備については原子炉および炉内構造物の応力腐食割れなど環境が関与した材料劣化のメカニズムを解明するとともに、機器の寿命評価を可能とするための研究開発を行っています。現在、腐食疲労試験装置や低歪速度引張試験装置(図4)などを用いて高温高圧水環境中での応力腐食割れおよび腐食疲労の発生・進展挙動に関する基礎データを取得しています。これらのデータは、発電プラントにおける炉内構造物の補修および取り替え時期の最適化とともに、プラントの長寿命化にも活用されています。また社外の放射線物質を取扱える設備において、放射線環境下における材料劣化特性の把握、放射線照射を受けた材料の補修技術の開発を実施しており、その成果は炉内構造物の補修などに活用されています。
  この他、例えば送電設備についても送電線の腐食事象の解明、腐食環境のモニタリング技術の開発研究等を行っています。

(2)電力技術研究所 超電導グループ
  超電導グループでは、高温超電導線材を使った電力機器応用(ケーブル、限流器)の研究を行っています。一般に超電導線材は、直流電流に対しては抵抗を発生しないので損失はないのですが、交流電流に対しては交流損失と呼ばれる損失を生じます。高温超電導線材とはいえ、沸点が非常に低い液体窒素を冷媒として使用する事から、損失の低減は非常に重要な課題となっています。
  一般に用いられる(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3O10銀シース線(Bi2223線材)は、断面形状がテープ状(幅3mm、厚さ0.3mm程度)をしており、銀合金の母材中に多数のBi2223フィラメントが埋め込まれた多芯構造をしています。この線材を超電導ケーブルに適用する場合には、中空のパイプの周りに多層に巻きつけた構造となりますが、この場合各層のインダクタンスのアンバランスにより電流が外層に集中します。これを防ぐため、テープ状線材の代わりに丸型線材を使用し、これを多数本撚り合わせて転位構造とすると、線材レベルでの損失低減を図ることが可能となり、大きな損失低減が期待できます。これまでに、線材の断面構造や圧延工程などを工夫し、臨界電流密度(Jc)が104 A/cm2(77 K,0 T)とテープ線材に近い特性を持つ丸型線材を開発し、導体形状での損失低減を確認しています。
  交流損失低減のもう一つの方策は、ツイスト線材の開発です。通常の銀シース線は母材抵抗が小さいため、フィラメントの束が商用周波数の交流外部磁界に対して磁気的に結合して一つのバンドルとして振る舞います。これを防ぐため、超電導フィラメントをツイストしてフィラメント同士の結合電流を速やかに減衰させることで、損失を低減することができます。このため、高Jcを維持した、低損失型ツイスト線材の開発を進めています。

(3)エネルギー・環境研究所 物質科学グループ 
  物質科学グループでは燃料電池関連研究、腐食防食の基盤研究を題材にした材料研究に取り組んでいます。
   燃料電池に関する材料研究のうち、近年開発が進んでいる固体高分子型燃料電池については、耐久性に関わる電解質膜自体の温度履歴に対する影響評価等の基礎的知見取得に取り組んでいます。電池作動温度領域では膜の交換基自体は変質しないが、高分子主鎖の膨潤性低下によるクラスターチャンネルの形成が不十分になることにより膜抵抗が増加すること、また膜抵抗、最大含水率、イオン交換容量結果から膜劣化とイオン伝導の関係が把握可能であることを確認しています。 
  超高効率の発電プラントとなる可能性もある固体酸化物型についても評価研究しています。そのセルの耐久性に関しては交流インピーダンス法や試料分析により電解質、空気極、燃料極及びインターコネクタにおける各材料の劣化メカニズムを明らかにし、また、機械的信頼性に関してはセルの割れ、剥離といった課題についてその発生メカニズムを整理しています。またそれらの現状の抑制対策についても検討しています。 
  電力設備の腐食防食などの経年劣化に対応する技術は基盤技術として位置付け研究を進めています。火力発電設備では低圧タービン材料の腐食疲労に及ぼす応力・環境の影響を独自に開発した蒸気凝縮水質試験装置、乾燥・湿潤繰り返し腐食試験装置等を用いて評価しています。また火力発電機器における銅合金の応力腐食割れメカニズムを解明するとともに、防食管理のための使用薬品の選定,管理手法等の検討を行っています。

4.今後の取り組み 
  現在、東京電力では、研究開発においても効率的で効果的な投資を実現していく観点から、 @競争力を強化する技術開発Aお客さまへのサービスを拡げる技術開発 B長期的にエネルギーセキュリティを確保し、地球環境をまもる技術開発、といった3つの推進上の枠組みを設定し、研究開発テーマの重点化を図りながら研究開発に取り組んでいます。材料開発も当社の競争力を強化する重要な研究として、本稿で紹介いたしました研究課題を中心に、積極的な研究開発に取り組んでいきたいと考えています。

連絡先:東京電力株式会社 技術開発本部 研究支援グループ 吉澤 純一
〒230-8510 神奈川県横浜市鶴見区江ヶ崎町4−1 
電話 045-613-1111 Fax 045-613-3052


国際会議 IUMRS-ICA 報告 

日本大学理工学部 教授 山本 寛

 第6回IUMRS-ICA(International Union of Materials Research Societies-International Conferencein Asia)に参加した。ICAは1992年より隔年ご とにアジアのIUMRSメンバーによって主催されて来た。今回の会議はC-MRSの主催で、 Shuit-Tong Lee教授をチェアマンとして、7月23日(日)ー26日(水),香港城市大 学(City University of Hong Kong)において開催された。大学は香港市街の北,九龍 塘達之路駅側に位置し,こじんまりした大学ではあったが,新しい建物で,講堂・施 設はなかなか充実していた。
  香港周辺には材料研究グループが少ないこともあり,今回シンポジウム数は次の6 つに絞られた。
A: Advanced Electron Microscopy For Materials Science, 
B: Multiscale Materials Modeling, 
C: NanoScale Materials, 
D: Organic Electroluminescent Materials and Devices, 
E: Scanning Probe Microscopy for Materials Characterization, 
F: GaN and Related Wide Band Gap Semiconductors 
  この会議の参加者数は約300名であった。  また,同会場では併せて「ダイヤモンド」に関する会議も開催され,約200名の参 加があった。この分野における香港城市大学のShuit-Tong Lee教授のグループの活発 な研究活動に支えられたといえよう。
  さて、フラーレンの発見で有名なノーベル賞受賞者,H. W. Kroto教授による2回 にわたる招待講演が強く記憶に残った。彼のユーモアあふれる,巧みな語り口には定 評があるが,C60からナノチューブにいたる専門の話にはついつい引き込まれてしま った。また今回,TVやインターネットを通じて科学技術の啓蒙を目指しているとい う話も興味深かった。若い人達への熱いメッセージがひしひしと感じられた。我が国 においても、学会活動として社会に向けた啓蒙、教育的な支援活動は今後益々重要に なると思う。
  一方、会議の開催中,24日にICAの理事会が開催された。会員の皆さんにも関連す る話題を紹介しておきたい。当初,次回のICAは台湾で開催される予定であったが, IUMRS-ICEM(International Conference of Electronic Materials)2002が中国,西安 で開催されることとなったため,変則ではあるが,今回の理事会において ICA2003(MRS-Singapore)そしてICA2004(MRS-Taiwan)と決定された。詳細については いずれMRS-Jのホームページに掲載されるのでご注意頂きたい。
  また,今年新たにIUMRSメンバーとなったMRS-Singaporeは特別シンポジウムとし て、来年シンガポールにおいてICMAT(International Conference on Materials for Advanced Technologies)を開催する予定である。MRS-Singaporeの会長B. V. R. Chowdari教授は本年12月7日,MRS-J学術シンポジウムに参加され,ICMATについて アナウンスする予定である。是非、ご記憶頂きたいと思う。(ICMATの詳細については http://www.mrs.org.sg/icmat2001を参照されたし) この場を借りて,会員の皆様の 積極的な参加を呼び掛けたい。
  以上ここで簡単に紹介したように、従来から比較的サーキュレーションやアナウン スが悪いというご批判も漏れ聴いてはいるが、アジアにおける材料研究の発表の場と して、ICAの活動を今後一層ご支援頂ければ幸いである。


 


To the Overseas Members of MRS-J

Latin American Course on Plasma Processing of Materials

Dr. Osamu Takai, Professor, Graduate School of Engineering, Nagoya University

  The Third Latin American Course on Plasma Processing of Materials has been held at CNEA (Argentine Atomic Energy Commission), Buenos Aires, Argentina from July 31 to August 25, 2000. This course was supported by JICA (Japan International Cooperation Agency) and CNEA. JICA invited sixteen engineers and researchers from Latin American countries to the course. At the course they learned the theory and practice of surface treatment of industrial materials by plasma processing (PVD, CVD, surface modification, etc). International cooperation on materials processing becomes important to improve our future lives.

 

Applications of Carbon Nanotubes to Field Emission Cathodes

Prof. Yahachi Saito, Department of Electrical and Electronic Engineering, Mie University

  Various kinds of applications of the carbon nanotubes have been reported and tried because carbon nanotubes have the unique physical, mechanical and chemical properties. We manufactured the first practical cathode ray tube lighting elements with carbon nanotube field emitters. Stability of the total emission current was excellent, even at a high current. The lifetime is in excess of 10,000 hours. The advantages of carbon nanotube field emitters are the high current density, low driving- voltage, long lifetime compared with other field emitting materials reported previously. Recently, flat-panel displays using nanotube field emitter have also been developed. Although the pixels are not fine enough at this stage, the brightness of the panel display has shown a new possibility of the carbon nanotube field emitters. Field emitters are energy-saving compared with thermionic ones because no heating is necessary to emit electrons. Moreover, carbon nanotubes are made of carbon only and are free of any precious and/or hazardous elements. Therefore, carbon nanotube cathodes are environmentally friendly as well as economical.

 

R&D Support Group, Engineering Research & Development Division, Tokyo Electric Power Company

Junichi Yoshizawa Manager

   Tokyo Electric Power Company (TEPCO) R&D Center, established in October 1996 in Yokohama city, consists of four R&D Centers;Power Engineering R&D Center, Energy And Environment R&D Center, Computer & Communications R&D Center, and Nuclear Power R&D Center. TEPCO R&D Center executes, 1)Technology development to strengthen our competitiveness, 2)Technology development to expand customer services. 3)Technology development to ensure long-term energy security and that to preserve global environment, and carries out their related technical development. Historical overview and the current state of its material studies are introduced in this paper.

 

Report of IUMRS-ICA2000

Hiroshi Yamamoto, Prof. of Nihon University

  The 6th IUMRS-ICA was held on 23-26 July in City University of Hong Kong, Hong Kong, China. The following 6 symposia were opened; A: Advanced Electron Microscopy For Materials Science, B: Multiscale Materials Modeling, C: NanoScale Materials, D: Organic Electroluminescent Materials and Devices, E: Scanning Probe Microscopy for Materials Characterization, F: GaN and Related Wide Band Gap Semiconductors. The number of the attendants was about 300. The ICA2000 committee meeting was held during the conference. In the meeting it was determined that the next ICA2003 will be held in Singapore .