日本MRSニュース Vol.13 No.3  August 2001

やあこんにちは

「物質と材料」

超電導工学研究所
所長 田中 昭二

 1986年に高温超電導が発見され、世界にフィーバーが起きた。とにかく液体 窒素温度で超電導現象が起こるということで、実用化について、実に多くの夢 が語られた。そのころ、ある企業人が私に「高温超電導はまだ物質の段階で、 これを材料にするには、相当時間がかかりますよ。」と言った。
 その後10年を経過し、確かに臨界温度は135Kにまで達したが、高温超電導の 実用化の目途は立ったとは言えない状況であり、当初の楽観論は影をひそめて いった。確かにこの物質群は永い固体物理学の歴史上、はじめて出会った奇妙 なものであり、調べれば調べるほど厄介なしろものであった。したがって、は じめの予想と異なり、超電導の発現機構の解明は未だに完成していない。した がって、超電導の現象論を援用して開発が進められているのが現状である。
 この物質を実用化するためには、その目的に適合した形状や性能を示す材料 化の道程を経過しなければならない。薄膜、バルク、線材等の材料技術が本格 的に始まったのが約5年程前のことであった。
 超電導現象は電気抵抗ゼロという特殊なものであるだけに、臨界温度だけを 測定するかぎり、材料の不均一性や、不純度などは、ほとんど問題にならない が、実用化となるとこれらが重要な問題となって浮上する。なにしろ、四元や 五元の酸化物である。はじめから覚悟はしていたものの、悪戦苦闘を免れるこ とはできなかった。しかし5年以上経過した現在、前途に光明が見られるよう になり、2005年頃には各種の試作品が続々と表れるものと期待している。実に 高温超電導の発見から20年を経過しているのである。
 一般に、ある重要なブレイクスルーが起こってから、それが本格的に市場化 されるまでに、20年近い歳月を必要とすると言われている。良い例が半導体で ある。ゲルマニウムでトランジスタが発明されたのが1947年であり、それが50 年代後半からシリコンに替わり、LSI特許が1960年に生まれ、そして最初の DRAMが出たのが1970年、最初のMPUは1972年に発明されている。この間実に25 年近い歳月を経ているが、これらが現在の情報通信時代の基盤を築いたのであ る。ましてや予測もしなかった高温超電導物質群の実用化に約20年の歳月が必 要であったことは、当然といえるし、むしろはじめの予測より短かったといえ るかもしれない。
 また、材料化の過程で、良質な単結晶の育成、不純物効果の測定、結晶粒界 の研究などが、「物質科学」の推進に威力を発揮し、新しい現象が発見されて いる。これは、大学の研究室ではなかなか遂行できることでなく、産業界が必 要に応じて実行した結果である。このような、「物質」と「材料」の間の好循 環がはじまると、両者とも発展が促進されることは、過去50年の半導体の歴史 が証明している。今後新しい物質が次々と発見されると思われるが、このよう な歴史が繰り返されると期待することは、心楽しい思いがする。


■トピックス

酸化物半導体酸化亜鉛の新展開

独立行政法人産業技術総合研究所、
光技術研究部門光エレクトロニクス材料グループ、
電力エネルギー研究部門薄膜太陽電池グループ

グループリーダー 仁木栄

1. はじめに

 酸化亜鉛(ZnO)は、これまでにも表面弾性波素子、焦電素子、圧電素子、ガ スセンサー、透明導電膜、バリスター、等の応用に用いられてきた優れた機能 を有する材料である。酸化物材料の薄膜成長技術の向上に伴って高品質な単結 晶薄膜の成長が可能になり、ZnO薄膜による新しい応用分野が拓けつつある。
 ZnOは禁制帯幅3.4 eVを有する直接遷移型の半導体で、青色から紫外域の光電 子デバイス用材料として有望である。禁制帯幅がほぼ同じGaNに比べて、励起 子結合エネルギーが格段に大きく(ZnO:59meV、GaN:21meV、ZnSe:20meV)、室 温においても高効率な励起子発光過程を利用した、単色性に優れた発光デバイ スが実現可能である。
 図1にZnO及びその混晶によってカバーできるエネル ギー範囲を示す。II族のZnをMgに置き換えたZn1-x MgxO1)やZnをCdで置き換え たZn1-yCdyOで禁制帯幅の変化や強い室温青色発光2)の報告もある。一方、VI 族のOをSeやSで置換する場合には、アニオンの電気陰性度の違いが大きいため に図1の実線で示すような負のボーイングを示す可能性が指摘されている3)。 このようにバンドギャップエンジニアリング技術を駆使すればZnO系材料を用 いて、紫外域から可視域、赤外域までの幅広い波長範囲をカバーすることがで きる。
 さらに、ZnOは低温成長かつ低抵抗膜作製が可能という利点を有しており、光 デバイス以外にも薄膜トランジスタ(TFT)や透明導電膜等の応用でも期待さ れている。

2. ラジカルソースMBE装置の開発

 当グループでは、半導体としてのZnOの研究には将来の量産化をも見据えた薄 膜成長法を用いる必要があるという考えから分子線エピタキシャル(MBE)法を 選択した。酸素ラジカル源を用いることからRS-MBE(Radical Source-Molecular Beam Epitaxy)と呼んでいる。この成長法を選択した主な 理由は、
1)高純度な材料を用いることで残留欠陥の原因になる可能性がある 不純物の混入を防げること、2)2インチ基板程度の大面積な試料の作製と量 産化へのスケールアップが可能であること、3)CVD法等に比べて反応がシン プルであり、成長の再現性向上が比較的容易であること、4)半導体の不純物 ドーピングに必要な10^17-10^20 cm^-3 という領域で精密な濃度制御が可能である こと、
等である。
亜鉛は99.99999%(7N)の金属材料をクヌーセンセルで、そし て酸素は6Nの酸素ガスをRFラジカル源により酸素原子にして供給している。酸 素ラジカルを用いた理由は、酸素ガスに比べて反応性が高く、酸素を効率よく 取り込むことが可能なためである。図2に当グループが開発したZnO成長用の RS-MBEの模式図を示す。試料交換室、分析室、成長室の3室からなっている。

3.高品質エピタキシャル薄膜成長

 RS-MBE法によりサファイヤ基板上へZnOのエピタキシャル成長を行った。まず 最初にC面サファイヤ基板上への成長を試みた。X線回折パターンから、c 軸配 向したZnO単結晶薄膜が作製できることがわかった。原子間力顕微鏡(AFM)に よるC面上サファイヤ上のZnO薄膜の評価では、サファイヤ基板との格子不整 合が大きいにも関わらず、AFMでの平均粗さ が0.4 nmと非常に平坦なことがわ かった。
X線回折によるZnO薄膜の評価結果においては、2θ-ωスキャンでは非 常に平坦な薄膜でのみ観測されるX線の干渉縞も観測された。モザイク度も非 常に小さく、ロッキングカープの半値幅は分解能限界に達する0.003°であっ た。フォトルミネッセンス(PL)スペクトルでも、2.2eV付近のブロードな 深い準位からの発光は現れず、バンド端近傍の励起子発光が支配的な高品質な 薄膜が成長できることがわかった。
このようにX線回折、AFM、PL等の評価に よって高品質なZnOの作製が確認できたわけだが、電気特性(移動度、残留 キャリア濃度)の点で満足がいく品質のZnO薄膜は作製できなかった。その原 因を明らかにするためにZnO薄膜の面内配向性を調べた。C面とA面サファイヤ 基板上に成長したZnOエピ膜のX線回折の極点図を比較したところC面サファイ ヤ上のZnOではピークが6個ではなく12個観察され、a軸が30度回転した回転ド メインが発生していることがわかった。一方、A面サファイヤ基板上のエピ膜 もc 軸配向するが、a軸の回転が抑えられ、回転ドメインが発生しないことが わかった。これは、アニオンであるOとカチオンのZnが混在するサファイヤA面 における対角方向での原子配列の異方性によるもの考えられる4)。A面サファ イヤ基板を用いることでZnO単結晶薄膜の面内コヒーレンス長が50nm(C面上) から700nmへと長くなり、それに伴って電気特性の向上が確認された。
 1)A面サファイヤの使用、以外にも、2)低温バッファ層の導入、3)高 温成長、4)降温過程の最適化、等の独自の技術を開発することで研究開始時 には残留電子濃度が1019-20cm-3、移動度も10cm2/Vs程度だった特性が、短期 間で残留電子濃度7x1016 cm-3、移動度120 cm2/Vsまで向上した。
図3には RS-MBEで作製されたZnO単結晶薄膜のキャリア濃度と移動度を、実線で示す理 論値と比較して示す5)。比較のために図3中に現在最も結晶性の高いバルク結 晶の値も示した。RS-MBEでエピタキシャル成長したZnO薄膜の値は、バルクに 比べて膜厚が薄くしかもヘテロエピタキシャル成長であるにも拘わらず、バル ク値に迫る値を示している。このことから、ラジカルソースMBEによるZnOエピ タキシャル成長は現在最も進んだ薄膜作製法の一つであると言える。そして以 上の結果は半導体グレードのZnO薄膜が得られたことを示している。この成果 によって、これまで困難と考えられてきたp型ZnO作製に挑む下地が整ったと考 えられる。

4.まとめと今後の課題

 成長パラメータの制御性に優れたMBE法の利点を活かし、かつ、サファイヤA面 基板の使用、低温バッファ層の導入、高温成長、降温過程の最適化等の独自の 手法を開発することにより、120 cm2V-1s-1以上の高移動度と1x1017 cm-3以下 の低残留電子濃度を持つ半導体グレードのZnO単結晶薄膜が得られた6)。これ によって、デバイスを目指したドーピングの研究への下地が整った。
いくつかの研究機関からp型ZnOを作製できたという報告もあるが7, 8, 9, 10)、いずれも決定的ではなく今後の最重要開発課題といえる。
n型不純物の高濃度ドーピングは透明導電膜や低抵抗の電極層のために重要な 技術である。n型不純物としては、ボロン(B)やアルミニウム(Al)が使われ る例が多いが、RS-MBEにおいては、BやAlに比べて取り扱いが容易なことから Gaを選択した。当グループでは、透明導電膜としてのZnOの能力を知るため に、サファイヤA面基板上にGa:ZnOのエピタキシャル薄膜を成長した。その結 果、電子濃度n=1.2x1021cm-3、移動度μ=25cm2V-1s-1、抵抗率が2x10-4Ωcm で、かつ400-1100nmの波長範囲で平均95%以上の透過率を示す高品質な透明導 電膜の作製に成功した11)。ZnOは透明導電膜としても非常に有用であることが わかる。


図1 酸化亜鉛及びその混晶の禁制帯幅


図2 ZnO成長用のRS-MBEの模式図


図3 キャリア濃度と移動度の関係

参考文献
1) A. Okamoto et al.:Appl. Phys. Lett. 72, 2466 (1998).
2) K. Sakurai et al.:Jpn. J. Appl. Phys. 39, L1146 (2000).
3) 岩田:セラミックスデータブック28, p190(2000).
4) P. Fons, K. Iwata, A. Yamada, K. Matsubara, S. Niki: Appl. Phys. Lett. 77, 1801 (2000).
5) J. D. Wiley, R. K. Willardson, A. C. Beer:Semiconductors and Semimetals 10, 91 (1975).
6) K. Nakahara et al.:Jpn. J. Appl. Phys. 40, 250 (2001). 日刊工業新 聞、日経産業新聞(1999年12月22日)、電総研ニュース(2000年2月号)
7) M. Joseph, H. Tabata, T. Kawai:Jpn. J. Appl. Phys. 38, L1205 (1999).
8) K. Minegishi, et al.:Jpn. J. Appl. Phys. 36, L1453 (1997).
9) Y. R. Ryu, et al.:J. Cryst. Growth 216, 330 (2000).
10) T. Aoki, Y. Hatanaka, D. C. Look:Appl. Phys. Lett. 76, 3257 (2000).
11) R. Hunger et al.:to be published in the proceedings of Materials Research Society, April 17-20 (2001).



■研究所紹介

産業技術総合研究所パワーエレクトロニクス研究センター

センター長 荒井和雄


センターの発足

旧工業技術院傘下の15の研究所は、この4月に独立行政法人化して産業技術総 合研究所(http://www.aist.go.jp/)となり、組織構造をフラット化し、23 のセンターと22の研究部門に改組された。研究部門が、中長期的視野に立っ て特定の技術分野の活性化と分野融合的新技術領域の開拓を目指すのに対し、 研究センターは、戦略的な立場から時限的(3-7年)に設置され、明確なミッ ションを達成することを期待されている。
パワーエレクトロニクス研究センターの設立の主旨は、「21世紀にはエネル ギーの電力として利用される割合(電力化率)は、IT社会の爆発的進展、電気 自動車の導入、分散電源の導入などにより、現在の約40%から益々増加する事 が予想される。電力の有効利用にはパワーエレがキーである。そのキーコン ポーネントであるパワーデバイスとして、シリコンデバイスはその物性値から くる性能限界に近づきつつある。一方、その限界を越えられるものとしてシリ コンカーバイド(SiC)などのワイドバンドギャップ半導体の実用化の可能性 が見えてきた。SiCなどの革新的パワーデバイス(スーパーデバイス)の実用 化を促進し、新しいパワーシステム概念の創出を目指す。」となる。

現在の課題と組織

平成10年度からNEDOのもとに「超低損失電力素子技術開発」を産官学を結集し て一期5年計画で進め、SiCとGaNのデバイス化のための基盤技術の確立を目指 している。現在SiCでは2インチウエハが市販されているが、通常、昇華法(改 良レーリー法)で成長され、マイクロパイプというミクロンオーダの貫通欠陥 など、デバイス特性に影響をもつ多くの構造欠陥がある。またデバイスプロセ スにおいても、多くはシリコンプロセスを踏襲できるが、ドーピングでは、拡 散法が使えず、高温注入(500度C以上)と高温後熱処理(1500-1750度C)が 必要であったり、MOSゲート酸化はできるものの界面制御が難しく、MOSゲート チャネル易動度がバルクに比べかなり低いなど、解決すべき課題が多い。従っ て理論的にはシリコンの1/100以下になるオン抵抗(通電時の電力損失に対 応)は、現状ではシリコンの限界は越えたもののまだ1桁以上の改善が期待さ れている。これらの課題は相互に関係しており、材料科学やデバイス科学の観 点から一貫した研究開発を必要としている(図1)。従って、結晶?プロセス? デバイス設計・評価の基盤研究については、プロジェクトの委託を受けている 新機能素子協会(FED)が、産総研内に先進パワーデバイス研究室を設置して センターと共同で集中研として行っている。企業のインフラを活用する必要が ある場合には分室も認めている。基本デバイス(接合FET、MOSFET、MESFET、 GaN-MESFET)のパワーデバイスとしてのSiに対する優位性実証は、4社がそれ ぞれ分散研として進めている(図2)。集中研では、要素技術でのブレークス ルーを目指し、TEG実証を通じて分散研への技術転移を図っている。結晶成長 機構の解明、MOS界面形成、コンタクト形成、GaNのMBE成長などで世界のトッ プレベルの成果が出てきている。また大学にも基礎的な研究で協力していただ いている。SiCなどのパワーデバイスのパワーエレへの応用やそれに必要な実 装・回路などの周辺技術、システムインパクトなどについては、エンジニアリ ング振興協会(ENNA)に「次世代パワー半導体実用化調査委員会」を設け、 ニーズサイドからの検討を進めている。これらの一体運営でプロジェクトとし ての成果をあげるとともに、次期プロジェクトの目標設定、センターの研究開 発の方向性を明確にする努力をしている。
 集中研では30数人の研究者(研究職員、企業共同研究員、博士研究員がそれ ぞれ約10人)が文字通り一体となって課題毎にグループリーダを置いて研究を 進めている。バルク結晶成長、エピタキシャル成長、MOS界面制御、金属/半導 体界面制御、デバイス設計・評価、GaN-MBE成長・デバイスのグループがあ る。リーダは職員の場合も企業共同研究員の場合もある。複数のグループにま たがる緊急課題については、アドホックにミニプロジェクトを組んで対応して いる。本プロジェクトについては、この夏から秋にかけて外部評価委員による 中間評価を受ける予定になっている。

国内外の開発状況

SiC のデバイス研究は、90年代始めに35mmウエハが米国のベンチャーから市販 されてから急速に進展した。日本は基礎研究としてのポテンシャルは高いもの があったがデバイス化の研究は遅れ、地域大プロ「エネルギー使用合理化燃焼 制御システム技術の開発」(平成6-11年)でデバイスの基礎技術の開発が行わ れた。その成果の一部は、低損失電力素子の観点から進められている本プロ ジェクトに引き継がれている。基礎的研究としては、最近では京大が中心とな り「ワイドギャップ半導体の電子物性制御とエネルギーエレクトロニクスへの 展開」(平成9-12年度)(科研費特別推進研究)が進められ、エピタキシャ ル結晶成長技術、MOS界面制御技術などにおいて多くの成果をあげている。 海外では、世界的に見て、米国クリー社がウエハ(2インチ)のほぼ独占的供 給元となっている。バルク結晶の用途は、パワー素子開発用、青色発光GaNエ ピ基板、宝石用としての販売がそれぞれ1/3となっていると聞く。米国でも欧 州でも、そして日本でもベンチャーが販売をはじめているが質量とも遅れを とっており、実用化を進めるにあたっての寡占の弊害を恐れる声もある。欧州 では、スエーデンのABBグループが、リッチョピン大での基盤研究を軸に、企 業での結晶開発、デバイス研究開発を総合的に展開している。ドイツでは、長 年研究開発を続けてきたシーメンスのデバイス部門インフィニオンが、ごく最 近、SiCのショットキーバリアダイオード(SBD)のサンプル出荷を始めた。シ リコンIGBT素子などと組み合わせて力率改善回路に応用するもので、600V/数 Aとまだ容量/耐圧ともに小さいがSiC素子の低損失、高速応答のメリットを示 すデモンストレーションとなるものとして期待は大きい。
国内のパワーエレ産業部門は、重電部門は電力自由化やIT産業のブームなどの あおりで、活況を呈しているとは言えないが、インバーターのモジュール化の 技術などでは世界の最先端のレベルにある。米国では、電力化率が2010年には 80%になるという予測もあり、衰退したパワーエレ技術再生への動きがある。 バージニア工科大を中心に、NSF、企業、大学が出資してCEPES(Center for Power Electronics Systems)を組織して、シリコンパワーエレのモジュール 化の研究開発を進めている。長期的にはSiC素子なども視野に入れている。ド イツでは、フランフォーファーのエルランゲン研究所にパワーエレクトロニク ス研究センターが企業、財団、公的資金で昨年開設され、シリコン素子のシス テム、スマートIC、半導体の研究が進められている。インフラ施設として建て られた広い立派なクリーンルームの中で、シリコンICラインとSiCの基盤研究 が共存して行われている。熱プロセスを別立てにすれば、クロスコンタミネー ションは全くないことが証明されている。またベルリン研究所とは実装技術開 発で連携している。

さらなる展開を目指して

プロジェクトが発足した当初は、設備、スペース、人材とも極めて不足してい て、ウエハを持って、一人の研究者が走り回っていた。現在も、狭いスペース に装置がひしめき合い、エレクトロニクス研究部門の化合物用クリーンルーム 設備を借用して何とか凌いでいる状態だが、グループ内で役割を分担し、簡単 なMOSを2-3週間で作製して評価できるところまでは来た。幸い独立行政法人 化に際し、施設の充実は図られつつある。戦略性をもったインフラの整備は産 総研のこれからの最も重要な課題の一つである。
さきに述べてように、デバイスの材料を変えるということは極めて困難な多く の解決しなくてはならない課題を伴う。センターの設立のヒヤリングに際し て、「センターでやるような独創的研究がなにかあるのですか」と聞かれ、あ きれるとともに腹が立ったのを憶えている。めずらしさ=独創と考えることの 多いこれまでの国研の研究者には向かない研究かもしれないが、「自分の研究 を実社会で役に立てたい」と願う集団ができつつある。アイデアから実証まで を視野にいれた研究開発こそ、新法人のセンターの使命と考える。アイデアに 富んだ新技術開発については、積極的に各種ファンドに応募してプロジェクト 外の資金での展開を図っている。
本センターの目標はSiCなどのパワーデバイスの実用化を促進し、新しいパ ワーエレのシステム概念を創出することである(図3)。しかしながら、材料 からデバイスへの研究開発には時間がかかる。システム研究者の関心と応援を もらって研究開発を持続的に発展させるためには、最終仕上がりを待たず、材 料の特質を生かしたデバイス性能のデモンストレーションを提示していく必要 がある。インフィニオンのSBDの応用もその一例だが、センターとしても是 非、それを越えたパワーエレの実証研究を提示していきたいと考えている。低 損失の利点を生かした半導体スイッチを格好なターゲットとして提案していく 予定である。
海外のパワーエレセンター設立の動向に見られれるように、パワーエレ革新の キー技術は、デバイス開発に加え、モジュール化する実装技術である。さきに 述べたように、日本の企業ではこの部分はすすんでいるが、特定の機器に合わ せて事業部で個別に行われている。SiCデバイスの低損失、高温動作可能、高 速応答性を生かしたモジュール化技術の研究開発は、パワーエレ実証研究には 不可欠であり、個別対応でない基盤的・総合的研究を必要とする。これらの特 性を具現するパワーモジュールは、IC制御ができ、高周波で動作するために小 型にでき、低損失であるために稠密に実装でき、モジュール容積も桁で小さく できる可能性がある。
 我々はこの仮想のモジュールをi-Cubic(Intelligent, Integrated, Innovative Power Modules)となづけ、センターでやるべき、開発に必要な要 素技術の洗い出しを進めている。また、そうしたパワーモジュールがシステム に導入されたときの効果を充分に検討しておく必要がある。低損失・高信頼な サーバーシステム、直流配電も視野に入れたインテリジェントビル、電気自動 車・電鉄、分散電源を含んだ電力システムなどの、小から大容量の電力変換 ノードの導入インパクトの解析を進める。
 以上の観点からセンターでは
・ 結晶成長・評価チーム(バルク結晶の高品質化、大口径化、低コスト化)
・ デバイスプロセスチーム1(MOS基盤技術から実用化プロセス、スーパー ジャンクションデバイス)
・ デバイスプロセスチーム2(MBEを活用したGaNデバイス、エピ成長技術)
・ スーパーデザインチーム(i-Cubic概念 モジュール化)
・スーパーノードネットワークチーム(システム化技術)
の5のチームを作って研究開発を進めている。スーパーデザインチームについ ては、民間からの人材の導入が必要と考えている。スーパーノードについて は、電力エネルギー研究部門と密接に連携して進めている。
 こうした努力により、「LSIの開発が情報ビット単価の激減をもたらし、今 日の情報化社会をもたらしたように、i-Cubicの開発がパワー変換における ワット単価を激減させ、新しいパワーシステム概念を創出する」(東芝大橋技 監)ことを願っている。




図1 SiC素子開発の戦略



図2 超低損失電力素子技術開発体制



図3 パワーエレクトロニクス研究センター(2001〜2007年)


連絡先:独立行政法人産業技術総合研究所 パワーエレクトロニクス研究センター センター長 荒井和雄
〒305-8568 つくば市梅園1-1-1 中央第二
Tel:0298-61-3297 E-mail: [email protected]

山本寛日本大学教授JMR 日本編集委員長に就任

 MRSは Bulletin誌3月号で山本寛日本大学理工学部教授がJournal of Materials Research 2001年1月1日から日本側のassociate editor に就任したと発表した。 山本教授は宗宮重行東京工業大学名誉教授・帝京科学大学名誉教授が2000年12月末に 15年努めたassociate editorの後を襲い任務を引き継ぎ、日本からJMRに投稿される 論文の審査を管掌する事となる。山本教授は電気通信学会基礎・材料部会の Trans. Inst. Elect. Engng. Japan(1987〜1988)の編集長、 MRS-Jニューズレターの委員長(1995〜1999年)、 Jour. Inst. Elec. Enfng. Japan (1995〜1996)編集委員を歴任。 JMR編集委員長のRobert P. Frankenthal博士(Bell labs/ Lucent Technologies) は宗宮氏が15年にわたってJMR誌のアジアにおけるプレゼンスを高めるために果たした 貢献に謝辞を述べるとともに山本教授とともにJMR誌を世界における一層のプレゼンス を強めるために努力したいと希望を述べている。


お知らせ

第13回日本MRS学術シンポジウム
--21世紀を迎えた先進的かつ総合的材料研究---

開催日:平成13年12月20日(木)〜21日(金)

場  所:KSP〒213-0012川崎市高津区坂戸3-2-1、かながわサイエンスパーク

Session A「協奏反応場の増幅制御を利用した新材料創製」
チェア:北澤宏一(東大)、石垣隆正(物質・材料研)、
        目 義雄(物質・材料研、Tel: 0298-59-2461;Fax: 0298-59-2401)、

Session B「自己組織化現象と新機能」
チェア:大久保達也(東大大学院・工学系研究科)、加藤隆史(東大大学院工学系研究科)、
        関 隆広(東京工業大学資源化学研究所)、多賀谷英幸(山形大学工学部)、
        木下隆利(名古屋工業大学、Tel: Fax:052−735−5267、
        E-mail: [email protected])

Session C「クラスターを基盤とする新規物質系の創製と機能解明」
チェア:隅山兼治(名古屋工業大学材料工学科),米沢徹(九州大工),
          藤間信久(静岡大工),佃達哉(分子研Tel./ Fax: 0564-55-7351、
          E-mail: [email protected])

Session D「生体高分子ゲルの基礎と応用」
チェア:鴇田昌之(三重大 Tel: (059)231-9438;Fax: (059)231-9471、
        E-mail: [email protected])、西成勝好(大阪市立大)、
        原 一広(九大)、中村邦男(酪農学園大)

Session E「多粒子集合体の組織形成ダイナミクス」
チェア:松尾陽太郎(東工大)、神谷秀博(東京農工大)、鶴田健二(岡山大)、
        田中英彦(物質・材料研)、若井史博(東工大、tel:045−924−5361;
        FAX 045−924−5390、e-mail: [email protected])

Session F「ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料」
チェア:川路 均(東工大・応用セラミックス研究所)、
        和田智志(東工大大学院理工学研究科)
代表チェア:和田智志(東工大大学院理工学研究科、Tel: 03-5734-2829;Fax: 03-5734-2514
        E-mail: [email protected])

Session G「クロモジェニック材料」
チェア:柏崎尚也(東京電機大)、小林範久(千葉大)、永井順一(旭硝子基盤研)、
        山名昌男(東京電機大、Tel: 0492-96-2911;Fax: 0492-96-5162、
        E-mail: [email protected])、吉野隆子(都立大)、
        馬場宣良(都立大名誉教授)

Session H「植物系材料の最近の進歩」
チェア:大塚正久(芝浦工業大)、秦  啓祐(千葉職業能力開発短期大
        Tel: 043−242−4695;Fax:  043−248−5072、E-mail: [email protected])、
        小川和彦(職業能力開発総合大東京校)、須田敏和(職業能力開発総合大)、
        伏谷賢美(東京農工大)、三木雅道(姫路工業大)、岡部敏弘(青森県工試)

Session I「暮らしを豊かにする材料−環境・医療・福祉−」
チェア:後藤誠史、喜多英敏、中山則昭、山本節夫、比嘉 充、
        井奥洪二(山口大学工学部、Tel: 0836-85-9671;Fax: 0836-85-9601、
        E-mail: [email protected])

Session J「マテリアルフロンティア・ポスター」
代表チェア:野間竜男(東京農工大、Tel: 0836-85-9671;Fax: 0836-85-9601、
            E-mail: [email protected])

シンポジウムに関する問い合わせ先:
 講演の申込み締め切りは2001年9月末頃の予定です。Proceedings(英文)は、
シンポジウム終了後1年以内に日本MRSの定期ジャーナルTransactions of 
Materials Research Society of Japan, Vol. 27 にて、査読を経て出版される
予定です。

日本大学理工学部電子情報工学科・山本寛
( 〒274-8501千葉県船橋市習志野台7-24-1 Tel: 047-469-5457;Fax: 047-467-9683;
E-mail: [email protected] ) 

■日本MRS協賛の研究会等
◇マイクロ波効果・応用シンポジウム、
2001年8月2〜3日、国士舘大学世田谷キャンパス、
主催:産業創造研究所、tel.:03-5684-6361, E-mail: mwsymp@iri. Or. Jp

◇神奈川科学技術アカデミー教育講座:
○薄膜・加工技術の基礎から最先端技術_高度情報化社会を担う多彩な薄膜技術と最新材料、
2001年11月12日〜12月5日〈計9日)、
○ナノ加工技術とその応用コース_ナノスケール加工と電子デバイスへの展開、
2001年10月9日〜10月23日〈計5日)、
問い合わせ先:KAST教育研修課、tel.:044-819-2033, e-mail: kasted@net. Ksp. Or. Jp

◇表面工学国際会議(FSE2001), 
2001年10月28日〜11月1日、名古屋国際会議場、
主催:表面技術協会、
問い合わせ先:名古屋大学大学院工学研究科高井研究室内FSE2001事務局、
tel.: 052-489-3529, e-mail: fse@ plasma. Nunse. Nagoya-u. Ac. Jp

◇第17回日本アパタイト研究会、
2001年12月6日(木)〜7日(金)、国際ホテル宇部(山口県宇部市)、
主催:日本アパタイト研究会、
問い合わせ先:山口大学大学院医学研究科応用医工学系専攻・後藤誠史・井奥洪二、
tel.: 0836-85-9671, e-mail: ioku@ po. Cc. Yamaguchi-u. Ac. Jp

■IUMRSメンバーのmeeting
◇ICMAT 2001(International Conference on Materials for Advanced Technologies),
2001年7月1〜6日、Singapore,
問い合わせ先:http:// www. mrs. org. sg / icmat2001

◇IUMRS-ICAM-2001、2001年8月26〜30日、Cancun, Mexico, 
問い合わせ先:MRS, e-mail: info@mrs. org; http:// www. mrs. org

◇Jornadas SAM-CONAMET2001, 
2001年9月12〜14日,Posadas, Argentina、
問い合わせ先:SAM-CONAMET2001, Facultad de Ciecias Exactas, Quimicas y Naturales, 
Azara 1552, 3300 Posadas, Misiones, Argentina

◇IUMRS-ICEM 2002 (8th International Conference on Electronic Materials), 
2002年6月10〜14日、Xi'an, China, 
問い合わせ先:Prof. Jianhua Cheng, tel.86-10-68944280, fax 86-10-68428640, 
e-mail: cmrssec@public. Bta. Net. Cn; www. C-mrs. Org. Cn/ icem2002

■Transactions of the Materials Research Society of Japan , vol. 26, Nos. 1, 2発刊
◇Trans. Of MRS-J, vol. 26, No. 1, March 2001, A4判、v+464+iiページ
本号には、一般論文1件、及び2000年12月に開催された日本MRS学術シンポジウムの
プロシーディングス、セッションE「巨大機能物性セラミックス」(桑原誠、高田雅介、
宮山勝、岸本昭編集)28件、セッションJ「スマートマテリアル」〈宮崎修一、小林俊一、
谷順二、松崎雄嗣、細田秀樹編集)59件、セッションL「格子確率モデルの数理」
〈今野紀雄、種村秀紀、香取真理、佐藤一編集)26件、合計113件の論文が掲載されています。

◇Trans. Of  MRS-J, vol. 26, No. 2, June 2001, A4判、v+326+iiiページ
本号には、一般論文1件及び上記シンポジウムのプロシーディングス、
セッションB「自己組織化材料とその機能」(多賀谷孝、関野広、加藤隆史、
木下隆利、大久保達也編集)15件、セッションD「高分子ゲル--化学ゲルと物理ゲルの接点」
(西成勝好、原一広、鴇田昌之、鈴木淳史編集)44件、セッションH「単一電子デバイス・マテリアル
の開発最前線」(根城均、蔡兆申、高橋庸夫、横山浩、田中彰治編集)8件、
セッションK「物質科学における放射光利用--その場測定とプロセシング」
〈大柳宏之、Pedro Montano, 宇理須恒雄編集)10件、合計78件の論文が掲載されています。

To The Overseas Members of MRS-J

■Material and Engineering Materials

Dr. Shoji TANAKA, General Director, Superconductivity Research Laboratory, Vice President, International Superconductivity Technology Center

"Material" is simply a scientific word, and it is different from materials for industrial usage : engineering materials, even though the compositions of the main part are the same. From discovery of a new material, it usually takes about 20 years to reach real applications. In this paper, a case of the high temperature superconducting material is quoted, and compared with the case of the transistor technology, which needed 25 years to reach DRAM and MPU. These must be good lessons for new materials which could be discovered in the future.

■Growth and Characterization of High Quality ZnO Epitaxial Films for Device Applications

Dr. Shigeru NIKI, Group Leader, Optoelectronic Materials and Devices Group, Photonics Research Institute and Thin Film Solar Cells Group, Energy Electronics Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

We have developed a new generation of optical and electronic material based upon oxide semiconductors in a collaborative work with ROHM Co. Ltd. As a result of the research efforts, the epitaxial growth of semiconductor-grade ZnO films on sapphire substrate has been achieved. The ZnO epitaxial films were grown by molecular beam epitaxy using high purity elemental zinc and an oxygen radical source (O*) as source materials. The ZnO epitaxial films with residual electron concentrations in the 1016 cm-3 range and carrier mobilities of more than 120cm2V-1s-1 have been demonstrated. This successful fabrication of high quality ZnO thin films will provide a technology base for many kinds of new optical and electronic devices.

■Power Electronics Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

Dr. Kazuo ARAI, Director, Power Electronics Research Center

The 15 Laboratories of former Agency of Industrial Science and Technology in MITI have been reorganized since April 2001 to become National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (Independent Administrative Organization) including 23 research centers with specified mission. Power Electronics Research Center (PERC) has been launched for the development of innovative power devices based on wide bandgap semiconductors such as SiC and GaN and technology to application. The present status of 'R&D of Ultra-Low Loss Power Device Technologies' and the future plan of the center are presented.

■MRS-Japan Academic Symposium

The annual academic symposium and the annual business meeting of the MRSJ will be held from December 20 - 21, 2001, at the Kanagawa Science Park, Kanagawa-shi. The meeting includes 10 symposia. Proceddings will be published in the Transaction of the MRS-J.


編集後記

 執筆者の皆様と編集委員長をはじめとするメンバーの方々のご助力により、 本号をお送りすることができました。本年度は、日本の研究組織面から見ますと、 行政改革の一 環として国立研究所の多くが独立行政法人に衣替えをした節目にあたります。 これによりプロジェクトへの参画、人事交流の両面で産学官連携が活発となることが期待 されています。 MRS-Jの活動の柱の一つも学際的な研究交流の促進にありますので、今回は超電導の分野で 長らく産学官連携を推進してこられた超電導工学研究所 田中所長と、 産学官の研究者が入り交じって研究が行われている新しい独立行政法人の一つである 産業技術総合研究所内の荒井センター長に御執筆をお願いいたしました。 このような流れを追い風として、日本MRSにおける活発な交流が新しい研究成果を 生み出すための一助となることを願っています。(寺田記)