日本MRSニュース Vol.14 No.1 February 2002
バイオマテリアル研究のあり方
鈴鹿医療科学大学医用工学部
筏 義人
バイオマテリアル研究のあり方という大命題にはいるまえに、バイオマテリアルとは何か、を説明しておかなければならない。この用語はまだ一般に浸透しているとは思えないからである。バイオマテリアルとは生体に接触して用いられる材料である。そのため、日本語で生体材料と呼ぶことも多い。使用するところが繊細な生体環境であるため、バイオマテリアルに要求される最大の不可欠条件は生体に毒性を示さないことである。
バイオマテリアルのよりよい理解のためには、その実例を挙げるのが手っ取り早い。身近な例から示せば、注射器、カテーテル、手術糸、コンタクトレンズ、虫歯充填材などであり、先端材料の響きをもつものでは、ペースメーカ、人工関節、人工心臓などを挙げることができる。これらが世界中でどれほどの患者に使われているのかを、2000年の時点における代表的な例で示すと、ほぼ次の通りである。
慢性透析用人工腎臓100万名、人工股関節と膝関節700万名、心臓用材料1,100万名(内訳:人工心肺80万名、人工弁240万名、ステント250万名、ペースメーカ550万名)である。ちなみに、臓器移植を受けている人は30万名(心臓11%、肝臓21%、腎臓57%、その他11%)である。これらを合計すると、約2,000万名となる。
これらは、2000年の時点においてバイオマテリアルを使ったことのある患者の総数ではなく、臓器の再建を人工臓器あるいは他人の臓器で受けた人のみの数である。さらに驚くべき数字は、これらの臓器の再建に要した2000年度における世界の医療費の総額である。それは約38兆円にも達し、世界の全医療費525兆円の7%を占める。ちなみに、医薬品による治療費が全医療費に占める比率はほぼ12%である。米国の医療費が全世界の1/3とすれば、米国の臓器再建に要した費用は、米国の国内総生産(GDP)の1%という驚くべき数字になる。
バイオマテリアルの中で誰もが知っているのは、人工臓器である。その人工臓器を用いた医療費がこのように高額とは、おそらく、人工臓器の多くの研究者も把握していないに違いない。筆者も、この調査結果を目にするまでは予想もしていなかった。わが国だけの統計にはお目にかかったことはないが、日本の人工透析患者の数が約20万名で、その総費用がほぼ一兆円ということを考えると、わが国においても、人工臓器による医療が国民総医療費のかなりの額を占めていることは間違いない。
少し前置きが長くなったが、このような現状を知っておくことは、その研究者にとってきわめて重要である。その理由は、現在、わが国のような先進国が直面している大きな難題の一つが、医療費の急激な高騰であるからである。それが避けがたい重要な課題であるときに、製造コストも考えずに、少しぐらい有効性や生体適合性に優れた人工臓器を開発しても、医療機関、医療産業、厚生労働省のいずれもが、ほとんど関心を示さないのは当然であろう。
それを裏付ける大きな事実は、人工臓器の開発研究は1950年代から始まり、1980年代にほとんど終わっていることである。もちろん、いろいろな例外もあるが、その後の研究成果がバイオマテリアルの工業生産に大きな影響を与えた例はあまりにも少ない。つまり、大学などにおけるバイオマテリアル研究は、医療産業からほとんど無視され続けてきたのである。
バイオマテリアルのようにその目的が明白な応用研究の従事者は、このような現状をしっかりと認識しておかなければならない。
今後のバイオマテリアル研究に求められているのは、医療費の抑制への寄与である。人の命は地球より重い、という言葉は、残念ながら、この経済効率優先社会では通用しない。新しい治療法を開発するのも、その寄与の一つの仕方である。内視鏡手術や血管内手術がその例である。最初は高価であっても、普及していけばコストダウンする可能性が高い。
バイオマテリアルを用いた新しい治療法として、現在、期待されているのは、細胞とバイオマテリアルとを組合わせた再生医療である。
東京電機大学フロンティア共同研究センター
東京電機大学フロンティア共同研究センター
講師 シャハリアル・アハメド
1. 概 要
東京電機大学フロンティア共同研究センターは平成10年度文部省に「生命・福祉のためのバイオシステム工学・バイオマテリアル融合技術研究」のプロジェクト名として申請し、認可を受けました。同年7月より研究センターの建設を始め、翌1999年(平成11年)4月には設備も整い研究活動を開始させることができました。
本研究センターは、生命科学領域を重点研究領域とし、中でも「人工臓器開発に関する研究」および「生体材料に関する研究」は研究の柱と位置づけられています。本研究センターの利用に関しては、学内のみならず国内外の大学、研究所、企業等にも広く開放しており研究プロジェクトには多くの研究者が参加しています。現在では埼玉医科大学、東京女子医科大学、国立循環器病センター、日本医科大学、東京大学、国立リハビリテーションセンター、防衛医科大学校、島根医科大学、米国ベイラー医科大学、ミシガン大学、韓国順天郷大学校など広範囲にわたり、総勢37名の国内外の先生方にご参加を頂いています。
フロンティア共同研究センターは、総床面積は約2,000m2を有する3階建ての建物で、理工学部の東部分に位置しています。建物は緑豊かで見晴らしのよい比企丘陵に位置し、西には秩父の山々、そして遠くに富士山を望むことができます。このような大自然の中の環境でありながら、関越自動車道練馬インターより鶴ヶ島インターを経て約45分と、都心から1時間程度で訪れることができます。研究センター内に目を移すと、いずれも最新の加工装置、分析装置が導入され学内の他の建物とは異なった雰囲気が漂っています。
具体的に各階ごとに見てみますと、1階部分は主に加工・測定を行うためのフロア、2階部分は分子生物学、分析のためのフロア、3階部分は生理実験および産学共同研究等のために自由に使用できる実験室が整っています。この研究所を運営するスタッフは、福井康裕センター長(電子情報工学科教授)の下、現在12名が研究推進および運営に当たっています。また、先に述べたとおり学内外から多くの研究者も迎え入れており、研究テーマは48テーマを数え、各研究室とも精力的に研究を推し進めています。本研究センターの特徴の一つは産学の共同研究等で自由に使用できるスペースを3階部分に3部屋(約400m2)用意していることです。これらのスペースは企業や他大学との連携に大いに活用されています。
2. 研究内容
フロンティア共同研究センターは3つの研究分野を柱とし、以下の4項目を目指しています。
@ 21世紀の高度医療を担う機器開発の推進
A 地域の企業・大学・研究所との積極的な共同研究による地域活性化
B 国際的な共同研究も取り入れ、世界的に開かれた研究を目指す
C 共同研究等により若手研究者の育成
人工臓器・MEシステム系研究部門では現在19のテーマ数があり、その内容は以下の通りです。
@ 循環器系人工臓器(人工肺、人工心臓、体外循環回路装置、遠心血液ポンプ)の開発
A 小口径人工血管の開発
B 血液力学に関する基礎研究
C CFD(数値流体解析)による血液の流れの解析
D CAD/CAMによる人工臓器の設計支援技術の開発
生体材料工学系研究部門では現在10のテーマを進行中であり、その内容は以下の通りです。
@ 形状記憶合金の生体材料への応用
A マグネタイトの抗血栓性に関する研究
B DLC膜の生体組織適合性に関する研究
C 超高感度熱量測定によるバイオマテリアル評価システムの開発
D アパタイトの医療への応用
人間・情報工学系研究部門では現在19のテーマ数があり、その内容は以下の通りです。
@ 介護用機器(リハビリテーションアーム及びハンド、ベッド、おむつ交換ロボット、リフト、車椅子)の開発
A 在宅医療と健康モニターの開発
B 福祉用歩行解析および姿勢維持に関する研究
C 人の音に対する特性評価研究
D 精神病患者への表情認識技術の応用
3. 研究設備
フロンティア共同研究センターは、バイオエンジニアリング関連の研究を推進すべく、多くの設備を備えています。人工臓器に関連する分野の機器は主に2階部分に配置されています。
まず、動物実験室および飼育室では各種計測機器、体外循環装置を備え、動物は温・湿度コントロール下の環境で飼育することができます。また、細胞培養関連の設備一式を備えており、細胞、遺伝子工学関連の研究をはじめ、人工臓器のハイブリッド化に関する研究等に適応できるよう考慮しています。また、人工臓器用材料として注目されているDLC(Diamond-Like
Carbon)あるいはアパタイトに関しては組成分析のための]線回折装置、質量分析装置、分光光度計、オージェ電子分光装置、ラマン分光装置を導入しました。また材料等の表面観察に必要とされる電子顕微鏡には環境制御型のものを導入し、低真空状態で水分を含んだまま試料を扱うことを可能としています。これにより、生体試料等の生試料が取り扱え、人工臓器用材料の観察、分析を容易に行うことができます。さらに顕微鏡関連では光学式倒立顕微鏡、ハイビジョンにより鮮明な画像が得られる実体顕微鏡も備えており、あらゆる材料、部材の観察に対応しています。
次に1階部分の機器について紹介します。高精度光造形装置はセンター内のCAD室(Sun
Ultra)で設計を行った3次元形状の物体を高精度で試作することができると共に、試作加工はこれ以外にも3次元NC旋盤等の工作機械で行うことも可能です。さらに、加工を行った部材は、3次元コピーマシンで同一のものを何個でも作製でき、実験数が重要となる人工臓器分野研究の一助となっています。本研究センターは人工臓器分野以外にも幅広いバイオエンジニアリング分野の研究に視野を向け、多くの関連分野研究への対応も図っています。その中でも今後の高齢化社会に対応すべく福祉工学関連の研究に関する多くの計測装置、分析装置を備えています。特に、生体の特性計測に必要となる半無響室および関連の音響関連設備は充実しており工学分野に心理学、生理学面をも含めた融合的研究に関する成果が期待されています。
4. 終わりに
フロンティア共同研究センターは「生きることにやさしい技術をもとめて」をモットーに21世紀の幸福な生活を営むことに不可欠な生命・福祉技術開発の一役を担うため、日夜研究活動に励んでいます。今年度は本研究センターが活動をスタートして3年目になります。また、各研究分野において得られた成果については、国内外からの関心がますます高まりつつあり、今後さらなる発展が望まれています。
図1 フロンティア共同センター
図2 フロンティア共同研究センターの主な3つの研究部門
図3 人工臓器・MEシステム系研究部門
図4 生体材料工学系研究部門
図5 人間・情報工学系研究部門
問い合せ先: 長谷川経夫 東京電機大学フロンティア共同研究センター 〒350-0394 埼玉県比企郡鳩山町石坂 Tel: 049(296)2911(代) Fax: 049(296)2925 http://www.frontier.dendai.ac.jp/ |
■第13回日本MRS学術シンポジウム報告
日本MRS副会長(日本大学理工学部) 山本 寛
本シンポジウムは日本MRSの理念に基づき、既成のカテゴリーでは捉えきれない、先進的かつ総合的材料研究の発表の場となることを目指している。本年度は12月20日、21日の2日間にわたりKSPにて開催された。シンポジウムは10セッション、発表論文数は383件であった。
昨年度に比べてセッション数を抑え、全体として時間的に余裕のある発表の場となることを目指した。6セッションは2日間開催となり、例年に比べオーラル発表の割合は高くなった。特に、ポスター会場ではスペースにもゆとりがあり、じっくりディスカッションを楽しんでいる方々が多かったように思う。
各セッションの発表の様子、トピックスなどは、チェアに纏めて頂いた以下の報告を読んで頂きたい。
本シンポジウムでの発表内容は年々充実しているように感じられる。プロシーディングとなって発表される論文の評価も高まっている。ご参加頂いた発表者各位、セッションチェアマンならびにシンポジウム企画・運営にあたられた皆様方にあらためて感謝申し上げたい。
次回第14回ではシンポジウム会場にもさらに余裕をもって、より多くのセッションと参加者を迎えるべく、現在企画を進めている段階である。今春には概要をご案内する予定であるが、多数の皆様の参加を期待している。
さて、例年と同じく若手の優れたポスター発表を対象とした奨励賞を選考した。受賞者の方々を一覧にして示す。ご関係の皆様のご努力に心より敬意を表すとともに、この場を借りてお祝い申し上げたい。また、惜しくも受賞を逃された若い研究者の方々の今後のさらなる活躍を期待したいと思う。
■奨励賞受賞者一覧
・Session A: A1-O06-M高山知弘(東大)、A1-O07-G廣田憲之(東大)、A1-P11-D盛岡弘幸(都立大)、A1-P16-G中西周次(阪大)、A1-P17-M高橋宏之(東大)、A2-O05-D藤原幸雄(東北大)
・Session B: B2-P01-M西井雅之(東大)、B2-P07-M望月健一(筑波大)、B2-P09-D尾坂格(筑波大)、B2-P13-D川島康裕(東工大)、B2-P19-M古賀智之(九大)、B2-P21-G斎藤永宏(名大)
・Session C: C1-P12-D角山寛規(東北大)、C1-P14-M古屋亜理(東北大)、C1-P20-D秋山亨(筑波大)、C1-P22-G小原通昭(慶応大)
・Session D: D2-P03-G竹岡敬和(横国大)、D2-P06-G田中穣(福井大)、D2-P12-G武政誠(早大)、D2-P20-M鶴田寛子(横国大)
・Session E: E1-P07-M古林巧(岡山大)
・Session F: F2-P09-B浅野剛司(東工大)、F2-P14-G野口祐二(東大)、F2-P22-M佐々木勉(東工大)
・Session G: G1-P07-M竹内良太(静岡大)、G1-P09-D陳文清(山梨大)、G1-P10-M山本英幸(名大)
・Session H: H2-P11-M三原理江(三重大)、H2-P17-Dモハンメッド・ダウダ(都立大)、H2-P20-M大川伸吾(岐阜大)、H2-P29-B加納茂樹(芝浦工大)
・Session I: I2-P12-M川越大輔(山口大)、I2-P13-M山下康之(慶応大)
・Session J: J1-P04-D村田雄輔(京大)、J1-P07-M千早宏昭(東大)、J1-P19-G渡邉崇(東大)、J1-P21-D
Agyeman Boateng(産総研九州)、J1-P30-M三宅琢磨(東大)、J1-P37-D小川涼(東大)、J1-P39-M小山哲男(神奈川工大)、J1-P45-B村山仁昭(慶応大)、J1-P47-M信田拓哉(早大)、J1-P49-M水野浩行(東大)、J1-P54-G金大貴(大阪市大)、J1-P56-G中村和広(関西大)
■セッションA:
「協奏反応場の増幅制御を利用した新材料創製()」
参加者数:約60名
招待講演(4件)、口頭発表(28件)、ポスター発表(13件)
『反応が進行する「場」に「外界」からエネルギーを印加すると、「反応場」が「非線形な応答」を示す』この現象は「協奏増幅」と定義され、化学反応場に磁界、電界、衝撃力、超音波などのエネルギーを外部から制御して作用させることによって得られる。協奏増幅された材料プロセッシングによって、新機能・高機能性材料の創製が期待される。外界から加えるエネルギーとして、磁界、マイクロ波、プラズマ、応力、電界、超音波などの発表があり、材料合成の立場から、新しい協奏反応場の可能性、協奏反応場を増幅させる制御因子、等について、活発な討論がなされた。また、強磁場プロセス(北澤宏一:東大)、電気泳動堆積(金村聖志:都立大)、マイクロ波照射(滝沢博胤:東北大)、歪み場制御(篠崎和夫:東工大)に関して、それぞれの外場制御の現状と講演者らの最新の成果について招待講演が行われ、各先生の優れた成果に対して質疑が続きしばしば割り当て時間を超過した。2年前の第1回目に比べ、「協奏増幅」の適用が拡がり、プロセス理解が進むとともに、新たな現象の発表もあり、着実に進展していることを再認識させられた。今回は2回目で、持ち時間を15分から20分にすることにより、討論時間を多くとることができた。また、奨励賞をポスターばかりでなく、口頭発表にも適用し、ポスター発表を減らすことができた。ただ、今後、口頭発表にプロジェクター使用者が増えてくると思われ、対策の必要性を感じた。
(目 義雄(物質・材料研究機構))
■セッションB: 「自己組織化現象と新機能」
参加者数:約55名
招待講演(2件)、口頭発表(20件)、ポスター発表(24件)
各種両親媒性化合物に加え、ペプチド、液晶性ポリマー、C60、アゾベンゼン誘導体、ナノ粒子、ゼオライト、シリカ、酸化チタンなどを用いた二次元パターニング、組織的層状構造、ナノ多孔体、新規ゲルなどの形式、制御に関する話題提供があった。
自己組織化による構造形式に加え、電場や光などエネルギー注入型の能動的な構造制御に関する報告が増加傾向にある。また、有害ガスフィルターや繊維芽細胞増殖基板太陽電池など応用ターゲットもより明確かつ多彩になっている。
今回は、オンライン申込みやセッションの2日間開催など新たに採用された企画が多く、混乱してしまい、他のチェアや参加者にご迷惑をかける場面があり、申し訳ないと思っている。また、来年度はプロジェクターも準備した方が良いと思う。これらの点は来年度の代表チェア大久保先生に引き継いだ。
(木下隆利(名古屋工業大学))
■セッションC:
「クラスターを基盤とする新規物質系の創製と機能解明」
参加者数:約45名(最高55名)
招待講演(4件)、口頭発表(26件)、ポスター発表(19件)
招待講演では、ナノ粒子の経済性の問題とそれを克服する構想の重要性、コロイド法生成ナノ粒子の自己組織化と特性、光照射で作製した有機金属クラスターの特異な分子磁石特性、基板坦持ナノ金クラスターの高性能触媒特性など最先端の話題が紹介された。一般講演、ポスター発表においても、サイズの揃ったナノクラスターの生成、組織化、構造、機能につき興味深い研究成果の発表、活発な討論がなされた。
現在、ナノテクノロジーの旗の下、ナノ構造制御物質の研究・開発が盛んであるのを反映して、2日間にわたり、チェア一同の期待を凌駕する充実したシンポジウムが開催できた。伝統的な学会と異なり、運営にはチェアの自発性と負担が要求された。しかし、MRS-J本部の広報、会場、論文発行などサポートを前提に、今後とも話題性の高いテーマの選択、開放的な発表受付などの特徴を活かして、シンポジウムが続けれられるよう期待する。
(隅山兼治(名古屋工業大学))
■セッションD: 「生体高分子ゲルの基礎と応用」
参加者数:約42名
招待講演(2件)、口頭発表(10件)、ポスター発表(22件)
DNA、蛋白質、多糖などが形成する様々な生体高分子ゲルに関する研究が34件報告された。研究方法も熱測定、力学測定、誘電分光、光・中性子・X線などの散乱法が用いられ、広範なスケールにわたってゲルの構造や物性が明らかにされつつあることを感じた。特に、最近の顕微鏡技術の進歩により、メゾスコピックスケールにおけるゲルの構造の実空間上における観察が数件報告されており、将来の研究の発展が楽しみである。また、若い学生や研究者が多数参加していたことも心強いかぎりである。
(鴇田昌之(三重大学))
■セッションE: 「多粒子集合体の組織形成ダイナミクス」
参加者数:約40名
招待講演(3件)、口頭発表(21件)、ポスター発表(5件)
未来技術のキーマテリアルとしてセラミックスが発展するためには、効率的でコスト競争力に優れたプロセス技術と、構造制御による飛躍的な機能、信頼性の向上が必要である。
本セッションは、当初目指したように、膨大な数の結晶粒の配置の制御(粉体プロセス)と、粒子界面の形成プロセス(焼結)による多粒子集合体の組織形成過程、それによる機能発現を、原子電子レベル(電子論、分子動力学)から、メゾスコピック、マクロレベル(不規則系の欠陥形成と強度信頼)にいたる解析技術と制御技術の最近の進歩をもとに議論し、新しい方法論を模索できる場となったと思う。
(若井史博(東京工業大学))
■セッションF:
「ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料」
参加者数:約40名
招待講演(5件)、口頭発表(8件)、ポスター発表(15件)
本セッションは、本年度から新たに始まったセッションであり、ドメインに関するサイエンス、測定方法、その応用等、広い観点から多くの参加者を集めることができた。石橋先生によるオープニングリマークで始まった本セッションでは、以下の興味ある発表がなされた。
まず、測定方法では、東北大学の長先生より3次の非線形誘電率を用いた顕微鏡により、表面でのドメイン観察がnmオーダーのレベルで行えること、さらにはこの顕微鏡を用いてnmオーダーのドメイン反転領域を作製することでメモリーへの応用が提案された。
広島工大の尾崎先生からは、走査型電子顕微鏡を用いたドメイン観察が紹介され、多くの参加者の興味を引いていた。また、午後からはドメイン応用の分野が紹介され、東北大学の伊藤先生からニオブ酸リチウム単結晶に周期的なドメイン反転構造を導入し、擬位相整合技術によりSHGに応用させる技術が紹介された。
早稲田大学の高橋先生からは、ドメイン壁移動を抑制したハード系のPZTセラミックスの圧電応用の例とその原理が紹介された。
最後に、東工大の和田先生から、ドメインエンジニアリングの一つとして、エンジニアード・ドメイン構造が紹介され、そのチタン酸バリウム単結晶の応用例が報告され、その高い圧電特性は注目を集めていた。なお、これとは別にポスターセッションも午後1時から3時まで開催され、15件の発表があった。
本セッションは、本年度から新たに始まったセッションであるため、開催してみて初めて多くの問題点が浮かび上がった。まず、思ったよりも多くの参加者があったため、一時的に会場で立ち見がでるような状態になった。来年度はさらに大きな会場を使用する必要がある。また、参加者のほぼ70%近くが大学関係者であり、産学官の垣根をうち払って活発な議論の場にしたいという本セッションの理念を実行するためには、来年度は50%以上が企業からの参加者になるように、魅力的なセッションにしなければならないことを痛感した。また、1日で行ったこともあり、スケジュール的に非常にタイトであることも反省点として挙げられた。来年度はできれば昼食ぐらいは余裕を持って食べられるくらいのスケジュールにしたいと考えている。
また、参加者をもっと増やすことも非常に重要な課題であると考えている。ぜひとも来年度の参加者は本年度の倍にしたいと考えている。そのため、本年度は二人のチェアで始めたが、来年度は4名ぐらいに拡大し、多くの講演予定者、並びに参加者を集める予定である。
(和田智志(東京工業大学))
■セッションG: 「クロモジェニック材料」
参加者数:約32名
招待講演(1件)、口頭発表(12件)、ポスター発表(8件)
本セッションは、色変化をベースとした人にやさしい表示素子、スマートウィンドウに代表されるエネルギー環境制御材料、色空間を制御するアメニティ材料等、広く物質の色変化をインテリジェントに制御する「クロモジェニックス」という概念を基礎にしている。
当初予想していた以上の参加者を迎え、意義ある討論ができたと思う。具体的には、各種クロミック材料(フォトクロミズム、エレクトロクロミズム、サーモクロミズム、ガスクロミズム)関係の発表が行われた。その中で、センサーへの応用やDNAを用いたアニリンの重合反応に関する報告が関心を集めた。
(山名昌男(東京電機大学))
■セッションH: 「植物系材料の最近の進歩」
参加者数:約45名
招待講演(2件)、口頭発表(14件)、ポスター発表(23件)
木材は人類史の中で最も代表的な材料であり、長期にわたり使用された材料の一つでもある。紙もまた、文明の発達と共に急速に需要が多くなり、情報伝達用、保存用、そして包装用として大量に消費されてきた。しかし、木材や紙の植物系材料の大量消費は森林資源を枯渇させることになる。さらには、これらの材料を焼却する場合も多量の炭酸ガスを大気中に放出させることから地球温暖化の一因となっている。このような状況に鑑みて、本セッションでは森林資源の有効利用、新たな植物系資源の開発、および植物系資源のリサイクルをも含めた高機能的利用法等について最近の進歩を討論する場となることを目指した。
昨今の環境問題を意識した内容の発表が多く見られた。会場が発展的な意見交換の場となったことは企画者としてうれしく思う。また、若手研究者の参加が多く、精力的な研究意欲が感じられ、次年度も大いに期待したいと思う。なお、次年度の開催日をできれば12月上旬に設定して頂ければ有り難いと思う。
(大塚正久(芝浦工業大学))
■セッションI: 「暮らしを豊かにする材料-環境・医療・福祉-」
参加者数:約60名
招待講演(0件)、口頭発表(22件)、ポスター発表(9件)
暮らしを豊かにする材料をキーワードとし、センサー、電池、空気浄化フィルター、人工臓器、人工骨、気体分離膜、薬剤などを目的とした機能性セラミックス、ポリマー、金属複合材料そしてシステムについての報告が集まった。人類の幸福を目標とした“医学”というジャンルが、材料科学の分野においても確立されたと強く感じさせられた。
日頃、異分野と思われている研究者が一時に会し、相互交流出来たことに大きな意味があった。本セッションのような会合は他の学会ではなかなか実現できないことから、日本MRSという学際的な学会の意味を強く感じた。
(井奥洪二(山口大学))
■セッションJ: 「マテリアルフロンティア・ポスター」
参加者数:約100名
科学・技術の進歩は新しい材料の開発や新しい理論の確立などと密接に結びついてきた。本セッションでは金属、半導体、無機、有機の全ての材料とそれらの複合材料に関して、新しい合成方法、優れた特性を有する材料の開発や実用化の展開についての研究発表がなされた。
59件のポスター発表は20日午後、2時間にわたりギャラリーを使ってなされた。特定分野の研究に絞らず、様々な分野の研究者がその研究成果の紹介と、お互いの交流を通じ、新しい材料研究の方向の発見や、問題を議論できる場となったと思う。
(野間竜男(東京農工大学))
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■支部報告
日本MRS山口大学支部2001年度活動報告
1. 講 演 会
(1) 「しなやかなセラミックス」CRC研究協力会セラミックス材料部会他と共催、2001年7月6日、山口大学地域共同研究開発センター
(2) 産学官フォーラム(中国地域研究開発交流会2001in山口)「医療・福祉を支える最先端の計測制御技術」、やまぐち産業振興財団他と共催、2001年9月21日、山口大学工学部
2. 研究発表会
(1) 日本MRS山口大学支部研究発表会、2001年10月6日、山口大学工学部
(2) 第17回日本アパタイト研究会(共催)2001年12月6〜7日、国際ホテル宇部
(3) 第13回日本MRS学術シンポジウム/セッションI「暮らしを豊にする材料―環境・医療・福祉―」、2001年12月20〜21日、かながわサイエンスパーク
(支部世話人:井奥洪二)
■日本MRS第13回年次総会報告
日本MRS第13回年次総会は、2001年12月20日(木)12時30分より川崎市かながわサイエンスパーク西棟KAST講義室で開催され、第13事業年度事業報告・収支報告、第14事業年度事業報告・収支報告、役員選出の各議題が審議のうえ承認・可決されました。それぞれの議題の概要は以下のとおりです。
第13事業年度(2000年12月1日〜2001年11月30日)には、2000年12月7〜8日に第12回年次総会・学術シンポジウムを開催しました。シンポジウムは、A.植物系材料の最近の進歩、B.自己組織化材料とその機能、C.高分子表面の機能化・素子化、D.高分子ゲル―化学ゲルと物理ゲルの接点―、E.巨大機能物性とセラミックス、F.機能調和酸化物―遷移機能酸化物の複合機能―、G.クラスターの孤立系と凝固系―ナノスコピックな特異性からマクロスコピックな機能性へ―、H.単一電子デバイスマテリアルの開発最前線―分子系・ナノ固体系の単一デバイス―、I.燃料電池材料、J.スマートマテリアル、K.物質科学における放射光利用―その場測定とプロセシング―、L.格子確率モデルの数理、M.マテリアルズフロンティア―先進材料ポスター、の13セッションで、総発表件数は549件(口頭246件、ポスター303件)と前年度を上回る大盛況でした。
出版活動としては、シンポジウムのプロシーディングス掲載を主とした学術論文誌「Transactions
of the Materials Research Society of Japan」及び会員連絡誌「日本MRSニュース」を年4回定期刊行し会員に無料配付しました。また、ホームページのサーバを移転し、シンポジウムの各種受付の電子化、English
pageの開設等内外への広報活動の充実化を図りました。
当会の特色である国際協力面においては、IUMRSの定例会議・シンポジウムに出席・参加協力し、また、IUMRS-ICAM2003のホストとして2003年10月10〜13日、横浜パシフィコで開催することとなりました。
2001年11月30日現在の会員数は、個人会員574名(前年度末比17名増)、学生会員50名(25名増)、名誉会員6名(2名減)、法人会員18機関(4機関減)です。
第13事業年度中の収支は、収入合計20,495千円(内出版事業部門収入10,189千円)、支出合計20,445千円(同8,546千円)と収支差額50千円であり、また、次年度繰越金は10,036千円です。
第14事業年度(2001年12月1日〜2002年11月30日)では、この年次総会と併せて学術シンポジウムを開催しており、A.協奏反応場の増幅制御を利用した新材料創製、B.自己組織化材料とその機能、C.クラスターを基盤とする新規物質系の創製と機能解明、D.生体高分子ゲルの基礎と応用、E.多粒子集合体の組織形成ダイナミクス、F.ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料、G.クロモジェニック材料、H.植物系材料の最近の進歩、I.暮らしを豊にする材料―環境・医療・福祉―、J.マテリアルズフロンティア・ポスターの10セッションで活発な議論が展開されております。
次の学術シンポジウム及び前述IUMRS-ICAM2003(横浜パシフィコ)の開催準備を進めるとともに、内外関連諸機関との連絡・協力を続ける予定です。また、「Transactions
of the MRS-J」 及び「日本MRSニュース」の定期刊行、「日本MRSホームページ」の運営を行います。「日本MRS紹介リーフレット」「日本MRS会員名簿」の更新も計画しております。
第14事業年度の収支は、収入合計16,403千円(内出版事業部門6,601千円)、支出合計18,104千円(同6,450千円)と差し引き△1,702千円の見込みですが、支出節減、会費収入増加に努めるほか、当会運営方針再検討の一環として検討したいと考えています。
役員については、吉村昌弘会長(東工大)が退任し、岸輝雄物質・材料研究機構理事長が新会長に選出されました。また、井奥洪二山口大学助教授が理事に新任されたほか、副会長、常任理事、幹事、常任顧問、顧問、理事は全員留任することになりました。なお、会務執行の役割分担が次のとおり吉村前会長より指名されました。総務:吉村昌弘(東工大)、山本寛(日大)、財務:和田仁(物質・材料研究機構)、企画:伊熊泰郎(神奈川工大)、鈴木淳史(横浜国大)、支部:高井治(名大),広報:岸本直樹(物質・材料研究機構)、編集・出版:小田克郎(東大)、出版:鶴見敬章(東工大)。
また、事業年度変更、事務局体制強化問題を含め、当会運営方針の再検討を行い、当事業年度内に臨時総会を開催する予定です。
ご 案 内
■日本MRS協賛の研究会等
◇第11回インテリジェント材料シンポジウム、2002年3月14日、都市センターホテル(東京都千代田区)、主催/問い合わせ先:未踏科学技術協会、Tel:
03-3503-4681、Fax: 03-3597-0535、E-mail: mitoh@sntt.or.jp
■IUMRSメンバーの会合
◇IUMRS-ICEM2002(8th International Conference on Electronic Materials), 2002年6月10〜14日、Xi'an,
China, 問い合わせ先: Prof. Cheng Jianhua, C-MRS, E-mail: icem2002@btamail.net.cn,
http://www.c-mrs.org.cn/icem2002
◇April 1-5, 2002, MRS Spring Meeting, 2002年4月1〜5日, San Francisco, CA, USA,
Materials Research Society, 506 Keystone Dr., Warrendale, PA15086-7573, USA, www.mrs.org.
◇December 2-6, 2002, MRS Fall Meeting, 2002年12月2〜6日, Boston, www.mrs.org.
To the Overseas Members of MRS-J
■The Aim of Biomaterials Research
Prof.Dr.Yoshito IKADA, Suzuka University of Medical Science
As the term “biomaterial” is not yet familiar even in
the materials research society, the outline of biomaterial was delineated, focusing on the
number of patients receiving organ replacement therapies with artificial organs and organ
transplantation. The costs associated with the provision of such therapies were also
described. A striking fact is that the first year and follow-up worldwide costs of organ
prosthesis exceed $300 billion US dollars per year and represent between 7 and 8% of total
worldwide health care spending. The therapies enabled by pharmaceutical products represent
12% of total health care costs. The most urgent socioeconomic importance in advanced
countries is to reduce the rapidly increasing health care spending. Therefore, the
strongly required task to biomaterials researchers is to do best to reduce the cost of
artificial organs and related biomaterials. It seems likely that development of new
therapeutic technologies will contribute to the reduction of total health care spending.
Tissue engineering will be one of the new technologies, similar to endoscopic therapies.
■Frontier Research and Development Center, Tokyo Denki University
Assistant Professor Dr. Shahariar AHMED, Frontier Research and
Development Center, Tokyo Denki University
Recently advanced technologies for medical science have
displayed a remarkable development, interacting deeply with the fields of electronics,
biotechnology, and new materials. This center opened in 1998 to promote collaboration
research into biomaterial and biosystem of welfare engineering based on the frontier
concept of the Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology.
This center is conducting its activities on Artificial organs & ME system research,
Biomaterial research and Human&Information research.
Main research fields:
・Development of cardiopulmonary devices for the quality of life.
・Development of good biocompatible materials for artificial organs.
・Research and development of different types of medical and welfare related equipment.
■Report of 13th MRS-J Academic Symposium
Vice President of MRS-J, Prof. Hiroshi YAMAMOTO, Nihon
University
The symposium with 10 concurrent sessions was held on 20 and
21 Dec. 2001 at KSP, Kanagawa. Papers of 383 were presented. Very active discussions and
exchange of informations were done at each session. Especially young researchers showed
agressive presentations. Prize winners of MRS-J Award for Young Scientists were listed up.
The following sessions were opened and briefly summarized by each chairperson.
・Session A “Advanced Materials Processing on the Basis of Concerted Amplification(II)”;
Dr. Yoshio Sakka(NIMS); Invited(4), Oral(28), Poster(13)
・Session B “Self-Organization Phenomena and Novel Functions”; Prof. Takatoshi
Kinoshita(Nagoya Inst. Technol.); Invited(2), Oral(20), Poster(24)
・Session C “Clusters and Cluster-Assemblies toward New Functional Materials”; Prof.
Kenji Sumiyama(Nagoya Inst. Technol.); Invited(4), Oral(26), Poster(19)
・Session D “Biopolymer Gels; Science and Applications”; Prof. Masayuki Tokita(Mie
Univ.); Invited(2), Oral(10), Poster(22)
・Session E “Dynamic Microstructural Evolution in System of Grains”; Prof. Fumihiro
Wakai(Tokyo Inst. Technol.); Invited(3), Oral(21), Poster(5)
・Session F “Domain Structure Related Properties and Materials”; Prof. Satoshi
Wada(Tokyo Inst. Technol.); Invited(5), Oral(8), Poster(15)
・Session G “Chromogenic Materials”; Prof. Masao Yamana(Tokyo Denki Univ.);
Invited(1), Oral(12), Poster(8)
・Session H “Progress in New Plant Materials”; Prof. Masahisa Otsuka(Shibaura Inst.
Technol.); Invited(2), Oral(14), Poster(23)
・Session I “Materials for Living-Environment, Medicine and Welfare―”; Prof. Kohji
Ioku(Yamaguchi Univ.); Invited(0), Oral(22), Poster(9)
・Session J “Materials Frontier Poster sessions”; Prof. Tatsuo Noma(Tokyo Univ.
Agricultutre and Technol.); Poster(59)
■Dr. Kishi Was Elected of the New President, MRS-J
On 19th December 2001, the presidents chair for the next one year,
2001-2002, was handed over by Professor Masahiro Yoshimura to Dr. Teruo Kishi, Director of
the NIMS, who will serve the Materials Research Society of Japan.
■MRS Symposium
・April 1-5, 2002, MRS Spring Meeting, San Francisco, CA, USA, Materials
Research Society, 506 Keystone Dr., Warrendale, PA 15086-7573, USA; www.mrs.org.
・June 10-14, 2002, 8th Intl. Conf. On Electronic Materials, Xian, China, J. Cheng;
E-mail cmrssec@public.bta.net.cn; www.c-mrs.org.cn/icem2002/.
編集後記
本新年号は、バイオマテリアルをキーワードにして、「バイオマテリアル研究のあり方」と題した筏先生の巻頭言に始まり、バイオシステム工学・バイオマテリアル研究開発を遂行する東京電機大学の「フロンティア共同研究センター」を紹介しました。次いで、昨年度、本学会が開催した「シンポジウム報告」を記載しました。ご多忙の中、これらの執筆に携わった先生方に深謝申し上げます。
昨今の経済不況下での社会構造改革に関連して、国をあげて大学や研究機関の研究成果を新産業創出に繋げる目的志向型のプロジェクト研究組織への助成事業が積極的に進められています。これは科学技術の役割として、研究成果を短期間に効率良く産業、福祉、環境等へ社会還元するという研究開発上の意義があります。しかし、自然科学の基礎研究を嚆矢として、これと工学技術の相補的融合によって時代を変革するような新材料が創出されました。例えば、ペニシリン、ナイロン、半導体、高温超伝導体等です。さらに自然科学が人類共通の知的財産の継承や文化の創造に重要な役割を果たしてきた史実を考慮しますと、新世紀における経済活動を含めた持続社会の構築と知的文化の創造には、自然科学やこれを基盤とする科学技術の基礎研究の振興が肝要であり、それを推進する助成事業も不可欠であります。本学会は、材料科学に関する萌芽的な基礎から実社会に密着した応用開発研究に至る広い守備範囲を有する横断的な研究専門集団を擁するユニークな存在であり、その役割は今後ますます重要性を増すものと思われます。会員諸兄の多方面にわたるご活躍を祈念します。(藤田安彦)