日本MRSニュース Vol.15 No.2 May 2003
技術の階層化について
社団法人 未踏科学技術協会 理事長 木 村 茂 行
材料は科学技術の根幹であり、材料のブレイクスルーが技術の新展開を促した、という時代があった。今もそうだろうか。我々材料の研究に携わる者にとって、そうあって欲しいという気持はあり、その意欲こそがブレイクスルーを産むと思いたいが、現実を冷静に見詰めることも時には重要である。
昨今、日本の景気は最悪と言われ、'90年代は失われた10年とも表現されている。しかし貿易黒字は減ったわけではない。産業が空洞化し雇用が失われたと言われるが、各自の収入が激減したわけでもない。何が起こっているのか。北澤宏一氏が言うように、日本の新技術が次々と競争力のある製品を生み出し、世界に配送されているのである。そのような、外貨を稼ぐ新技術は、明らかに従来技術の延長線上にあるものは少ない。先日も「バウリンガル」という玩具が米国で表彰されたニュースを聞き、びっくりし感銘も受けたのであるが、犬の気持を読むこのデバイスは大傑作である。翻って、このデバイスの開発に材料のブレイクスルーがどれだけ役立っているかを考えてみると、多分、特筆に値するものは何もなかったという解答に行き着く。一つには、材料が表舞台から消えたということがある。
我々は1970年代、そして1980年代と、幸せな時代を生きて来たのかも知れない。製品に使われている技術が比較的単純で、材料の特徴がそのまま現れる場合が多かったのであろう。しかし、今は明らかに異なる。ブラックボックス化が進んでいる。ブラックボックスの中身は案外時代遅れの単純なものかも知れないが、ブラックボックスの組み合わせが、ワンランク上のレベルの技術を可能にしている。この組み合わせは当然ブラックボックスになる。ブラックボックスの階層化である。この階層は時を経てさらに重層化して行く。この現象は、ソフトウェアでも、電子回路でも、またモーターなどに附属するギアなどでも、かなり昔から見られている。多分、筆者の知らない多様な世界でこの現象が大規模に起こっているものと推察される。技術の階層化の中では、材料がいちいち議論されることはない。
さて、ここで材料の研究とは何か、という問題に向き合わねばならない。技術の階層化が高度に進んだ世界で、材料研究者が扱わねばならないのは、ブラックボックスの最小単位の中身である。従来より効率的に、あるいは安価に作動するブラックボックスの実現に始まって、ブラックボックスそのものを素子化すること、さらに進んで、ブラックボックスの組み合わせを単一素子化すること、という一連の方向が考えられる。つまり階層の足元からの切り崩しである。材料に求められる性質が高度であれば、それだけ階層の切り崩しは困難になるが、価値は上がる。このように考えてくると、材料研究者はブラックボックスの機能を充分に理解しておくことと、ブラックボックスが高度に階層化された暁にはどのような働きをするものができるのかを知っておく必要があることに気付く。材料研究者も、基本的な物理化学から、実用化された場合の用途・機能に関して知識を身につけなくてはならないのだから、大変である。
しかし問題はそう単純ではない。ブラックボックスの組み合わせが、システム単位で置き換えられてしまうことがあるのである。昔、よく言われていたが、意外な材料によって従来材料が駆逐されることを「足元から掬われる」と表現した。技術の階層構造にもそれが縦横に生じ得るのである。新材料を開発して、開発者が思いもかけなかった用途が見つかることがある。技術の階層にもそのような組み合わせがあるということである。このことは留意しておく必要がある。
ナノテクノロジーが材料研究の決め手のように言われる昨今、技術の階層化の観点からナノテクノロジーを見ておく必要があるだろう。ナノテクノロジーの本質的な特徴は、好みの原子を1個から数十個単位で空間的に自由に動かし、これらから成り立つ構造物を自由に作れる、と言う点にあるとしておく。明らかに素晴らしい技術であり、夢は多い。これを階層構造に組み込むには、最小単位の機能のデザインがまず必要である。半導体デバイスではすでにこの探索が始まっており、様々な提案がなされている。
しかしこれだけを追っていては戦略がないとの謗りを免れない。ナノテクノロジーの将来は技術の階層化にあると信じれば、これらの最小単位デバイスを組み合わせることを考える必要がある。逆に組み合わせの観点から最小単位デバイスへの要求も少なからず出てくる。従来の階層技術が、かなり初歩的なものから出発したことを考えると、ナノスケールのブラックボックスも初歩的なものから出発して良いのであろう。温故知新、どんな場合にも歴史には学ぶものがある。
明確なことは、このような観点に立つならば、必ず実用化される技術に繋がるということである。誰が見ても、原子を1個ずつAFMのカンチレバーの先でつまんでいては、材料製造の実用化技術にはならない。すでにナノテクノロジーは研究者の道楽であるとか、貴重な国家予算の無駄遣いであるとか、いろいろな批判が噴出している。我々材料研究者は、研究費バブルとでも呼べそうな現今の科学技術政策を活用して、次の時代における我々自身のプレステージを確立する努力を払うことが求められている。その解答の一つが技術の階層に注目することではないかと、筆者は考えるのである。
皆さんはどうお考えですか。
東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター
東洋大学 バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター センター長 前 川 透
1. 設立の目的と経緯
20世紀は、学問的にも産業的にもエレクトロニクスと生命科学の出現とその発展・興隆によって特長付けられた世紀といっても過言ではないが、東洋大学では、21世紀には従来の半導体技術だけでは早晩限界が来ることが予想され、また一方では今後バイオテクノロジーがますます重要になるとの独自の判断に基づき、学内特別プロジェクトとして平成5年に「ナノ・エレクトロニクス」、平成6年に「極限バイオテクノロジー」を発足させた。さらにバイオテクノロジーとエレクトロニクス技術を融合し新しい研究分野を拓くという野心的な目的をもって、文部省「私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業」に応募し、事業初年度の平成8年度に「バイオ・ナノエレクトロニクス―生命科学と量子デバイス工学との融合による知的システムの実現と生命機能の解明に向けて−」の研究プロジェクトで採択を受け、東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究センターを設立した。
センターの独立研究棟設立資金およびその後の設備整備・経費は文部科学省の“私立大学ハイテク・リサーチセンター整備事業”の採択を初年度に受け、その補助金で支援されてきた。この事業はまず1996
-2000年度の5ヵ年計画として採択されたが中間時と最終年度の成果で高い評価を頂き、引き続き第二期の5ヵ年も採択された。センターで行っている研究のうち「極限環境微生物とナノエレクトロニクスを融合するマイクロデバイスの開発研究」は実用化が近く、1999年以降“新産業創出の可能性のある研究”に対する補助金制度「新技術開発研究」に採択されている。
2. センターの特色
本センターの特色として以下3点が挙げられる。
(1) 研究分野の学際性
バイオテクノロジーとエレクトロニクスの両分野で高い専門性をもった研究者がユニークな組合せで一つのセンターの中で密接に連携を取り合いながら融合分野の開拓を目指している。
本センターの研究陣は本学教員、理化学研究所、海洋科学技術研究センター、国立身体障害者リハビリテーションセンターからの客員研究員、さらに海外からの客員研究員で構成されている。
センターで行われている研究は次の4主要分野に分類される。
@ ナノテクノロジーと生命科学を結びつける基礎科学
A 極限環境微生物とその応用
B ナノエレクトロニクスとその応用
C バイオ分析マイクロシステムの開発と生命科学への応用
(2) 教育・研究活動の国際的連携
1996年ノーベル化学賞を受賞したサセックス大学教授Sir Krotoは日本学術振興会の「著名外国人研究者招聘事業」により2001年から本学客員教授に就任し、ナノテクノロジーと生命科学の融合領域の研究を始めた。パリ第七大学のBacri教授とPau大学のMontfort教授はソフトマター物理とそのバイオ分析システムへの応用について本研究センターとの共同研究に参加している。またモンタナ大学のKalachev、Derrick両教授もセンター客員研究員として参画している。
(3) 地域に根ざした産官学共同研究
東洋大学は、センター設立以前から理化学研究所、埼玉大学、日立基礎研究所などとは地理的要因もあり、研究・教育面で密接な交流を保ってきたが、近年埼玉県との協力関係が急速に強化されつつある。平成13年2月に県主催の「第3回 むさしのサイエンス&テクノロジーフォーラム」の全講演(4件)を本センターの研究員が引き受け、聴講していた関東経済産業局のスタッフや企業関係者から好評を得た。平成14年4月から15年3月まで、埼玉県工業技術センターの研究員が本センターに常勤者として派遣され、環境中の有害物質を分解する極限環境微生物の探索・スクリーニング技術の研修を受けている。また、埼玉県は平成14年7月に地域結集型共同研究事業(文部科学省/科学技術振興事業団)にバイオテクノロジーで応募したが、この研究計画は埼玉大学、理化学研究所と本センターが核となって立案したものである。
センターでは今までの基盤技術、要素技術の研究を進めると同時に、バイオ分析チップを組み込んだ携帯型センサーなどのシステム化や生体物質の非線形特性を活かしたエレクトロニクス設計などの応用研究も進めつつあり、受託研究や研究員の受け入れや技術指導など、産官学連携で新規産業を創生しうる数少ない一拠点としても評価されている。
3. 主な主要設備
センター1階に200m2のスーパークリーンルームを整備し、半導体極微細加工技術に必要な一連のプロセス装置、評価装置を準備している。これらを駆使して、ナノエレクトロニクス研究、マイクロバイオ分析システム開発を行っている。特筆すべきは、半導体ナノテクノロジーのS中核をなす電子ビーム描画装置の加速電圧に75keVをいち早く採用し、20nm級の極微細リソグラフィーを可能にした点である。
4. 研究例
(例1)極微細電子デバイス―SOI基板上に作製したMOSFET;工学部コンピュテーショナル情報工学科 鳥谷部達教授、花尻達郎助教授
(例2)ナノサイエンス―磁性粒子によって形成されるクラスター―磁場強度、粒子数密度、系のサイズ、温度等によって様々なクラスター構造が自己集積化により形成される。ナノ・エレクトロニクス、ナノマイクロ流体(レオロジー)への応用が期待される;工学部コンピュテーショナル情報工学科 前川透教授
(例3)マイクロバイオ分析システム―高密度プラズマによる高速高アスペクト比ガラス加工技術を確立―;工学部電気電子工学科
一木隆範助教授
(例4)極限環境微生物への遺伝子導入法(エレクトロポレーション法)の開発;生命科学部 掘越弘毅教授、伊藤政博助教授
(例5)電気化学タンパク質高感度センサー:ヤトロン(高信頼性免疫試薬を長年生産している専業メーカー)との共同開発。従来のデスクトップ型センサーの超小型化が可能になる;工学部応用化学科 今川宏教授;工学部コンピュテーショナル情報工学科 松下宗一郎助教授
(例6)食品鮮度評価センサー;生命科学部 大熊廣一教授
連絡先:東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター 前川 透 〒350 -8585 埼玉県川越市鯨井2100 Tel: 049(239)1375 Fax: 049(234)2502 E-mail: bnel@eng.toyo.ac.jp URL: http://www.toyo.ac.jp/bio/bio gaiyou.html |
水素電終端シリコン表面上への極作製
株式会社 日立製作所 基礎研究所 藤森 正成・平家 誠嗣・橋詰 富博
1. はじめに
シリコン半導体デバイスは微細化技術の進展により集積度を上げてきたが、近年、技術的限界が見え始めデバイスの集積化に限度が来ると言われており、この限界を打破すべく広く研究が行われている。分子などを組み合わせてデバイスを構成する、いわゆる分子エレクトロニクスもその一環として盛んに研究されており、カーボンナノチューブは複数のグループによりFET特性が報告されている1)。単分子についても伝導特性が測定されるようになってきたが、デバイスへの応用は今後の検討事項である。一方、走査トンネル顕微鏡(STM)を使って原子操作が可能であることが示されて以来2)、この技術を用いて単結晶表面に原子スケールの人工構造物が作製されるようになった3)。その中には原子スケールでの電子回路作製を目指した試みも見られる4)。
こうした原子・分子スケールでのエレクトロニクス実現の問題の一つが電極である。カーボンナノチューブの場合、長手方向の大きさが数 μmほどあるので電極に乗せること自体にそれほど大きな問題はない。しかし、原子による人工構造物や分子に電極を付けるとなると位置決めや表面の平坦性、清浄性など多くの問題が生ずる。分子の場合、単層膜を一方の電極上に作製しSTM探針を対向電極としたり、ナノギャップを開けてそこに分子を配置するなど、現状では測定対象個々に応じた構造の電極が用いられているが、こうした方法は測定対象を変えた場合などに融通が利かない。この問題を解決する手段の一つが複数のSTM探針を一つの装置に組み込み、それらを電極として用いる方法である5)。
我々のグループでも、水素終端したSi(100)表面の水素原子引き抜きによるダングリングボンド細線や、そこへのGa原子吸着によるGa原子細線など、原子操作による人工構造作製を行ってきた6)。Ga原子細線はGaの吸着構造によって半導体や金属、さらには強磁性の発現も理論的に予測されており7)興味深い。また、原子操作による構造物だけでなく、高分子の導電特性測定を目指し、分子の基板への定着方法も検討してきた8)。
これらの伝導特性測定を行う上で避けて通れない電極の問題を解決すべく基板上に電極を形成する方法を検討した。原子操作による人工構造物の大きさから複数のSTM探針を用いる方法は難しい。また、基板として水素終端したSiを用いていることからリソグラフィによる電極作製を試みた。本稿ではその結果を紹介する。原子操作を行うためにも電極形成後に表面が原子スケールで清浄であることが重要である。
2. 電極作製法
図1に電極作製プロセスを示す。作製の流れは以下の通りである。
(1) Si(100)基板に窒化シリコン(SiN)30nm、タングステン(W)15nm、チタン(Ti)15nmの順に成膜する。これらは高融点・絶縁性、エッチング耐性の観点から選択した。その後レジストを塗布する。今回、電極の微細構造部は我々のグループで開発した電流制御型AFM
リソグラフィ9)を用いるため、ネガレジストを使用した。膜厚は50〜80nmである。
(2) パッドなどマクロな大きさのパターンをUV光を使う通常のリソグラフィ法で転写する。
(3) その後、AFMリソグラフィにより微細パターンを描画する。僅かに現像してレジストに数nm
の段差を生じさせ、その段差をAFMで観測することにより位置合わせを行う。
(4) 現像した後、反応性ドライエッチング(RIE)により電極パターン領域以外の膜を除去して基板シリコンを露出させる。これを超高真空中に導入し、通常の通電加熱法により露出した基板シリコンに清浄表面を出す。
作製の基本は、清浄表面実現のための熱処理に備え、それに耐える高融点物質で電極を作ることである。従って、例えばアルミナやマグネシアなどを用いても問題ないと予想される。また、パターンの微細構造部の転写にAFMリソグラフィを用いたが、これも通常の方法、例えば電子線リソグラフィなどを用いることに問題はない。
このように本方法は比較的容易に電極と清浄表面を実現できることも特徴の一つである。当初、ウェットエッチングを利用してより低温での作製を試みたが、ウェットエッチングにより清浄表面を出すことは、使用する薬品や容器、洗浄用水等の清浄性維持など、意外に手間がかかり難しい。実験の都合上、頻繁に基板を準備する必要があったため、上記のような簡便なプロセスを採用する結果となった。
図2に作製した電極の一例を示す。図2(c)に示すように清浄な水素終端面ができていることがわかる。電極幅は50nm程度まで細くできることを確認している。電極間隔も電極幅の3倍程度の距離まで縮めることが可能であるため、150nm前後のギャップを持つ電極を実現できる。実はこの程度の距離まで電極を近づけることができれば我々の目的には十分であるため、これよりも短い電極間距離を持つ試料を作製していない。電極幅が狭くなると熱処理時に断線する可能性が高くなるが、基板清浄化のための熱処理温度が1200℃程度であることから、この温度を下げることができれば電極同士を相当近づけることができると思われる。これにはウェットエッチングが有効であろう。この場合、リソグラフィ後のエッチングとなるため、文献10)にあるようにウェットエッチングだけで清浄表面を出すことは難しいと思われるが、熱処理温度は相当下げることができるであろう。
3. 今後の展開
作製した電極による原子細線の伝導特性測定は既に開始されている。電極以外にも難しい点が多く思うようには進まないが、データは出始めている。また、水素終端シリコン基板への導電性高分子の定着が可能になってきた8)ので、今後は分子系の測定へも対象を広げる予定である。
本研究は、文部科学省の平成14年度科学技術振興調整費による「新しい情報処理プラットフォームのためのアクティブ原子配線網に関する研究」の一環として実施したものである。
参考文献
1) S. Tans et al., Nature, 393, 49 (1998); R. Martel et al., Appl. Phys. Lett., 73,
2447 (1998).
2) D. M. Eigler and E. K. Schweizer, Nature, 344, 524 (1990).
3) 例えば, M. F. Crommie et al., Science, 262, 218 (1993); C. T. Salling and M. G.
Lagally, Science, 265, 502 (1994); Q. J. Gu et al., Appl. Phys. Lett., 66, 1747 (1995).
4) G. P. Lopinski et al., Nature, 406, 48 (2000); Okawa and M. Aono, Nature, 409, 683
(2001).
5) J. Onoe et al., Appl. Phys. Lett., 82, 595 (2003); C. L. Petersen et al., Appl. Phys.
Lett., 77, 3782 (2000).
6) T. Hashizume et al., Jpn. J. Appl. Phys., 35, L1085 (1996).
7) 日本語の解説として, 渡辺ら, 日本物理学会誌, 53, 421 (1998).
8) Y. Terada et al., Nano Lett., to be published.
9) M. Ishibashi et al., Appl. Phys. Lett., 72, 1581 (1998); M. Kato et al., Jpn. J. Appl.
Phys., 41, 4916 (2002).
10) 森田, 徳本, 表面科学, 20, 680 (1999).
図-1 電極作製プロセス
(a) 電極パターンのSEM像
(b) 電極先端部のSTM像
(c) (b)に示す電極間領域のSTM像
図−2 作製した電極
連絡先:株式会社 日立製作所 基礎研究所 藤森正成 fujimori@harl.hitachi.co.jp 橋詰富博 tomi@harl.hitachi.co.jp 〒350 -0395 埼玉県比企郡鳩山町赤沼2520 Tel: 049(296)6111; Fax: 049(296)6006 |
第1回NIMS国際コンファレンス 光技術におけるマテリアルソリューション
物質・材料研究機構 物質研究所光学単結晶G 北 村 健 二(実行委員長)
第1回NIMS(National Institute for Materials Science)国際コンファレンスが平成15年3月17日より19日の三日間、物質・材料研究機構(以下、機構と略)千現地区で開催された。新たな企画としてスタートしたNIMS国際コンファレンス光技術におけるマテリアルソリューション(Material
Solutions for Photonics)は、国内外からの招聘研究者と、機構の研究者および共同研究者が十分な情報交換を行い、今後の研究のあり方、方向性を探ることを目的としている。本コンファレンスは、分野を変えながら毎年開催される。第1回目のNIMS国際コンファレンスでは、機構として歴史は浅いが新たな成果をあげつつあるフォトニック材料の分野に特化した。
現在、IT産業を中心に光技術産業は全体的に勢いを失っているかに見えるが、ふたたび産業全体が回復してくることは言うまでない。しかも、この回復には従来デバイスの量的回復ではなく、新たな質的革新が必要で、この技術革新にマテリアルソリューションによる新規デバイス開発は欠かすことはできない。本コンファレンスは、光産業がどのように回復するか、また、その時機における機構の材料研究のあり方を検討することを目指した。
コンファレンスでは、まず、重点研究分野ともいえるナノテクノロジー、バイオ、通信、環境といった分野で、フォトニック研究がどのように推移しているかに関して4件の基調講演者を招聘した。また、会議は5つのセッションに分けて、それぞれのセッションにおいて世界をリードする研究者を招聘し、レビューおよび先端研究の話題提供、さらに機構からの研究状況の報告がなされた。
セッションI
酸化亜鉛(ZnO)を代表とする金属酸化物半導体、ダイヤモンドなどワイドギャップ半導体の発光デバイスへの応用に焦点を当てている。ZnOは半導体材料としてはまだ歴史が浅いが、近い将来に紫外発光デバイスの実現へ期待を抱かせている。ダイヤモンドも、最近の研究で燐ドーピングによるn型電気伝導が確認されデバイス応用に新たな期待感が芽生えている。
セッションII
強誘電体、特に機構で実用開発を進めているLN/LTを用いたデバイスを中心に、分極反転構造による波長変換の原理および最新のデバイス、通信波長域での信号処理デバイスやそれによる光サンプリングの実験例などが紹介された。多様な用途を有する強誘電体材料に関しては、機構からも最新の成果が報告され、材料からデバイスまで広くカバーできる唯一の研究機関であるとの評価が定着してきている。
セッションIII
テーマは「コロイドのフォトニック結晶」で、特に液体中でコロイド粒子が自己配列して形成されるコロイド結晶からのアプローチを中心に据え、非常にユニークな切り口であった。基礎理論、ファブリケーション、フォトニックバンド評価にまでわたる互いに相補的な関係にある質の高い発表が集まった。
セッションIV
「非線形ガラスと光ファイバー」をテーマとした。金属ナノ結晶の高速共鳴応答や局所場による非線形増強効果、酸化物ナノ結晶の相変化による光透過率履歴応答などナノ粒子に特徴的な光学特性が報告された。方法論としては、ナノ結晶の様々な配列法、ガラス結晶中への3次元導波路作製、石英ガラスファイバーと機能性ガラスの融合技術等による光集積回路への展望等が示された。
最後のスペシャルセッションでは、関連する光技術の分野でベンチャーを設立した企業の代表を招待し、起業の背景や問題点に焦点を当てた。ZnOのLED開発を目指したフランスのベンチャー、ソニーやNECからスピンアウトして起業した例、理研のベンチャー支援、機構から起業したオキサイド社等、様々な事例の報告を得た。また、大阪大学のTLOに関連して、スピンアウトに対する心理的な克服などについても報告があり、科学的な報告と違った面白さが随所に見られた。
合計すると、基調講演4件(海外からの招聘1件)、招待講演39件(海外からの招聘13件、機構研究者による発表9件)、さらに機構研究者および共同研究者によるポスター発表が43件に及んだ。ポスター発表の数からしても、本分野の研究が機構でも活発であることを示している。参加者総数は153名と、当初の目標に見合った規模の会議であった。
全般的にスケジュールがタイトであったことは、かなり辛い面があったことは確かだが、緊張感が生まれて会議全体が引き締まったという利点もあった。また、会議主催側の異なる「ユニット」に属する研究者間の連帯感が醸成され、特に、統合直後のイベントとして有意義であったと確信する。
あらためて、参加者、実行委員、事務局等、関係者各位に感謝の意を表します。また、ポスター会場における商品の展示、予稿集への広告を通して協賛していただいた企業にも、謝意を表します。
会議風景
ポスター及び小品展示会場
■International
Conference on Advanced Materials: ICAM 2003 ―登録料会員割り引きの期限は6月末です。―
主催:日本MRS、IUMRS(International Union of Materials Research Societies)
日時:2003年10月8日(水)〜13日(月)
場所:パシフィコ横浜(横浜みなとみらい)
内容:38シンポジウム、プレナリーセッション、材料教育フォーラム等多数の講演と企画が予定されています。
詳細:IUMRS-ICAM2003事務局(鈴木淳史)、Tel/Fax: 045 -339 -4305、E-mail:
icam2003@ynu.ac.jp、URL: http://www.mrs-j.org/ICAM2003
会員の皆様には、以下の3点に御留意置き下さいますようお願いいたします。
@ ICAMホームページをご参照下さい。<http://www.mrs-j.org/ICAM2003/>
最新情報は更新されますので、ご注意下さい。
A ICAM2003は、3月中旬からオンライン登録が始まりました。
B 登録料は会員は割り引きされますが、早期登録は、6月末までですのでご注意下さい。
■日本MRS協賛の研究会等
◇第15回固体の反応性に関する国際シンポジウム、2003年11月9日(日)〜13日(木)、積水化学工業葛椏s技術センター(京都市南区上鳥羽上調子町2
-2)、第15回固体の反応性に関する国際シンポジウム事務局、〒223
-8522 横浜市港北区日吉3 -14 -1 慶應義塾大学理工学部応用化学科・仙名 保、Tel:
045 -566 -1569 Fax: 045 -564 -0950, E-mail: senna@applc.keio.ac.jp, http://www.isrskyoto.org
■IUMRSメンバーの会合
◇International Conference in Asia: IUMRS-ICA2003,
2003年6月29日〜7月4日、ICMAT2003 Secretariat
Materials Research Society (Singapore) Institute of Materials Research&Engineering 3
Research Link, Singapore 117602, http://mrs.org.sg/icmat2003, Tel: (65)6874-1975, Fax:
(65)6777-2393, Email: icmat@mrs.org.sg
To the Overseas Members of MRS-J
■Stratification of the Technology……p.1
Dr. Shigeyuki KIMURA, Director, The Society of Non-Traditional Society
It has often been believed that materials are the nucleus of science and technology,
resulting that a breakthrough of the materials would cause a trigger for a technology
revolution. This kind of saying will be recognized true, in part, specifically in '70s and
'80s where technologies introduced into the products are thought rather simple and
characteristics of the materials directly reflect features of products. However,
circumstances around a happy mutual relation between materials and products has changed
clearly, in another words, it could be defined as a progress of “Black Box” of
technologies introduced into the products. In this article I would add some considerations
on the recently raised “materials―products black boxes” by the help of a following
key-word, “multi-stratifications of technology.” Finally, I would extend a recent
nanotechnology revolution which will be expected a new set of products from the
stratification of the technology stand of view.
■Bio-Electronics Research Center, Toyo University……p.2
Professor Dr. Toru MAEKAWA, Director, Bio-Electronics Research Center, Toyo University
The Bio-Nano Electronics Research Centre, Toyo University was established in 1996 in
order to conduct advanced combined studies on nanotechnology and bioscience for the
investigation of fundamental biotic functions and mechanisms and for the development of
micro-biosystems. The research conducted at the Bio-Nano Electronics Research Centre is
classified into four main fields, that is, (a) Basic science related to nanotechnology and
bioscience, (b) Extremophiles and their application to biotechnology, (c) Development of
nano-electric devices, (d) Development of micro-biosystems. We have intensively studied
fundamental science related to nanoelectronics and bioscience and developed prototype
micro-total analytical systems in the last five years. Some of our ideas are about to be
commercialized in cooperation with various industries.
■Development of 4-Probe Fine Electrodes on Atomically Smooth Hydrogenated
Si(100)Surface……p.4
Masaaki FUJIMORI, Seiji HEIKE, and Tomihiro HASHIZUME, Advanced Research Laboratory,
Hitachi, Ltd.
A preparation method of an atomically smooth Si substrate with 4 -probe fine electrodes
is described. Thin films are deposited on a Si(100)substrate, then a 10 micron
meter-level electrode pattern is formed on a resist film by conventional lithographic
techniques. A fine-electrode resist pattern is fabricated by scanning-probe nano
fabrication. Then deposited films except for electrode pattern area is removed by reactive
ion etching. After annealing the substrate in ultra high vacuum environment with a
conventional flushing procedure, we could obtain an atomically smooth Si(100)surface
with 4 -probe fine electrodes. The fine electrodes can be used to measure electric
conduction of nano-meter size objects.
■The 1st NIMS International Conference: Materials Solutions for Photonics……p.6
Dr. Kenji KITAMURA, National Institute for Materials Science
The first NIMS International Conference was held on March 17 -19, 2003, at Tsukuba,
Japan. Four sessions around photonics materials in the fields of environmental monitoring,
medical technology, communication technology and optical processing were programmed and
extensively discussed.
■International Conference on Advanced Materials: IUMRS-ICAM 2003……p.7
Reminder: Early-bird reduced registration fee deadline is June 30th.
International Conference on Advanced Materials: IUMRS-ICAM 2003 is scheduled from
October 8 -13, 2003 in Yokohama, Japan. The 39technical symposia programmed, social events
and tours, on-line registration form and hotel reservation information are on the web-site
at http://www.mrs-j.org/ICAM2003.
編集後記
本号では分子・バイオエレクトロニクスというナノテクノロジーの発展に関わる研究トピックス及び研究所を紹介することができました。
21世紀に入りナノテク時代を迎え物理、化学、生物などといったそれぞれ個々に発展してきた学問領域を融合するマルチディシプリナリーな新しい領域がますます重要となってきています。
本MRS学会は横断的・学際的領域に位置し、マルチディシプリナリーな学会ともいえます。毎年行われるシンポジウムでは多くの研究者が参加し、ナノテクに関わる横断的・学際的議論が活発に行われており、今後本学会の重要性が増していくものと思われます。皆様のさらなるご支援ご協力をお願いする次第です。
最後に、お忙しい中、急なお願いにも拘わらず快く御執筆をお引き受け頂いた先生方へ、深く感謝致します。(伊藤 浩)