日本MRSニュース Vol.18 No.1 February 2006
熱力学は材料科学の共通言語
産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門総括研究員兼燃料電池グループリーダー 横川 晴美
私事から話しを初めて申し訳ないが、2000年に科学技術長官賞を、2002年にThe
Electrochemical Society High Temperature Materials Division からOutstanding
Achievement Awardを頂戴した時に、自分がたどって来た道のりを振り返り、どのような材料科学の展開がありえるのかを自ら考える機会を得た。そのときの思いの一端でも書き記してみようと思う。
科学技術長官賞は熱力学データベースに関してもらったので、熱力学データを如何に使うかについて思いを巡らした。熱力学的性質を実験的に決める学問体系を化学熱力学という。熱力学関数は状態(ポテンシャル)関数として定義され、その値を決定するには、2状態間の差として行う必要がある。このため、化学熱力学では、人より先に実験をすることよりも、他のデータとの整合性があるかどうかの方が重要で常に吟味すべき点とされる。苦労が多い割には他人(評価者)から文句(自己評価とは違う評価)を言われる。このスタイルは今でははやらない。多くの有力な研究室が後継者を養成することなく消えていった。後に残された熱力学データの山がある。このデータ(実験データばかりでなく評価値も含めて)群は宝の山である。そのままにして置くにはもったいない。熱力学計算をすべき人に良質のデータを提供することを目指して熱力学データベースを作った。検索・簡単な計算はできるので、もう少しまともに使う気になって化学ポテンシャル図の作図を始めた。これを契機に材料間の界面反応が極めて自然に見通せることになった。これを固体酸化物形燃料電池(SOFC)の材料問題に適用して、上述のように国際的な賞をもらうところまできた。
そのころ、多田富雄の免疫の本を読んでいて、彼が言うところのスーパーシステム(自己増殖機構をもったシステム)の話がえらく気になった。熱力学データベースと、仮名漢字変換システムが良く似ていたので、利用法としては何か参考にならないかと考えていたためである。多田によれば、言語はスーパーシステムとして取り扱えるとのことなので、では熱力学は?という疑問がわく。あれこれ考えている間に、仮名漢字変換システムの方は、パソコンを乗り越え、携帯電話に飛び移り、新たな自己増殖をしている様子。
熱力学と数学は、材料科学の共通言語とよく言われる。言語である以上使うことが大前提である。データを創生する側での勢力退潮はやむを得ないとは思うが、大学の講義でも熱力学が劣勢になっているとのこと。残念である。「共通言語」という言葉は、奥深い言葉だと思う。材料科学の他の領域の研究者と考えを交換するには、最も重要な知の体系であろう。また、エネルギーという概念が微視的な視点から巨視的なものまで同じ定義で適用できるというのもすばらしいと思う。この意味で、材料研究者が「材料そのもの」と会話をするにも熱力学は共通言語を提供しているという思いが強い。最近ではこの側面を更に追求している。如何に相平衡などに関連する熱力学的性質が、欠陥化学的にも重要であり、多くの物性を総合的に理解する足がかりを提供していると考えている。従来から試みてきた方法と組み合わせて、さて、自己増殖のような展開ができているか?
世はナノばやりである。我がグループもその一角を担っている。多くの労力を費やして行う一大イベントと言えるので、その成果が、単なる方言程度に終わらずに大きな成果を上げてほしい。特に、バルクの熱力学は、意外と微視的な記述にも優れていて対象がナノでも共通言語としての特徴は失われていないと実感している。是非、大きな知の体系の中で位置づけることで、更に大きな体系へ至る自己増殖の様な発展を期待したい。
最後に、是非バルクの熱力学に興味をもった人が更にバルクの熱力学本体の増殖を担ってほしい、そういう人が現れてくれると期待しているのだが、さてこちらの予想は如何に?
第16回日本MRS学術シンポジウム
−持続可能社会を創る先導的材料研究−
2005年12月9日〜11日,日本大学理工学部駿河台校舎(東京都千代田区)
第16回日本MRS学術シンポジウムは、2005年12月9日(金)から11日(日)の3日間、昨年同様、東京・御茶ノ水にある、日本大学理工学部・駿河台校舎1号館で行われました。会場となった校舎は2003年に立て直されたため、機器・設備は新しく充実しており、御茶ノ水駅から近いこともあって非常に好評であったように思います。
今年から新たに国際セッションを3セッション(セッションA、G及びH)設けました。この試みは、MRS−Jで発表される先端研究を世界に発信するとともに、日本の学生や若手研究者が、世界で活躍する研究者と交流をもつ機会を提供することを目的にしております。来年からより多くのセッションのご協力をいただき、国際セッション数を増やしていきたいと考えております。こうした活動に、米国に本拠を持つMRSからも大きな期待を寄せていただき、例年行っております若手奨励賞受賞者リストやその研究内容を、米国MRSのホームページ上で公開したいという提案をいただいております。
本シンポジウムは17のセッションからなり幅広い分野をカバーし、日本MRSの理念「先進材料に関する科学・技術の専門家の横断的・学際的研究交流を通じて、その学術・応用研究および実用化の一層の発展を図る」をまさに再現していたと思います。
本年度は、「持続可能社会を創る先導的材料研究」をテーマに、口頭発表(招待講演含む)320件(国際セッション38件、国内発表282件)、ポスター発表331件、合計651件の発表が行われ、昨年同様(昨年合計658件)非常に活気にあふれるシンポジウムになりました。各セッションの発表の様子、トピックスなどは、チェアの皆様にまとめて頂いた以下の報告を参照してください。また、ご参加いただいた発表者各位、セッションチェアならびにシンポジウム企画・運営にあたられた皆様方にあらためて感謝を申し上げます。
さきにも触れましたが、今年も、若手の優れた口頭発表・ポスター発表を対象とした奨励賞を選考しました。対象者423名の中から46名を選出しました。受賞者を一覧にして以下に示します。ご関係の皆様のご尽力に感謝の意を表すとともに、受賞者の皆様にお祝い申し上げます。
▽奨励賞受賞者一覧
・Session A:谷口博基(北大)、昼間裕二(東理大)、松尾孝敏(東工大), 木崎陽一(東大)
・Session B:加藤徳剛(早大), 渡邉智(東理大)、山本哲也(東工大), B1-P20-M 片山久桜理(日大)
・Session C:佐野公大 (山形大), 緒明佑哉 (慶大)、中西尚志 (物材機構)
・Session D:藤井康浩(東ソー), 梅木千真(東北大)、丸屋英二(宇部三菱セメン)
・Session E:湯葢邦夫 (東北大), 北尾多貴男(名大)
・Session F:並河英紀 (北大), 岩崎健太郎 (北大)、木大輔 (東工大)
・Session G:梅澤直人 (物材機構), 原克典(広大), 永井武志(広大), 斎木博和(東工大)
・Session H:加藤俊顕(東北大), 上坂裕之(名大)、竹中弘祐(阪大), 山岡慶祐(阪大)
・Session I:角山寛規(分子研), 吉田英弘(物材機構)、小林浩和(九大)
・Session J:佐藤元(名大),
・Session K: P.Sommani(京大), 金鍾得(産総研)
・Session L:高橋基(物材機構)
・Session M:赤井美則(京大), 小池迪瑠(群馬大)、辻早希子(慶大), 野坂尚司(京大)
・Session N:宍戸道明(山形大), 法兼裕郎(近大)
・Session O:田中真悟(産総研), 佐藤幸生(東大)
・Session P:朴載赫(産総研)
・Session Q: B. R. Sankapal (岐阜大), 桝井基至(日大), 星徹(東大)
▽セッションA:ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料 Domain Structure-related Ferraic Properties and New Functional Materials
本セッションは,招待講演件数(9件),口頭発表件数(12件),ポスター発表(28件)で構成され,強誘電体物質のドメイン構造をキーワードに,セラミックス,粉体,単結晶,薄膜などの材料形態の違いを超えて,理論から応用まで実に幅広い内容の講演が行なわれた。これまで毎年継続して開催され,今年が4年目である。1日目(12/10)の午前・午後2回に分けてポスターセッションを行なった後に口頭講演のセッションを行い,2日目(12/11)には海外・国内からの著名な研究者からの発表による国際セッション(公用語:英語)を開催した。いずれの発表に対しても非常に活発な討論が行なわれ,大変盛況であった。
具体的な内容として,まず様々なドメイン観察法が報告された。ドメイン観察法は,最近非常に有効なものが提案,実用化されてきており,本セッションでもSNOM,圧電応答顕微鏡など様々な方法によるドメイン観察法が議論された。さらに,こういった手法によるドメイン観察結果と強誘電特性,圧電特性,送転移挙動の関係についても活発に議論された。ドメインエンジニアリングという視点からは,電界,熱などを用いたドメイン構造の制御が報告された。特に圧電特性については,少なくとも単結晶では,ドメインサイズをコントロールすることにより圧電特性を向上できることがほぼ確実といえる段階となり,このような知見のセラミックスや薄膜などへの今後の展開が注目される。その他にも,サイト(欠陥)エンジニアリングなど,ミクロな材料設計,制御による新機能材料への様々な取り組みも多数報告された。
また,ドメイン構造に由来する物性に関する研究発表が中心で,工業製品の開発にはすぐに結びつかなそうなテーマであるにもかかわらず,昨年に続き今回も少なからず企業からの参加者を得ることができた。しかし,産学官の垣根をうち払って活発な議論の場とするには,さらなる企業からの参加者が得られるよう,より魅力的なセッションにしなければならない。なかなか捉えどころがない"ドメイン"を"エンジニアリング"するという方向が見えてきている中で企業との連携は,本セッションに求められるますます重要な使命であると考えている。
(坂本 渉 名古屋大学エコトピア科学研究所)
▽ セッションB:分子性薄膜の作製・評価・応用―高度な配向制御、配向解析および機能発現を目指してFabrication, characterization and application of molecular thin films-structural analysis and control toward the realization of novel functions
本セッションでは、有機EL素子や有機FETなど、実用化の出口に近い分子薄膜デバイスの研究者と分子薄膜の構造評価に取り組む基礎研究分野の研究者が交流を深め、分子薄膜系の基礎・応用研究が更に発展することを期待して企画された。発表は招待講演4件、一般講演9件、ポスター発表21件の合計34件で、初日(12/10(土))が、ポスター発表、二日目(12/11(日))が一般講演・招待講演というスケジュールであった。
初日には、午前に11件、午後に10件のポスター発表があった。他セッションと合同であったため、参加者が、他セッションの発表者と討論するなど、MRS-Jの特徴が活かされ、会場も熱気に溢れた。
二日目の午前中に、先ず、「分子デバイスの基礎と応用」と題されたサブセッションが行われた。ここでは、導電性LB膜、有機EL素子、および有機FETに関する最新の成果が発表され、活発な討論が行われた。午前の最後は、招待講演として、東工大の間中孝彰先生により、「新規光学的手法による有機FETの動作評価」と題された講演で、同氏らによる、光学的2次高調波(SHG)を用いて、有機FETのON-OFF状態を非破壊的にプローブする新しい方法に関する詳細なレビューがなされ、活発な議論が展開された。
午後は、「自己組織化とその応用」と題されたサブセッションが、北大・下村正嗣先生の招待講演により始まった。タイトルは、「自己組織化によってパターン化された高分子薄膜のバイオメディカル応用」で、ハニカム構造パターンを持つ高分子膜の構造制御とそのバイオメディカル分野への応用に関する、基礎・応用の両方の観点からの興味深い発表がなされ、多くの聴衆の興味を惹いた。その後、LB膜やゲルの会合体・構造制御に関する一般講演が4件続き、その後、山形大・藤森厚裕先生による、「櫛型高分子化合物の組織分子膜中における構造制御とその評価」と題された招待講演があり、ここでは、最近の成果が、研究のフィロソフィーと共に熱く語られた。そして、最後は、ジョージア大・盛田伸一先生による、「赤外スペクトルを2次元的に展開するアプローチを用いた機能性LB膜の構造解析」と題した招待講演で、同氏らによる手法が、広く様々な分子薄膜系の構造評価に適用できることがわかり易く示され、質の高いディスカッションが行われた。(三浦康弘 桐蔭横浜大院工)
▽セッションC:自己組織化材料とその機能 Z Self-Assembled Materials
: Synthesis and Applications VII
自己組織化を利用した高度な組織体の形成は、従来には無い革新的な手法である。本セッションは、有機系、無機系、生物系、更にその複合・集積系における、自己組織化現象に関する新材料・構造体の創製、それらの構造と機能の解明等の広範な研究を含み、招待講演2件、オーラル8件、ポスター23件の合計33件の発表で、活発な討論が行なわれた。
午前と午後に分かれたポスターセッションの後に、招待講演を含む口頭発表が行なわれた。3件の一般講演の後に最初に行なわれた招待講演では、東工大院理工の高田十志和先生により「トポロジー変化を鍵とする可逆的架橋・架橋点可動型ゲルの創製」の題目で、ポリロタキサンゲルの創製やその三次元構造制御など、分子レベルで展開される機能性の紹介が行なわれ、多様な視点からの活発な質疑応答がなされた。4件の一般講演をはさんだ2件目の招待講演は、鳥本司先生(名大院工)による「サイズ選択的光エッチングによる新規コアーシェル構造ナノ複合体の作製とその光化学特性」と題する講演で、ナノサイズの空間を有する「ジングルベル」型ナノ構造体の創製について空間制御などの詳細な紹介があり、活発な質疑応答が行われた。
以上のように本セッションでは、広く自己組織化に関連して様々な学会で活動している本分野の研究者・学生間の交流が推進され、本分野の一層の展開と深化が図れた。 (多賀谷英幸 山形大工)
▽Session D:暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療Materials for Living - Environment, Energy, and Medicine
本セッションでは暮らしを豊かにする材料その応用の立場から、活発な講演と討論が行なわれた。発表は招待講演2件、オーラル22件、ポスター15件の合計39件で、2日間にわたり行われた。口頭発表の会場では講演の内容が広い分野であったが、活発な討論が行われ、講演時間をオーバーするものもあった。
10日は、まずMn酸化物、ゼオライト結晶構造、ゼオライト膜の合成等の6件の研究成果が発表された。次のセッションでは、ペロブスカイトコバルト酸化物、形状記憶合金を用いたアクチュエーターの位置決め、Al薄膜作製、四ほう酸リチウム単結晶育成等の4件の成果が発表された。
11日は、マイクロ波誘導加熱による銀化合物還元、CdSeナノ粒子の合成と応用、アパタイトコンポジットと配水管スケールの除去方法の発表があった。その後15件のポスターセッションがなされた。午後は2件の招待講演、山口大の松浦満教授による「熱電応用に向けた第一原理電子状態計算による材料設計」と山口大 池田攻教授による「最近におけるジオポリマ−技術の進歩」が行われた。それぞれの招待講演ではその後4件ずつの関連する講演も行われ、質疑応答も活発になされた。
2日間にわたり環境・エネルギー・医療に関する広い分野での研究発表であったが、質の高い講演並びに活発な質疑応答が行われた。
(小松隆一 山口大工)
▽セッションE:熱電変換材料の新展開?材料・デバイス・理論Progress in new thermoelectric materials - material, device and theory
本セッションでは、熱電変換材料の高効率化に関連する最近のトピックス(材料プロセッシング・デバイス・理論など)について26件の一般口頭講演があり、12月11日の朝から夕方まで熱心な討論が行われた。
発表内容は酸化物熱電変換材料に関するものが多かったが,ホウ化物やクラスレート,Al基近似結晶などエキゾチックな新物質の発表もあった。特に森孝雄氏(物材機構)の発見したホウ化物は,熱起電力がマイナスになるN型である。よく知られているように熱電変換材料はP型,N型を組み合わせて素子にする。今回の発見によりオールホウ化物の発電素子実現への道が開かれた。
発表の中心となった層状コバルト酸化物の研究はいっそう広がりと深みを増しつつある。藤井武則氏(東大低温センター)は,様々な層状コバルト酸化物の単結晶を作製し,その電子相図を系統的に調べた。それによれば,物性は,CoO2面の層間に挿入されるアルカリイオンの種類に関係なく,濃度のみで決まるという。太田裕道氏(名大工)は層状コバルト酸化物の興味深い薄膜プロセスについて報告した。この物質の不安定なNaをSrやCaでイオン交換することにより安定で高性能な熱電材料薄膜を作製できる。
(河本邦仁 名大工)
▽セッションF:先進ナノスケール構造体?構造と性質の相関 Advanced Nanostructured Materials -Correlation between Structure and Property
本セッションでは、ナノサイズ物質およびそれらが空間配列した二次構造体の創製、ならびに、構造体が有する構造特異な性質に関して活発な討論が行なわれた。発表は招待講演2件、口頭発表12件、ポスター発表22件の合計36件であり、最終日1日で行われた。口頭発表の会場では質問時間が足りなくなるほど、非常に突っ込んだ実のある討論がなされた。
内容としては、金属・酸化物・炭素材料などの無機材料の創製と物理的・化学的性質に関する研究が中心であったが、人工DNAやポリマーなどの有機物の性質をうまく利用した無機材料の機能化に関する報告が多くなった印象があり、有機?無機複合材料の重要性が今後ますます増してくるように思われた。招待講演では、午前中に北川宏教授(九大院理)により「ナノ空間における固体プロトニクス」に関する最新の研究成果が報告され、金属ナノスケール材料に特有の水素吸蔵特性や相構造変化などについて分かりやすく紹介して頂いた。ナノという大きさは、材料の物理的・化学的性質のみならず構造自身にもバルクでは予想できない変化を及ぼすことを改めて認識させられた。続いて午後には、河合壯教授(奈良先端大物質創成)による「イオン性液体媒質中における半導体ナノ結晶の高発光化」に関する招待講演が行われた。水溶性II-VI族半導体ナノ粒子(主にCdTe)のイオン性液体への抽出による大幅な発光効率の増大について紹介して頂き、発光特性に対するナノ粒子周囲のマトリックス構造の重要性という点で非常に興味深い講演であった。本セッションでは、口頭、ポスターに関わらず、新規なナノスケール構造体の創製と構造特異的な性質について極めて刺激的な研究成果が多く報告されており、今後ともナノスケール材料とその性質に焦点を当てたセッションとして継続していければと思う。
(寺西利治 筑波大院数理物質科学)
▽Session G:次世代電子デバイスのための誘電体薄膜技術Technology of Dielectric Thin Films for Future Electronic Devices - Control of the interface and the Nano-Structure
本セッションでは、次世代電子デバイスのための誘電体技術をテーマに高誘電率絶縁膜や強誘電体薄膜に関する材料・界面制御技術について、招待講演3件と一般講演27件(内ポスター発表17件)の計30件の発表があった。その翌日(12月11日)には、MRS-Koreaとの連携を深める最初の試みとして、「Japan-Korea Special Session on "Evolution and Outlook of Oxide Nonvolatile Memories"」を開催(MRS-Koreaおよび物質材料研究機構との共催)し、両国からそれぞれ7名計14名の著名な研究者を招聘し、招待講演をベースに内容の濃い討論を行なった。
高誘電率ゲート絶縁膜関連の発表では、HfやPrシリケート、およびY2O3 やLa2O3-Al2O3 複合膜において、構造分析や欠陥計測に関する報告があり、Si基板との界面反応や欠陥制御についての議論がなされた。西山氏(東芝)の招待講演では、高誘電率絶縁膜のゲート絶縁膜応用においてボトルネックとして懸念されているチャネル移動度劣化現象に焦点を絞って詳細な議論がなされた。一般講演においても、HfO2やシリケートへの窒素導入が化学構造、電子状態や酸素空孔生成に及ぼす影響が、理論・実験両面から議論された。また、次世代ゲートスタック技術として必須となるメタルゲート、Al2O3/SiC界面やAl2O3/SiN/poly-Si界面の熱的安定性の議論、Ge表面の光窒化やSi表面のプラズマ窒化過程についての発表もあり、昨年以上に幅広い議論の場となった。
強誘電体薄膜関連では、PZTN、PZT、(Ba, Sr)TiO3、(Bi, La)4Ti3O12、Ba(Ti, Zr)O3、(Pb, Ba)TiO3、SBT薄膜についての発表があり、活発な議論が行われた。特に、木島氏(セイコーエプソン)は、招待講演において、Nb添加PZT(PZTN)薄膜の開発経緯を紹介し、Nb添加によって酸素空孔の生成が著しく抑制できる結果、低リーク電流かつ高保持特性が実現できることを明らかにすると共に、高い信頼性を有する64k-bits FeRAMの開発に成功したことを報告し、注目を集めた。
シリコンナノ結晶を利用したフローティングゲートMOSメモリ関連の発表が、平本教授(東大)の招待講演を含めて5件あった。平本教授はデバイス構造において、シリコンナノ結晶フローティングゲートと極細線チャネル構造、ダブルゲート構造、短チャネル構造を組み合わせることで、フローティングゲートデバイスの機能性が格段に向上することを明らかした。微細化限界、性能限界が危惧される現状においても、まだまだ工夫する余地があることが再認識された。 (宮崎 誠一 広島大)
▽セッションH:先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア Frontier of Nano-Materials Based on Advanced Plasma Technologies
本セッションは、昨年度から開催しており、プラズマを用いたナノマテリアル創成に焦点を絞り、プラズマ分野以外の方々にも広く参加を呼びかけて、徹底的に議論する場を創っていくことを目的としている。第2回目となる今回は、日本MRSでは初めての試みとして初日の12月9日に国際セッションを併設し、続く2日間の学術シンポジウムを含め、3日間にわたる活発な討論が行われた。発表は、招待講演12件、一般の口頭発表29件、ポスター発表36件で、延べ3日間の合計77件の盛会であった。
初日の国際シンポジウムは、IUMRS元会長のProf. R.P.H. Chan 先生(Northwestern Univ.)より国際シンポジウム開催に対する御祝辞を戴いての開会に続いて、セッション"Biomimetic Process and Biological Applications"での高井 治先生によるPlenary講演を皮切りにスタートした。初日午後には、 "Based Materials, Oxides and Nitrides"と"Carbon Based Coatings and Nanostructures"に関するセッションを開設し、チェコのProf. Vlcek先生、韓国のProf. J.G. Han先生によるPlenary講演を含め、精力的な発表と議論がなされた。また、国際シンポジウムを記念して開催したReceptionも、ワイン片手に盛況を博した。
2日目は、午前中から午後にかけてのポスター発表に続いて、"エネルギー関連、シリコンプロセス"に関するオーラルセッション、最終日の3日目は、マイクロプラズマ、分子凝集体・ナノ粒子プロセス、炭素系ナノ構造、プロセス装置・計測診断技術に関するオーラルセッションを開設し、いずれも時間を超過しての突っ込んだ討論がなされた。最後に、国際セッション開催にご高配を賜った山本先生、岩田先生、伊井様はじめ、関係各位に深く感謝申し上げます。 (節原裕一 阪大接合研)
▽セッションI:ナノ構造と物性機能発現Nanostructure of Materials and Their Function and Property
本セッションではナノレベルの構造とその物性発現ならびにそうしたナノ構造の応用を視野に入れ活発な討論が行なわれた。発表はすべてポスター(21件)とし、招待講演を5件お願いした。セッションは1日のみであったが、招待講演を50分として時間的に余裕をもたせていただいたので、非常に深い講演内容を頂戴し、質疑応答では突っ込んだ討論がなされたと思う。
10日午前にはポスターによる発表が行われた。ナノ分野の広範囲からの発表が行われた。キーワードは表面・界面となっているように見受けられた。合成、構造、機能の詳細な解析の結果が示され、この分野における日本の底力が示されたと思われる。朝早くから会場は盛況で、狭いと感じさせるほどであった。
午後には招待講演をいただいた。まず物・材機構の樋口昌芳氏が「有機/金属ハイブリッドナノ物質の構造制御と機能」と題する講演で、アゾメチンデンドリマと金属の制御された配位構造の形成とその応用について講演され、原子レベルの秩序構造形成について熱く語られた。引き続き、NICTの横山士吉氏に「有機固体レーザーを目指したデンドリマーの光エレクトロニクス」という題で、デンドリマーが形成する場を利用した色素同士の相互作用制御による固体レーザー製作の試みについて話された。山口東理大の戸嶋直樹氏には「金属ナノ粒子の機能発現」という題で、ナノ粒子の機能、特に液晶にドープされたナノ粒子の影響について深く議論いただいた。名大院理の渡辺芳人氏には、「Molecular Design of Organometalloenzymes」として、人工酵素としてのPd-フェリチン系の構築と鮮やかなX線手法によるその微細構造解析についてお話いただき、最後に、北陸先端大の大谷亨氏には、最先端のDDSに関する応用として「Hydrotropic Dendrimers and Reducible Polyrotaxanes Toward Drug and Gene Delivery Systems」という題でのご講演を頂戴した。いずれの講演に関する質疑応答も活発で、質の高いディスカッションが行われた。 (米澤 徹 東大院理)
▽セッションJ 先導的バイオインターフェイスの確立 Frontier of Biointerfaces (斎藤永宏 名古屋大学工学部)
▽セッション K:イオンビームを利用した革新的材料Innovative Material Technologies Utilizing Ion Beam
本セッションの参加者数は40名、ポスター発表(17件)、口頭発表(17件)であった。
イオンビームを利用した技術は、材料科学の分野において、分析応用から材料創製に亘り著しい発展を遂げて来た。イオンビームを用いた材料創製技術には、非平衡性、励起・反応促進効果や空間制御性等多くの特徴があり、それらを生かした革新的材料の創製が期待される。本セッションでは、イオン工学的手法を用いたナノ材料、薄膜材料、バイオ材料等新材料の研究、あるいは新しいイオンビーム技術等を対象とし、革新的な材料技術を志向する研究発表を募り、横断的・学際的交流を行った。
発表論文は、イオン種については、高エネルギー重イオン、プラズマ、アークイオン、負イオン等、手法としては、イオン注入、プラズマ、PBII、イオンビーム蒸着、イオンビームスパッタリング、高電圧技術等の多様な技術に亘り、材料系については、超伝導材料(YBCO、LSMO, LBMO)、半導体系(Ge)、C系(DLC膜、C膜、硫化物)、窒化物系(TiN)、ナノ粒子系(純金属、酸化物)、酸化膜(TiO2、ZnO)、ポリマー系(ポリイミド、PET、アビジン)、生体材料(ポリスチレン)等、多様な新材料について最近の結果が報告された。最近の傾向としては、イオン注入で、材料表面の光学特性・磁性、トライボロジー等の改質効果を狙った研究、生体適合性を改善する研究に加えて、イオンの効果を用いた薄膜形成技術が伸びている。これらは本シンポジウムの狙いである学際分野に属するものであり、イオンならではの効果が得られている場合が多いものの、必ずしも機構が明らかでない場合が多い。横断的な討論により機構が解明され、革新的材料の研究が進展することが望まれる。
今回のセッションでは、学部及び修士の学生の発表が非常に多く、また、ポスターセッションは午前中であったにも関わらず、多数の来聴者が訪れ、活気溢れる発表と討論が行われた。
(池山雅美 産業技術総合研究所)
▽セッションL:次世代エコマテリアルー環境調和型高機能エネルギー材料 Ecomaterials Next Generation -Environment-conscious Advanced Materials for Energy System
本セッションでは、環境調和型材料について、特に高機能エネルギー材料の合成と構造・機能評価ならびにその応用を中心として、環境影響、ナノ・マクロ構造制御、特性制御の視点から活発な討論が行なわれた。発表は招待講演2件(プログラムでは3件であったが、1件キャンセル)、オーラル12件、ポスター9件の合計23件で、2日間にわたり行われた。招待講演時間20分、一般講演15分と比較的時間が短かったためか、質疑で講演時間をオーバーするものも多かった。
初日の12:30〜14:00には、ポスターセッションが行われた。燃料電池、熱電変換などに関連した発表が多かった中で、間伐材や草などのバイオマテリアル資源の具体的有効利用に関する発表が興味深かった。15:00からの口頭発表では、まず招待講演として名古屋大学の黒田光太郎氏が「材料の環境情報指標の国際開発と標準化」に関する講演を行い、現在NEDOグラントで推進しているプロジェクトの紹介があった。次に招待講演として、チャールズ大学のマトリン氏から「PdSn合金触媒上の低温CO酸化反応」に関する講演があった。続いて一般講演として、高性能充電池用材料に関する刺激的な発表の後、5件の主として燃料電池システム用の材料に関する発表が行われた。
2日目、9:15から6件の一般講演があった。熱電変換に関する発表が3件、カーボン、マグネシウム、間伐材利用に関する発表がそれぞれ1件行われた。材料と環境の係わり合いには多様な側面があり、エコマテリアルとしてのチャレンジングな研究の紹介も目立った。 (篠原嘉一 物材機構)
▽セッションM:機能性ソフトマテリアルとしての高分子ゲルPolymer Gels as Functional Soft Materials
本セッションは、高分子ゲルを機能性ソフトマテリアルという特長を多方面に活かしていく道筋を構築していくための、その原理解明や新規な応用などについての分野横断的な議論を行うことを目的として設定された。発表は招待講演3件、依頼講演1件、オーラル14件、ポスター34件の合計52件で、2日間にわたり活発な討論が行われた。
初日には、招待講演として大阪市立大の西成勝義好氏が「多糖類のゲルとゲル化過程」と題して、食品などに利用されている高分子多糖類のゲルについて、これまでの研究の総括と現状について多岐にわたる報告を行った。その中で、今後の研究の方向について多くの示唆を与えられた。特に、物理ゲルにおいては、鎖のかたさの効果についての検討の必要性が指摘された。依頼講演として、九州大の佐々木茂男氏が「高分子ゲルの弾性緩和」と題して、弾性挙動を理解する上での理論的枠組みについて紹介があり、活発な討議が行われた。2日目には、招待講演として、京都大の古賀毅氏による「組み替え網目のシア−シックニングの分子機構」と題した、最新のコンピューターシミュレーションの結果の報告があった。会合性高分子が網目を構成/再構成する過程で示す、環化機構を経ないシアーシックニング機構がアニメ−ションでビビドに紹介され、シア−シンニングへののりうつりなど興味深い結果に対して活発な討議が行われた。3番目の招待講演として、琉球大の澤岻英正氏による「生体ソフトマタ−における転移と1/f雑音」と題した、数多くの植物を題材とした興味深い研究の報告があった。会議の途中では、今年度で定年退官を迎えられるお二人の先生に対し、花束の贈呈と記念写真の撮影もあり、参加者一同の連帯感を一層高める一幕もあった。
ポスタ−発表、口頭発表ともに活発な質疑応答がくり返され、磁性ゲルといった新しい分野の創造につながる研究発表もあり、質の高いディスカッションが行われた。 (窪田健二 群馬大工)
▽セッションN:生物系資源の最近の進歩Advances in the Application of Biological Resources
本セッションは、日曜日開催にもかかわらず、例年を上回る規模で成功裏に開催することができました。これもひとえに、皆様のご協力とご尽力の賜物と、心より感謝申し上げます。
本年も当セッションでは「生物資源の有効利用、リサイクル、新素材の開発や評価技術、ナノオーダーでの高機能利用法」を中心に最近の進歩について討論してまいります。本年もよろしくお願いします。
招待講演をされた遠藤剛先生(近畿大学・分子工学研)の「炭酸ガスの固定化と反応性材料の応用」では、光合成をなぞった温暖化対策を高分子材料へ応用する熱のこもった講演でした。高分子の魅力と化学の奥の深さに感銘を受けました。花田幸太郎氏(産総研)の「ナノダイヤモンドの製造と応用開発」では、製造方法から最先端の活用まで精力的な研究成果が発表されました。質疑応答も活発で、質の高いディスカッションが行われました。
オーラルセッションは、午前4件と午後10件の2部に分かれて、朝9時半近くから5時まで行いました。米糠や備長炭等の新素材開発、ヒバ油や水中衝撃波の利用研究、炭素の燃料電池電極への応用研究等と幅広い分野にわたり高度な研究発表ばかりでした。分単位のスケジュールにもかかわらず、十分な発表と討議が出来ました。白熱して時間超過が多々ありましたが、発表者と聞き手が一体となった充実した発表になりました。一部、データとパソコンの相性が悪く御迷惑をかけました。機転良く休み時間にしていただき助かりました。
ポスターセッションの発表件数は27件で、10時半から12時まで、DやPセッションと合同で開催しました。竹炭やオカラ、りんご残渣の新材料開発、メソポーラスリサイクルセラミックスやヒノキチオールの利用研究、鶏糞の利用研究や多孔体の水素貯蔵材料への応用研究等と将来の発展が楽しみな分野ばかりでした。質問や討論が活発で、いたるところで順番待ちが出来ていました。発表者の方は、まったく休む時間が無かったと思います、ご苦労様でした。ポスターのデザインも内容も良く苦労と喜びが伝わってきました。
(岡部敏弘 青森県工業総合研究センター)
▽セッションO:ナノ界面の新機能−化学的・機械的・電子的機能の解明と設計Novel Functions of Nano-Interfaces: Understanding and Design of Their Chemical, Mechanical and Electronic Properties
本セッションは、金属・半導体・セラミックス・有機高分子・生体材料等の様々な異種・同種物質間の界面を対象に、ナノレベルからの解明と設計・制御・創製技術の確立を目指す研究の学際的な交流を図ることを目的に開催された。12月11日に19件の口頭発表と7件のポスター発表が行われ、朝から夕方まで活発な討論が行われた。
最初は「結晶粒界」セッションで、セラミック粒界偏析シミュレーション(中村ら・東大、吉矢ら・阪大)、Si粒界のポテンシャル障壁測定(連川ら・東北大)、ZnO粒界の高分解能電顕観察(大場ら・京大)が発表された。続いて「粒界・異相界面」セッションで、ZnOバリスタ機能を粒界の電顕観察・理論計算・電気特性測定を組み合わせて解明する試み(佐藤ら・東大)、ZnO上での窒化物半導体成長(大橋ら・物材機構)、AlN/Al2O3界面の電顕観察(徳本ら・東大)が発表された。午後の「機械的性質・adhesion」セッションでは、界面局所応力の蛍光波長シフトからの測定(冨松ら・東大)、破壊の電顕その場観察(田中ら・東大)、Al2O3/Ni界面の第一原理計算(施ら・産総研)、生体用ポリマー/セラミック接合(金野ら・東大)が発表された。「金属/分子界面、ナノ金属」セッションでは、分子/金属界面の第一原理計算(Belkadaら・同志社)、カーボンナノチューブの電極特性実験(牧ら・慶応)、鉄合金粒界の磁気特性観察(藤井ら・東北大)、Pt合金表面電子状態の第一原理計算(岡崎ら・JST・産総研)が発表された。最後の「金属/無機界面」セッションでは、金属/酸化物ナノ界面触媒の電顕観察(秋田ら・産総研)、Pd/酸化タングステン膜ガスクロミックセンサー開発(高野ら・原研)、Au/TiC系ナノ界面触媒の電顕観察(市川ら・阪大)、SiC/金属・酸化物界面の第一原理計算(田中ら・産総研)が発表された。また、ポスターでは、ダイアモンド中Ni欠陥の強結合近似計算(江本ら・岡大)、フラーレン・ベアリングの分子動力学計算(栗山ら・岡大)、酸化タングステン膜のガスクロミック特性(井上ら・東北大)、ZnO再結晶化処理、及び、GaNのMBE成長と同位体による拡散係数測定(大橋ら・物材機構)、Al2O3/Cu界面、及び、Ai粒界不純物脆化の第一原理計算(香山ら・産総研)が発表された。以上の発表と議論を通じてナノ界面の豊かな機能と大きな将来性が理解でき、統一的に捉えて議論することの重要性が痛感された。
(香山正憲 産総研・ユビキタス)
▽セッションP:エアロゾルデポジション法/コールドスプレー法の新展開 Recent Developments and Future Trend of Aerosol Deposition Method and Conld Spray Method
本セッションでは、エアロゾルデポジション(AD)法とコールドスプレー(CS)法の基礎から応用にまたがる議論が活発になされた。招待講演1件、オーラル13件、ポスター6件の合計20件の発表がなされた。AD法とCS法は、粒子を吹き付けるという点で類似した方法である。しかしながら、これまでは、想定されるアプリケーションの違いなどにより、両プロセスの専門家が集まって行われるセッションは今回が初めての事であり、その意味で刺激のある議論ができたと思われる。
招待講演として信州大学の榊 和彦氏が「コールドスプレーの皮膜特性に及ぼすプロセスパラメータの影響Jというタイトルで、CS法における種々の成膜条件と、形成された膜の性質との関係を体系的に述べられた。それに引き続いて、エアロゾルの流れ解析、加速された粒子の速度評価、微粒子の破壊強度、作成された膜構造や、複合粒子を利用した成膜などの、基礎的な研究発表がなされた。これらは、両プロセスの川上である微粒子の加速の部分から、川下である膜物性まで含んでおり、幅広い議論ができたと思われる。
プロセスの応用に関しては、AD法の圧電材料や高周波応用のデバイスの電子セラミクス材料への応用以外に、生体材料や太陽電池への応用などの発表がなされ、応用範囲の広がりを感じさせる内容となっていた。特に、産総研の朴載赫氏らによる、AD法が低温で金属に直接成膜できる事を利用したメタルベース光スキャナーの研究が、そのコンセプトと試作デバイスの完成度の高さで注目を集め、同氏は奨励賞を受賞した。 (明渡 純 産総研)
▽セッションQ:マテリアルズ・フロンティア Materials Frontier
本セッションでは過去何年にもわたって幅広く無機材料、有機材料、金属材料、半導体材料、複合体材料の最近の進歩に関する発表を募集してきた。今回も、同じ方針で開催し、多種の材料関係の発表を受け入れた。高分子関係の他の学会と重なったこともあり、有機材料に関する研究発表が例年より少なかったことが目に付いた。
過去のこのセッションではポスター発表のみを行ってきたが、今回から口頭発表も含めて開催し、ポスター発表31件、口頭発表10件(招待講演1件を含む)であった。招待講演では静岡大学の以西先生から「反応性蒸着されたMn酸化物薄膜に関する研究の飛跡」という題目でMn酸化物薄膜を作製する研究の詳細、特に酸素量の影響とその制御に関して、講演していただいた。他の発表では、金属微粒子と酸化物の複合材、酸化物と有機材料の複合材、各種薄膜の作製、環境浄化に用いる材料の発表などがあった。
(伊熊泰郎 神奈川工科大)
堀田九大教授とLangdon南カリフォルニア大教授に「宗宮賞」贈呈
International Union of Materials Research Society (IUMRS) は2005年宗宮賞を堀田善治九州大学教授とTerence
G. Langdon 南カリフォルニア大教授の「巨大ひずみ加工プロセスと材料開発」に関する国際共同研究に対して贈呈すると発表した。授賞式は2005年7月5日,3rd
International Conference on Materials for Advanced Technologies (ICMAT
2005) & 9th International Conference on Advanced Materials (IUMRS ICAM
2005)の会期中に行なわれた。
巨大ひずみ加工(Severe Pastic Deformation: SPD)プロセスとは,加工しても材料形状が変わらず試料内に非常に大きなひずみが導入できる方法である。金属材料の結晶粒径をサブミクロンあるいはナノレベルに微細化させることができ,また,第2相粒子の大きさや分布をナノレベルで制御できる新しい材料組織制御法である。堀田教授とLangdon教授は,巨大ひずみ加工法のひとつであるECAP(Equal-Channel Angular Pressing)法を用いて結晶粒微細化の最適かつ効率的な方法を確立した。さらに,このECAP法で超微細組織材料を多岐にわたって作製し,その力学物性を詳細に研究した。ECAP法を含めた巨大ひずみ加工プロセス法は,現在では多くの研究者に注目されていて,2005年9月22日〜26日には堀田教授を大会実行委員長として福岡市で「第3回強ひずみ加工によるナノ材料国際会議」(THe 3rd International Conference on Nanomaterials by Severe Plastic Deformation : NanoSPD 3)が開催された。参加者総数223名(海外21ヶ国より113名,国内110名)を集めて盛況裏に進められた。(http://www.confre.co.jp/nanospd3/)
To the Overseas Members of MRS-J
■■ Thermodynamics as Common Language in Materials Science … p. 1
Dr. Harumi YOKOKAWA, Principal Research Scientist, Energy Technology Research Center, AIST
Chemical thermodynamic properties can provide keys in understanding materials
from various kinds of viewpoints. Experimental determination is, however,
time consuming tasks so that many laboratories already disappeared in the
experimental thermodynamics. Even so, they left a large number of the experimental
thermodynamic functions for materials. This should be common properties
to be used in an appropriate way. Attempts have been made to clarify the
interface stability between dissimilar materials with great successes.
Recently, further attempts have been made to bridge the bulk thermodynamic
properties related to phase equilibria and the defect chemical properties
which are essential in understanding microscopic behavior. This attempt
is also leading some interesting success. It is hoped that bulk thermodynamics
will be again targeted by those people who are working in nano-materials
for further development of materials science.
■ The 16th MRS-J Symposium …p.2
In Ochanimizu,Tokyo, in December 9-11, 2005, more than 1000 scientists of all disciplines attended the MRS-J Symposium, which has been held at the Nihon University's Ochanomizu campus. Seventeen symposia with 651 oral and poster presentations highlighted advances in the basic research and applications of advanced materials.
■ IUMRS Somiya Award 2005 …p.5
Professors Zenji Horita of Kyushu Univ. and Terence G. Langdon of Univ.
of Southern California were honoured the IUMRS Somiya Award in 2005 for
their collaboration on severe plastic deformation as a means of processing
materials.
編集後記
第16回MRS-Jシンポジウム会場は日本大学理工学部で開催され、去年に引き続き、現地責任者として役割を最低限果たせたと思っています。今回一番の心配は、ポスター発表終了後、1時間で口頭発表用に会場を整えなければならなかったことでした。会場アルバイトはほぼすべて当研究室所属の学生でした。しかしながら、予想に反して、たったの30分で入れ換えは終了したのです。正直驚きました。そこかしこで、学生同士の指示が飛び交い、学生同士の協力体制が成立していたのです。そして、みながみな作業終了後(完成図)のイメージを持って、動いていたのです。まだまだ捨てたものではないなと、当研究室の学生ながら、感動したことを覚えています。
さて、私事ではありますが、最近、専任講師となり、大学教育について参加し、考えることが多くなりました。出口保証は(?)、大学院教育とは(?)、卒業・修了する際に胸を張って学生を社会に送り出せているか(?)、学生をただの研究バカにしていないか(?)。本シンポジウムのポスター発表で学生発表者(一流大学の大学院生)と話し合う機会がありました。あまりにもかっこいい事を言うので、相手の発言に対して、"なぜ?どうして?"と問いかけました。案の定"いや、・・・"という返答ばかり。反論は山ほどあると思いますが、この事実を胸に刻み、学生にも自らにも厳しく、正直に接していきたいと思いました。 (岩田展幸)