日本MRSニュース Vol.18 No.2  May 2006


やあこんにちは

体験の蓄積を大切にしましょう

国立東京工業高等専門学校校長 水谷惟恭

 わが国の材料開発のレベルは世界的に見てもトップレベルにあることは、たとえば、東北大や物質材料研究機構の世界中でのランキングが高位であることでも伺える。
 一方では、よく見かけるところの20年、30年先の科学技術開発の予測では、材料の開発も具体的なテーマとして列挙されるが、振り返って検証すると新材料の予測は必ずしも実現していない。技術開発、たとえば、半導体技術では連続的な進展が見られるが、新材料は得てして、不連続的で、階段状になる。以前に、企業の方から、材料開発に関して進展状況を毎年上司に説明するのには苦労する、との話を聞いたことがある。勿論、材料の機能改善は行われているが、改善手法は限られるので、それほどの進展は期待できない。組成や添加物などを変化させて最適な条件を見つける方法や機器は以前に比べて、大いに進歩したので、短期間の達成は驚くべきことである。やや古い話ではあるが、高温超伝導セラミックスが発見されたときには、あらゆる分析、解析手法が動員されて、短期間でかなりの細部まで知ることになったのは驚きであった。しかし、これは材料分析の領域での話であって、超伝導メカニズムとなると、新たな発想が必要となる。
 材料開発には以前からセレンデイプテイ(serendipity)なることが言われていた。広辞苑を引くと「思わぬものを偶然に発見する能力。幸運を招き寄せる力」と書かれている。材料の開発では目標を定めて研究を進めてもその目標物は完成するとは限らない。プロジェクトでは成功しているように見えるが、おおむね、見通しがついているテーマが取り上げられることが多く、全く未知なる内容の追求は少ない。このようなプロジェクトの場合のねらいの一つは関係する専門家が集合して種々の角度から総合的に探求することによる完成までの期間短縮や高い完成度が挙げられる。もうひとつは副産物である。研究から派生する各種の新現象や機能、技術である。最近はこの副産物を積極的に評価し公開する方向のように見受けられる。
 脳科学者の茂木健一郎氏の著書(「脳の中の人生」中公新書クラレ、2005年)のなかで、「思い出すことを大切に、記憶は過去を振り返るだけでなく未来に何が起こるかを予想することや、新しいものを生み出す創造性の働きとも関係している」とのべ、「多くのひらめきは体験がベースになっている」とも述べている。セレンデイプテイは先に書いたような純粋な偶然による幸運ではなく「自分の頭の使い方、気の回し方で左右される。心がけ次第でセレンデイプテイが高まる」。行動してこそ思わぬ出会いがあるというわけである。脳のメカニズムは複雑でこのような簡単な表現では説明できないことを茂木先生はのべておられる。
 また、藤原正彦氏は対談(藤原、小川共著「世にも美しい数学入門」ちくまプリマ―新書、2005年)のなかで、数学の分野での話ではあるが、人間というのは何もないところから新しいものを造ることはできない。真の独創というのはあり得ない。必ずやほかのものと比べてみるということしかできないと語っている。
 材料開発、特に新機能を持つ材料、新機能とは何か、それも発見であるが、行動の中から見つかる可能性は高いが、それに気づかずに居る場合がほとんどである。ほかのものと比べてみる体験や知識を思い出すことが不可欠でありそうだ。材料の教育にあたっては、多くの体験を通して、思い出すべき多くの事例を持つと共に観察力を磨いて、目前で起こっている現象を比べたり、関連づける体験(知識)を思い出したりすることを大切にするべきと思う。教育に思い出を造る努力がもとめられている。


■トピックス

ErSiO超格子結晶
―シリコンフォトニクスに向けた新しい発光材料―

電気通信大学電気通信学部電子工学科助教授 一 色 秀 夫

1. はじめに

 シリコンLSI(大規模集積回路)はムーアの法則に従い開発が進み、ゲート長の縮小化は量子限界に、そしてクロック周波数は金属配線の伝送帯域の限界をむかえようとしている。このためシリコンLSI及びシステム開発におけるパラダイムシフトが迫られている。近年、シリコンLSI・システムに光配線を導入する「シリコン・フォトニクス」が提唱され、欧米、日本各国でCMOSプロセスコンパチブルの光導波デバイス開発が進められている。しかし、シリコン自身は間接遷移型半導体であるため発光遷移確率が非常に低く、発光素子材料には適さない。これまでシリコンベースの発光材料の開発が精力的に行われてきたが、まだ有力な材料が見つかっていないのが現状である。
 この中の一つとして、光源となる希土類イオン、特にエルビウム(Er)イオンをSi中に添加する試みがなされ、その発光特性が詳細に調べられてきた。Erはシリカ系光ファイバーの最低伝送損失波長である1.5μm帯で発光するため、エルビウム・ドープ・ファイバー増幅器(EDFA)として飛躍的な進歩を遂げた。EDFAの場合、導波路長を数十mと長く取れるため、ppmオーダーのErドープ量で十分なゲインが得られている。しかしシリコンベースの光集積デバイスを作るうえではデバイス長を数mmにおさえる必要があるため、そのドープ量は%オーダーを要する。しかし、単結晶Siに不純物としてErを固溶限界(〜0.01%)以上ドープすると結晶欠陥や偏析を引き起こし、1%程度になるとErイオンの励起状態は近接したErイオン間のエネルギー伝達により、最後には結晶欠陥や偏析に流れ込み、非発光遷移緩和してしまう(濃度消光)。
 最近、我々のグループはErを構成元素として15%程度含む新しい材料、ErSiO超格子結晶の作製に成功した1),2)。この結晶はErを構成元素としているため、濃度消光(非発光遷移)の原因となる結晶欠陥や偏析がなく高濃度のEr添加が可能になる。このためシリコンフォトニクスに合致した発光効率の高い小型の発光デバイスが期待できる。本稿ではシリコン・フォトニクスに向けた新しい発光デバイス材料ErSiO超格子結晶について概説する。

 2. ErSiO超格子結晶の作製

 ErSiO超格子結晶は当初、Si基板上にErCl3/エタノール溶液を塗布し酸素雰囲気900℃、3分、その後アルゴン(Ar)雰囲気中で1200℃、3分の2段階熱処理により、自己組織化的に形成された。このときのErSiO超格子結晶の断面透過型電子顕微鏡(TEM)写真を写真-1に示す。この結晶では周期0.86nmの超格子構造を形成していることがわかる。ラザフォード後方散乱(RBS)からその組成比はEr: Si: O=1: 2: 2.4〜4と見積もられている。これまで、報告されているErSiO系結晶は希土類珪酸化物(Er2Si2O7, Er2SiO5)であり、希土類酸化物(Er2O3)とシリコン酸化物(SiO2)の複合酸化物(入れ子構造)であり、その化学量論比はそれぞれの酸化物の構成比が反映している。これに対してErSiO超格子結晶はSiの組成比が高く、酸素の組成比が比較的低い。これはEr2O3-SiO2系相図に基づく平衡反応とは異なり、酸素熱処理でEr-O前駆体が形成され、その後の高温処理でSi基板からSiが供給されるとともに特殊な熱平衡状態で結晶化が進んだものと推察できる。
 以上の議論をもとに我々はSi基板上へのErSiO超格子結晶薄膜の作製方法としてポーラス・シリコン(PS)を母材とする方法3)、ゾル-ゲル(sol-gel)法4)及び有機金属分子線エピタキシー(MOMBE)法5)を提案した。以下、ゾル-ゲル法について述べる。
 ゾル-ゲル法は酸化物薄膜形成に適した方法であり、溶液調合段階で含有金属の組成比を簡単に制御できる。溶液調合段階でErSiO超格子結晶同様にEr: Si=1: 2とし、Si基板上への溶液スピンコーティング後、ゲル化→焼成処理(600℃、30分)を行う。この段階でErSiO薄膜は非晶質である。このErSiO非晶質薄膜をプリフォームとし、Ar雰囲気1250℃、30分の自己組織化(結晶化)を行うことによりErSiO超格子結晶薄膜を得ることができる。TEM観察に加え、粉末X線回折の結果から超格子周期0.86nmの回折ピークを観測するとともに、厚さ50nm程度の薄膜において非常に配向性の高い結晶が得られることがわかった。またこれまでにEr-Oを有する有機金属材料を用いたMOMBE法においてSi基板上へのヘテロエピタキシャル成長の可能性を示唆する結果が得られている6)

 3. ErSiO超格子結晶の発光特性

 ErSiO超格子結晶薄膜中のEr3+イオンの4f電子内殻遷移(4I13/24I15/2)に起因する発光スペクトル微細構造が観測された。図-1にPS法、sol-gel法及びMOMBE法で作製したErSiO超格子結晶薄膜からの20K(図-1(a))及び室温(図-1(b))フォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。20KのPLスペクトルにおいて半値幅1meV以下の8本の発光ピークが観測されている。これはf電子の第一励起状態(4I13/2)の底から結晶場分裂した基底状態(4I15/2)への遷移に対応する(図-1)。立方対称以外の結晶場においてこの基底状態はクラマース縮重により8つ(立方対称で5つ)に分裂することがわかっており、このことはErSiOの結晶化に伴う均一な結晶場により1つの種類のEr発光中心を形成していることを示している。これに対し多くの希土類ドープ発光材料やガラス系非晶質母材では、不均一な結晶場のため発光スペクトルの不均一広がりがあり微細構造は観測されない。室温においてもこの均一な結晶場の効果は大きく、図-1(b)が示すとおり半値幅4meVの鋭い発光ピークおよびPLスペクトル微細構造が観測されている。さらにf電子内殻遷移は格子及びフォノンの影響をほとんど受けないため、発光波長の温度依存性が非常に小さいことが知られている。このため20K及び室温におけるPLピークの波長シフトは観測されていない。また発光強度の温度消光は20Kから室温で1/3〜1/5程度と小さい。以上の結果はErSiO超格子結晶薄膜の作製法によらず観測されている。これらのことから、ErSiO超格子結晶は発光波長1.53μmの高安定発光材料であることがわかる。

 4. ErSiO超格子結晶の半導体的性質

 シリコン・フォトニクスにおける発光材料としては、EDFAのように光ポンプではなく電気的な発光制御が可能であることが望まれる。ここではErSiO超格子結晶の半導体的性質について述べる。図-2にErSiO超格子結晶薄膜の光伝導スペクトル及びPL励起スペクトルを示す。
 光伝導スペクトルにはバンドギャップ1.1eV程度に対応する光吸収端が存在し、ErSiO超格子結晶が半導体であることを示している。ErSiO超格子結晶薄膜のホール測定から伝導タイプはp型であることがわかり、このときの室温におけるキャリア密度は〜2×1019cm-3、移動度は〜180cm2/V・sであった。PLEスペクトルと光伝導スペクトルを比較すると、バンド構造はほぼ一致するが、PLEスペクトルではこれに重畳した鋭い吸収ピークが現れている。このことはErSiO超格子結晶におけるEr3+イオンの励起過程が2つ存在することを示している(図-2)。一つめは、Er3+イオンの直接光吸収(4I15/24I11/2)による励起過程でPLEスペクトルにおける鋭い吸収ピークに対応する。もう一つはErSiO超格子結晶中に光励起された電子-正孔対の再結合エネルギーがEr3+イオンの4f電子に伝達される過程でPLEスペクトルにおけるブロードな吸収バンドに対応する。吸収ピーク波長では直接吸収過程の方が4倍程度効率は良いが、電子-正孔対の再結合については広いスペクトルでの伝達が可能となる。またPLスペクトルの励起波長依存性を調べた結果、励起過程の違いによるPLスペクトル微細構造の変化は見られていないことから、励起過程によらず同一のEr発光中心が励起されているものと考えられる。以上のことは、半導体であるErSiO超格子結晶では電子-正孔対の再結合による効率の良いEr3+イオンの励起が可能であることを示している。すなわち電流注入型の発光デバイス、発光ダイオード(LED)やさらには半導体レーザー(LD)開発の可能性を示唆するものである。

 5. おわりに

 本稿では「シリコン・フォトニクス」のために我々が新しく開発したErSiO超格子結晶を紹介した。この結晶の特徴は周期0.86nmの超格子構造をもち、Erを構成元素として15%程度含んでいるところにある。単結晶化に伴う均一な結晶場により、Er3+イオンの4f内殻遷移に起因するPLスペクトル微細構造が観察され、PL発光特性は温度にほとんど依存しない。さらに、ErSiO超格子結晶は半導体的性質を示し、Er3+イオンの4f電子がホストの電子-正孔対による効率の良い励起が可能であることが示された。以上の結果はErSiO超格子結晶がシリコン・フォトニクスにおける電流注入型発光デバイスの材料として有望であることを示している。ErSiO超格子結晶は筆者の知る限りこれまでに報告例がなく、従来の希土類珪酸化物とはとはまったく異なる結晶であり、結晶学的見地からも興味深い材料である。

参考文献

1) H. Isshiki, A. Polman and T. Kimura, Fine structure in the Er-related emission spectra from Er-Si-O complexes at room temperature under carrier mediated excitation, J. Luminescence, 102-103, 819 (2003)
2) H. Isshiki, M.J.A. de Dood, A. Polman and T. Kimura, Self-assembled infrared-luminescent Er-Si-O crystallites on silicon, Applied Physics Letters, 85 (19), 4343 (2004)
3) T. Kimura, K. Ueda, R. Saito, K. Masaki and H. Isshiki, Erbium-silicon-oxide nano-crystallite waveguide formation based on nano-porous silicon, Optical Materials, 27, 880 (2004)
4) K. Masaki, T. Kawaguchi, H. Isshiki and T. Kimura, The effect of annealing conditions on the crystallization of Er-Si-O formed by solid phase reaction, Optical Materials, 28, 831 (2006)
5) K. Masaki, H. Isshiki and T. Kimura, Erbium-silicon-oxide crystalline films prepared by MOMBE, Optical Materials, 27, 876 (2004)
6) H. Isshiki, M. Masaki, K. Ueda, K. Tateishi and T. Kimura, Towards epitaxial growth of ErSiO nanostructured crystalline films on Si substrates, Optical Materials, 28, 855 (2006)









■研究所紹介

財団法人 高輝度光科学研究センターと
大型放射光施設SPring-8

財団法人高輝度光科学研究センター広報室長・加速器部門主席研究員 原  雅 弘

 1. はじめに

 大型放射光施設SPring-8(Super Photon ring 8 GeV)は世界最高性能の放射光を発生することのできる大型の実験施設であり、兵庫県西播磨にある。日本原子力研究所と理化学研究所が共同で建設し、高輝度光科学研究センター(略称JASRI: Japan Synchrotron Radiation Rsearch Institute)が1997年10月から共同利用施設として運転・維持・管理し、研究者の利用に供する業務を行っている(写真-1)。
 放射光は、高エネルギーの電子が磁場等で軌道を曲げられたとき接線方向に放出される電磁波のことで、1947年に観測されてから約60年になる。放射光は既存の光源と比べて、@極めて明るい(輝度が高い)、A光ビームが細く絞られていて広がりにくい(指向性が高い)、BX線から赤外線までの広い波長領域を含む、C偏光している、D非常に短い時間パルスの繰返しである、などの特徴がある。

 2. SPring-8の特徴

 SPring-8の加速器施設は線型加速器、シンクロトロン、蓄積リングで構成される。蓄積リングに入射・蓄積された8GeVの高エネルギー電子ビームは、蓄積リング内を周回しながら偏向電磁石や挿入光源(アンジュレータやウィグラー)で軌道を曲げられるたびに放射光を発生し続ける。発生した放射光を取り出して利用するための装置がビームラインであり、基幹チャンネル、光学ハッチ、実験ハッチからなる。偏向電磁石または挿入光源で発生した放射光を光学ハッチで整形した後、実験ハッチに導き、試料に照射して実験する。このようなビームラインが62本まで設置できるが、現在48本が稼働中である。
 SPring-8の主なパラメータを表-1に示す。SPring-8は放射光専用の蓄積リングとしては世界最大の電子エネルギーと最大の周長を有し、入念なマシンスタディーの結果電子ビームの性能(エミッタンス、バンチの純度、ビーム寿命、ビーム電流、安定度など)は文字どおり世界最高水準となっている。年間約5,300時間運転し、そのうち約4,000時間が利用者に提供されている。
 SPring-8には多くの特徴のある挿入光源が設置され利用されている。電子ビームが通過する真空部に磁石を封じ込める真空封止型のアンジュレータを標準型アンジュレータに採用することで、磁石列間のギャップを狭くし、その結果磁石周期を短くすることが可能となっている。磁石の配置の工夫で垂直偏光、ヘリカル型、可変偏光型、8の字形、リボルバー型など、偏光特性などで高性能なものが設置されている。また長直線部には世界最長25mの長尺アンジュレータが設置されている。
 放射光を利用するためのビームラインには、施設者が設置して多数のユーザが順番に使用する「共用ビームライン」、特定のユーザが自分たちの負担で設置して専用に使用する「専用ビームライン」、「理研のビームライン」がある。
 共用ビームラインはJASRIが管理運営しており、年2回課題の募集をして課題選定委員会で採択された実験に利用される。課題は生命科学、散乱・回折、XAFS、分光、実験技術、産業利用に分けて審査される。専用ビームラインは現在9本稼働している。利用料金は共用でも専用でも結果を公表(成果非専有)すれば無料である。

 3. JASRIにおける研究

 JASRIが管理運営しているSPring-8は世界一高性能の光を供給するのが一番大きな役割である。最先端の科学技術の実験をするための最高性能の道具を提供する。それゆえ、SPring-8における研究の多くは外部の利用者が担っている。JASRIでも自主研究には力を入れていて、放射光を用いた研究もあるが、JASRIでの研究は道具として供給する光の性能をよくするための研究が中心である。そしてそれを主として担っているのが放射光研究所の加速器部門、ビームライン技術部門、利用研究促進部門、産業利用推進室である。各研究部門はグループ・チーム制を敷いている。
 (1) 加速器部門
 加速器部門の役割は、線型加速器、シンクロトロン、蓄積リング等の加速器を運転・維持・管理して、安定で高性能の放射光を供給することである。加速器部門は運転/軌道解析、制御、線型加速器、リング加速器の4つのグループがあり、それぞれの下にいくつかのチームがある。
 加速器部門における研究開発は、加速器の運転に伴うものとして、線型加速器・シンクロトロン・蓄積リングの運転・調整の高度化、ビーム不安定性の抑制、加速器診断技術の開発、軌道安定性の改善、制御系の高度化、高性能電子銃の開発、短パルスビームの生成の研究、放射線損傷や真空の改善、加速空洞の改善、機器の振動の抑制の研究、超伝導ウイグラーの開発、電子ビームの低エミッタンス化、トップアップ運転など、加速器としての性能を高める研究が多く行われている。
 (2) ビームライン技術部門
 ビームライン技術部門は、ビームラインの運転、維持管理および高度化、ビームラインに関する研究、施設利用の技術指導および技術支援、技術情報のデータベース化、等を行い、光源・基幹チャンネル、光源系・輸送チャンネル、制御、共通技術開発、共通技術支援の5つのグループから成る。現在25個の直線部に挿入光源が設置され、特徴のある挿入光源の開発(偏光特性、短ギャップ)、磁場測定、軌道変動の補正、光軸調整、偏光度の測定など光源の性能改善が行われている。光学系・輸送チャンネルにおける機器開発でも光学素子の冷却系改善、ミラーの高度化、光学系の振動抑制、放射光を取り出すベリリウム窓の平坦化などを行っている。また放射光の測定器、検出器の開発も行っている。
 (3) 利用研究促進部門
 利用研究促進部門は、構造物性T、構造物性U、構造物性V、分光物性T、分光物性U、構造生物、イメージングの7グループからなり、それぞれの下にチームがある。
 部門の各グループは複数のビームラインを担当しており、ビームライン1本1本が光源なので、通常の規模の研究室に対応するのかもしれない。利用支援と技術支援業務の総合調整を行い、施設利用の技術指導と技術支援、放射光を用いた実験手法の研究、放射光利用研究、放射光の発生・利用技術に関する研究などを行う。
 産業利用推進室は主に産業利用の支援を行っている。コーディネータ制度を充実して対応している。
 現在、利用研究に戦略的な観点を導入し、新たな利用者の参入を促し、産業利用促進・本格的利用期に応じた組織の改革を行い、研究成果の最大化を目指した重点的な研究推進とプロジェクト研究の実施、コーディネータ制度の充実、施設の高度化の促進などで対応している。表-2にSPring-8で現在稼働中のビームラインとその主な研究内容を示す。また、写真-2と写真-3に蓄積リング実験ホールのビームラインと実験ハッチの例を示す。ビームライン毎の仕様や備えられている測定装置、利用の事例や成果はホームページに詳細が掲載されているので参考にして欲しい(http://www.spring8.or.jp/)。

 4. 今後の課題

 SPring-8は供用開始以来順調に運転・維持・管理されてきた。しかし、現在大きな節目を迎えている。JASRIと三者一体で研究・運営等を行っていた理研・原研の独立行政法人化である。2005年10月には原研が原子力研究開発機構となりSPring-8の運営から手を引いたことである。さらに2007年7月から、JASRIはこれまで指定法人としてSPring-8を管理・運営していたが登録法人となる。これらがSPring-8の運営に大きな影響を与えることが予想される。SPring-8を取り巻く様々な環境の変化にも拘わらず、設備・測定機器等を世界最高性能に保ち続けなくてはならない。そして顕著な研究成果を得るためにはインハウス・スタッフによる研究開発が重要であり、加速器・実験技術・研究手法の高度化に向けた研究課題を地道に実施していくことが今まで以上に重要であると思われる。












■ご案内

学術シンポジウムセッションテーマおよびチェア公募ご案内

第17回日本MRS学術シンポジウム―イノベーションを切り拓く先導材料研究―
主催:日本MRS(http://www.mrs-j.org/)
日程:2006年12月9日(土)〜10日(日)
場所:日本大学理工学部駿河台校舎1号館(〒101-8308 東京都千代田区神田駿河台1-8-14)
セッション公募
 第17回日本MRS学術シンポジウムのセッションは組織委員会での企画とともに公募を受け付けます。セッションを提案したい方は、セッション名、数名のセッションチェア(代表チェア1名、連絡チェア1名を含む)、セッションのスコープ(日本語500字および英文200語以上)、予想される発表件数(口頭、ポスター)をつけて、5月10日までにシンポジウム事務局にお申し込みください。
 なお、@セッションチェア構成が国際的である、Aプレゼンテーションを英語で行う、の要件を満たすセッションは、「国際セッション」とみなし、学術シンポジウムの前後の日程のサテライトコンファランス等の便宜も図ることも組織委員会で検討しておりますので、該当する場合は、セッション申し込みの際に「国際セッション希望」と明記してください。
講演募集
 研究発表を希望されるかたは、日本MRSのホームページ(http://www.mrs-j.org/)の、第17回日本MRS学術シンポジウムの項内の、オンライン研究発表申し込みのページより下記の締切期日までにお申し込み下さい。末尾記載「提出先:連絡Chairperson一覧」の各セッションの連絡チェア宛に自動的に送信されます。HPをご利用になれない方は、各セッションの連絡チェアまでお問い合わせ下さい。また、講演の採否、招待講演・口頭発表・ポスター発表の区分は、各セッションチェアが決定致しますので、こちらのお問い合わせも、各セッションチェア宛にお願い致します。

各種締切期限
セッション提案締切   2005年5月10日(水)
研究発表申込締切    2005年9月29日(金)
オンライン参加申込締切 2005年11月17日(金)
Proceedings提出締切  研究発表当日
日本MRS学術シンポジウム実行委員会
実行委員長:高井 治(名古屋大)
企画幹事:原田幸明(物材機構)
企画担当:山本 寛(日大理工)、岸本直樹(物材機構)、鈴木淳史(横浜国大院)
現地実行委員長:岩田展幸(日大理工)
広報担当:岸本直樹(物材機構)
ポスター・奨励賞担当:伊熊泰郎(神奈川工科大)、中村吉男(東工大院)
出版担当:鶴見敬章(東工大院)、伊井さとみ(東工大)
日本MRS事務局:篠原嘉一(事務局長、物材機構)
問合せ先
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1物質・材料研究機構エコマテリアルセンター・篠原嘉一、E-mail: mrsj2006@nims.go.jp
参考(最近の開催Sessionテーマ一覧を下記に示します)

第16回
「ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料」(国際)/「分子性薄膜の作製・評価・応用―高度な配向制御、配向解析、および機能発現を目指して―」/「自己組成化材料とその機能 Z」/「暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療―」/「熱電変換材料の新展開〜材料・デバイス・理論〜」/「先進ナノスケール構造体 −構造と性質の相関−」/「次世代電子デバイスのための誘電体薄膜技術-界面・ナノ構造制御-」(国際)/「先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア」(国際)/「ナノ構造と物性機能発現」/「先導的バイオインターフェイスの確立」/ 「イオンビームを利用した革新的材料」/「次世代エコマテリアル―環境調和型高機能エネルギー材料―」/「機能性ソフトマテリアルとしての高分子ゲル」/「生物系資源の最近の進歩」/「ナノ界面の新機能-化学的・機械的・電子的機能の解明と設計」/「エアロゾルデポジション法/コールドスプレー法の新展開」/「マテリアルズ ・フロンティア」

第15回
「ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料」/「有機超薄膜の作製・評価と応用―高度な分子配列・配向制御を目指して―」/「自己組織化材料とその機能VI」/「暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療・福祉―」/「熱電変換材料―ナノ構造制御による高効率化」/「ファブリケーションを指向したナノスケール構造体の作製と性質―ナノ粒子からミクロ組織体まで」/「次世代電子デバイスのための誘電体薄膜技術」/「先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア」/「ナノ構造と機能発現」/「次元規制高分子ナノ材料の構造制御と動的機能」/「イオンビームを利用した革新的材料」/「次世代エコマテリアル―環境調和型高機能エネルギー材料―」/「ソフト・ナノ・マルチコンポーネントが織りなす多様性―横断的な発展を目指して―」/「生物資源利用技術の最近の進歩」/「計算材料科学の最近の進歩」/「エアロゾルデポジション法の現状とその展開」/「マテリアルズ・フロンティア・ポスター」

第14回
「自己組織化材料とその機能V」/「スマートマテリアル・ストラクチャー」/「磁場による構造、組織、機能制御」/「ナノメータースケールコヒーレント励起系」/「有機超薄膜の作製と評価―分子配列・配向制御の観点から―」/「ソフト溶液プロセスを利用した材料創製」/「暮らしを豊かにする材料―環境・医療・福祉―」/「低次元ナノ構造体のデザインと特性」/「植物系材料の最近の進歩」/「燃料電池材料」/「ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料」/「境界領域としてのゲルの科学と工学―日常の科学から先端・環境科学まで―」/「スパッタ法による薄膜作製技術」/「イオン工学を利用した革新的材料」/「マテリアルズ・フロンティア・ポスター」

第17回 年次総会の開催について

日本MRS会長 高井 治

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申しあげます。日頃より日本MRSの活動に関しまして、ご尽力賜り感謝申し上げます。
 さて、早速ですが、日本MRS第17回年次総会を下記要領にて開催致します。つきましては、大変お手数ですが、ご出欠のご都合を別紙の出欠届にご記入の上、 5月18日(木)午後3時迄に、事務局宛にご返信下さいますようお願い申し上げます。
 尚、ご欠席の場合は、委任状欄にもご記入の上ご返信下さいますよう、あわせてお願い申し上げます。                                                           敬具
        記

 日時:2005年5月19日(金) 13:00?
 場所:(社)未踏科学技術協会会議室
    〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-5-5櫻ビル9階
    Tel :03-3503-4681 Fax :03-3597-0535
 議事:
  1. 第17事業年度 事業報告
  2. 第17事業年度 収支報告
  3. 第18事業年度 事業計画
  4. 第18事業年度 収支計画
  5. 第18事業年度 役員選任
  6. その他


To the Overseas Members of MRS-J

Be Sure to Accumulate Many Different Experiences …p.1
Dr. Nobuyasu MIZUTANI, President, The Tokyo National College of Technology
 We often have encountered to make material developments, especially to discover new functions and phenomena, through experiences and actions in the various fields. We know that the possibility to win a discovery or new idea seems to be high during various actions. However, in almost cases, we do not notice that we are meeting or encountering a opportunity or scene of discovery, and are hitting new idea and fine conception. On considering these processes, it is indispensable to recollect past experiences and knowledge which are comparable with the problems and phenomena before us. It is very important to try to accumulate many experience and knowledge for presentment and also to exploit the capability of observation on phenomena. In the education for material science and engineering, it is required to try to make experiments of student own motion.

ErSiO Superlattice Crystal: A Novel Light Source Material for Silicon Photonics…p.2
Professor Dr. Hideo ISSHIKI, The University of Electrocommunications
 An ErSiO superlattice crystal that we have newly developed for “silicon photonics” is introduced here. To mention the particular features, this material has a superlattice structure with 0.86-nm period and a large amount of Er(〜15%)as its constituent. Due to homogeneous crystalline filed by the single crystalline nature, fine structures of photoluminescence(PL)spectra of the 4f-intra-shell transitions in Er3+ ions are observed. The PL characteristics hardly depend on temperature. In addition, the ErSiO superlattice crystal behaves as a semiconductor and the Er 4f-electrons are excitable by electron-hole pairs in the host. These results suggest that the ErSiO superlattice crystal is the strong candidate for the light source material of silicon photonics.

Japan Synchrotron Radiation Research Institute and SPring-8…p.5
Dr. Masahiro HARA, Director of Public Relations Office, Chief Scientist, JASRI
 SPring-8, the most powerful synchrotron radiation facility is operated by Japan Synchrotron Radiation Research Institute(JASRI)for almost a decade and have provided users with highly brilliant X-rays stably. The specification of SPring-8 accelerator complex and the performance of the SPring-8 synchrotron radiation are described. SPring-8 is a big facility basically open to users and 48 beamlines are now available. Each beamline corresponds to usual laboratory. Here explained the mission of JASRI, how SPring-8 is managed, how the research and experiments at SPring-8 are performed.

Call for Proposals of Subjects and Session Chairs―The 17th Annual Symposium of the MRS-J…p.7
 The 17th Annual Symposium of the MRS-J will be held at the Ochanomizu Campas of the Nihon University in Ochanomizu, Tokyo, on December 9-10, 2006.
 The symposium includes a number of sessions. The symposium committee is now inviting members’ proposals of the subjects and session chairs to be presented at the 17th symposium of the MRS-J. Proposals should be sent to http://www.mrs-j.org/


編集後記

 本年度もギリギリのスケジュールの中、なんとか第2号の発行にこぎつけました。御多忙中にもかかわらず快くご執筆をお引き受け頂いた先生方に深く御礼申し上げます。頂いた原稿を出版社に渡した翌日、ある鉄道会社が主催する約40キロの山岳ウォーキング大会に出場してきました。数千人の参加者の平均年齢はおそらく50代、順位を競う大会ではありませんが、30代の筆者は周りの歩くスピードの速さに唖然としてしまいました。ゴールした後も平然と談笑している年輩の方が目立ちました。最近プロスポーツ界では長く現役を続けながら成績も自己最高を更新する選手が注目されていますが、一般にも多くのすごい人が存在することを認識しました。数日間に渡る筋肉痛に悩まされながら日々の節制とトレーニングの積み重ねの重要性を改めて感じています。(小林)