日本MRSニュース Vol.18 No.3 August 2006
エコマテリアル研究―これまで、そしてこれから…
独立行政法人 物質・材料研究機構 原 田 幸 明
レアメタル研究の中からエコマテリアル研究が生まれてもう15年経とうとしている。15年という期間は、大体において、新奇・特異の段階、注目・先行の段階、流行・拡大の段階を経て、普遍化・平凡化の段階にいたる期間でもある。現に、いまやわが国では数千にも及ぶエコマテリアルが製品としてコマーシャルベースで宣伝され、新規の競争的技術開発の研究公募でも「環境」という項目は不可欠のものとなっている。いまや、エコマテリアルと名づけた語源でもあるEnvironmental Conscious MATERIALのenvironmental consciousすなわち「環境配慮」は、特殊な要素ではなく、材料のみならず技術開発にとって当然の要素となってきている。実はそのことは、エコマテリアル研究の初期から予測、強調されていたことでもある。即ち、「ある特定の環境問題に応える材料がエコマテリアルなのではなく、今使っているすべての材料がエコマテリアルに進化するのである」と。このような方向が定着するのに15年も要したと見るか、15年しかかからなかったと見るかはさまざまな見解があろう。しかし、誰しも気になるのは、この普遍化の段階に達したエコマテリアルが、このまま「環境配慮」として材料設計の良識と常識に吸収されるのか、再び、新規・特異な新たな切り口を見出し、スパイラル状に新たな発展過程に入っていくのかという点であろう。
そこで、もう一度エコマテリアルとは何かを考えてみよう。現在では、エコマテリアルもアプローチが整理され以下のような6タイプに類型化されている。「低環境負荷資源材料」として木質材料やバイオプラスチックなど再生性資源を使用した材料やGaAsからより一般的な鉱物資源であるβ-FeSiで半導体を構成しようとする試み。「低環境負荷プロセス材料」として製造プロセスで有害性のある六価クロムを用いずに耐食性を持たせたクロメートフリー鋼板や、VOCを低減させた粉体塗装など。「使用時の高生産性材料」として、自動車の軽量化に貢献するマグネシウム合金やプラスチック複合材料、LEDなどによる発光効率向上など。「使用時の浄化機能材料」として光触媒を付加したNOxや有機物、微生物などを分解する機能をもつ材料。「環境影響物質管理材料」として、鉛フリーはんだや脱臭素難燃剤など廃棄段階で環境排出管理が必要とされる材料を使用せずに、あるいは管理システムを構築して使用される材料。「高リサイクル性材料」として成分を単純化などでより効率的にリサイクルされる材料、である。
これらのようなエコマテリアルが提起した最大の特徴は「ライフサイクル思考」を材料に取り入れることであった。上記の6つのタイプもライフサイクルの各断面を取り出したにすぎない。それまでも環境問題に対応する材料技術というものは存在していたが、いずれも、それらの材料が使用される段階での機能のみに注目していたという点では、他の機能材料と異なることはなかった。エコマテリアルは、それに対して、この機能を果たすまでの資源獲得段階と製造段階、さらに使用後の廃棄段階があることに注目し、それぞれの段階で発生する環境負荷の最小化を目指したところに新たな視点があったのである。
このライフサイクル思考の徹底化とmaterialize(具現化)は材料のエコマテリアル化が今後とも追求する課題である。では、何が残されているのか。実は、これまでのエコマテリアル化は材料科学的要素はまだほんの少ししか貢献していない。むしろ、素材メーカーのプロセス改善や代替技術、素材ユーザーの材料選択によって成し遂げられてきた側面が強い。既存の材料コンセプトを変える提案としては、まだまだ実用に遠い「高リサイクル材料」の分野で「人工不純物利用アップグレードリサイクル材料」「プラスチックの蘇生リサイクル材料」が登場した程度である。「低環境負荷資源材料」にしてみても、たとえば土壌などに多く含まれる単純な複合酸化物系をベースに電気特性、光特性、さらには磁気特性などを引き出す努力はどこまで進んだであろうか。管理必要物質の代替は単なる類似物の置き換えに終わっていないだろうか。機能を化学毒性とも関連する電子構造に依存しない他の構造で置き換えることはどこまでできただろうか。これからのエコマテリアル研究は、まさにこのようなより本質的な問題に突入する段階に入ってきたといえる。
特に、現在、「材料立国」日本の基盤をゆるがしかねない問題として「資源リスク」という問題が指摘され始めている。これはまさにライフサイクルの入口と出口であり、単なる資源問題として捉えるのではなく、地球から汲み出した、さらには汲み出しうる、物質をいかに有効にその能力を引き出して無事地球に戻すか、という問題である。それには地球から汲み出した物資からの電子の一軌道、スピンのひとかけら(?)さえも徹底的に利用する物質設計が求められる。まさにエコマテリアルはすべての材料科学の領域にわたって人間のエコ(生態、経済共通のギリシャ語系接頭詞)から物質のエコへと進化させていく段階に来ているといえる。
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佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター |
九州シンクロトロン光研究センター 岡 島 敏 浩
1. はじめに
佐賀県は「地域産業の高度化と新規産業の創出」を目的に、佐賀県の東の端に位置し福岡県と接する鳥栖市北部の丘陵地にシンクロトロン光施設、九州シンクロトロン光研究センター(SAGA Light Source)(所長 上坪宏道)を建設した。写真-1に施設の外観を示す。シンクロトロン光の広い波長範囲にわたる連続スペクトル、高輝度、偏光性、短パルス性といった光源としての際立った特長を利用し、これまで先端的科学・技術の学術研究が中心となっていたが、シンクロトロン光の産業応用を目指していることがSAGA-LSの特徴である。SAGA-LSは自治体が運営する国内で初めてのシンクロトロン光供用施設である。わが国内の放射光供用施設としては世界最大のSPring-8、大型施設のKEK PF及びAR、中小規模施設の分子科学研究所UVSOR、広島大学HiSOR等が挙げられるが、施設規模、エネルギー範囲の点でSAGA-LSはUVSORとPFの間に位置する中型放射光施設である。
施設の建屋は2003年3月に完成し、2003年夏より本格的な加速器建設が開始された。2004年8月から光源加速器の試験運転を開始し、2005年8月には当初の目標である100mAの電子蓄積に成功し、同年12月に文部科学省の放射線発生装置の施設検査に合格した。光源加速器の建設、調整試験と並行して県有ビームラインの整備も進められ、シンクロトロン光を利用するための3本の県有ビームラインが設置された。また佐賀大学シンクロトロン光応用研究センターが光物性研究用専用ビームラインを設置している。
ここでは光源加速器の概要を述べ、またシンクロトロン光をどう産業に利用し発展させてゆくかを県有ビームラインの概要、運用方針の観点から述べる。
2. 光源加速器
SAGA-LSのシンクロトロン光スペクトルを図-1に示す。偏向電磁石からの光の臨界エネルギーは1.9keVで、赤外から十数keV程度のX線まで利用することが可能である。蓄積電流300mA、ビーム寿命5時間の運転を目標としている。また将来ウィグラー、アンジュレーター等の挿入光源を設置する予定である。
SAGA-LSは入射用260MeV電子線形加速器(全長30m)と1.4GeV電子蓄積リング(周長75.6m)から成る1)。電子ビームは線形加速器による加速後ビームトランスポートを経て蓄積リングに入射され、さらにリング内で加速される。線形加速器はFEL研(現大阪大学自由電子レーザー研究施設)の線形加速器デザインをベースとし、熱陰極型電子銃、リエントラント型サブハーモニックバンチャー、定在波型バンチャー、進行波型加速管及びビームの収束発散を制御する4極電磁石などから成る2)。現在の線形加速器室の状況を写真-2に示す。電子蓄積リングは主に、電子の偏向・収束発散を制御する電磁石群と電子ビームを加速する高周波系、ビームダクト及びこれを超高真空に保つ排気系などから構成されている。電磁石配置は偏向電磁石2台、4極電磁石5台、6極電磁石4台を1単位(以下セルと呼ぶ)として、対称的に8セルを配置したリングとなっている。リング周長を抑えつつ、低いエミッタンスを実現するラティスとなっている1)。現在の蓄積リング室内の様子を写真-3に示す。偏向電磁石は曲率半径3.2m、磁場強度1.46Tである。蓄積リング高周波系は高周波空胴とこれに500MHzの高周波電力を送り込むクライストロン系から成る3)。高周波空胴は、シンプルな構成でかつ実績のあるKEK-PFと東大物性研共同開発のHOM damped cavity4)を採用した。蓄積リングビームダクトは放射光の当たる偏向部、短直線部が熱伝導の良いアルミ製で、長直線部はコストの観点からステンレスを採用した。排気系は1セル当たり200l/m×2台、100l/m×3台のスパッターイオンポンプによって行われている。
3. 県有ビームライン
佐賀県では、シンクロトロン光利用のため3本のビームラインを整備した。写真-4に実験ホールに設置されたビームラインの現在の様子を示す。ビームラインのデザインは公募され、提案された10本ビームラインの有用なデザイン、アイデアを審査・検討し、3本のビームラインに整理統合したものである。応募した大学・企業の合同チームに協力を要請し、設計・建設を進めた。各ビームラインとも、2004年度中に実験ホールに設置され、シンクロトロン光を使った立上調整が開始されている。県有ビームラインの1本(BL9)はモノ作りに、2本(BL12、15)は材料分析に重心をおいた構成となっている。以下に各ビームラインの概要を述べる。
(1) 県有ビームライン1(BL9)
材料加工・プロセス開発を目的としたビームラインである。ビームライン上部に分岐ミラーを設置し、白色光と分光された光の同時利用が可能な構成となっている。白色ラインは、地元産業が容易に参入できるよう複雑な操作を求めない簡素な構成となっている。
分光ラインでは、多層膜回折格子を使用した直入射分光器が設置され、光子エネルギー10〜50eVが使用できる。このエネルギー領域は、多くの反応性ガスの吸収係数が高いことから半導体、絶縁体等の薄膜形成、微細加工等の研究に特に有用であり、有機ポリマーの表面改質、エッチング、成長等放射光励起プロセスの応用を通して、産業への応用が期待される。
(2) 県有ビームライン2(BL12)
光子エネルギー範囲40eV〜1keVの軟X線ビームラインである。斜入射回折格子分光器を設置し高分解能を実現している。光電子分光、XAFSの手法を用いて、新材料、デバイス開発における物質表面の評価、分析等に利用される。各種材料表面の電子状態や化学結合状態の解明が可能でウエハー表面の酸化、劣化、有機化合物劣化、有機EL、界面の測定への応用が可能で学術研究から応用開発にわたる有用なツールとなることが期待される。
(3) 県有ビームライン3(BL15)
このビームラインは2.1〜14.2keVのX線領域を対象としている。2結晶分光器によって単色化を行い、集光ミラーによって試料位置にX線を集光させることが出来る。回折、散乱、XAFS、X線イメージング手法を用いて物質内部の構造解析及びその応用として新材料、デバイス開発に利用される5)。図-2はCu K吸収端近傍におけるXAFSスペクトルの測定例である。先行する施設で得られるスペクトルと遜色ないものが得られている。
佐賀県では上記3本のビームラインに加え、2期計画としてさらに3本のビームライン建設の計画を進めている。これら新規ビームラインでは、より高エネルギー、より高輝度のシンクロトロン光の要求に応えるためウィグラーやアンジュレーターといった挿入光源の設置を考えている。ウィグラーにおいては、現在5T級の超伝導ウィグラーの設置について検討を行っている。5Tでの臨界エネルギーは約5keVであり、実用的には25keV程度までのX線が利用可能であり、より広いエネルギー域でユーザーの要求に応えられると考えている。
4. おわりに
SAGA-LSは当初の目標である蓄積リングの1.4GeV、100mAでの電子蓄積に成功した。光源加速器から放射されるシンクロトロン光を使用してビームラインの調整や実験装置の立上が行われ、一部ビームラインにおいてユーザー利用が開始された。他のビームラインにおいても立上が完了次第、ユーザー利用を行っていく予定である。また、光源加速器においては設計性能である300mAでの電子蓄積や挿入光源設置のためのマシンスタディを並行して進めている。
今後も光源装置・ビームラインの充実、高度化を進め、シンクロトロン光の産業応用を通して地域産業の活性化や高度化に貢献して行きたい、と考えている。
参考文献
1) T. Tomimasu, et al., Proceedings of the 2003 Particle Accelerator Conference, pp.902-904 (2003).
2) T. Tomimasu, et al., Proceedings of the 6th International Symposium on Advanced Nuclear Energy Research, pp.565-574 (1994).
3) S. Koda, et al., Proceedings of the 1st Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan and the 29th Linear Accelerator Meeting in Japan, pp.284-286 (2004).
4) T. Koseki, et al., Journal of the Japanese Society for Synchrotron Radiation Research, 10, pp.3-21 (1997).
5) T. Okajima, et al., Nuclear Instruments and Method, B238, pp.185-188 (2005).
連絡先:〒841-0005 佐賀県鳥栖市弥生が丘8-7
九州シンクロトロン光研究センター
Tel: 0942-83-5017
Fax: 0942-83-5196
http://www.saga-ls.jp/
日本電気株式会社基礎・環境研究所主席研究員(兼エコマテリアルRG研究部長)
位 地 正 年 博士
書き換え可能な形状記憶バイオプラスチック
聞き手(編集委員/湘北短大)小棹理子
植物由来のプラスチックは環境負荷を大きく低減させる材料として着目されているが、さらに形状記憶性が高く、再書き込み可能な高機能プラスチックが話題になっている。今回はNEC基礎・環境研究所の位地さんにお話を伺った。
小棹(以下、O):バイオプラスチックは生分解性、植物性、カーボンニュートラル、グリーンプラスチック、など環境関連のキーワードとともに語られることが多いのですが、そもそもどういうものなのですか?
位地:バイオプラスチックとは、植物を原料としたプラスチック(樹脂)です。植物は成長の過程において、地球温暖化の原因である大気中の二酸化炭素を吸収し、これを光合成により固定化することができます。したがって石油由来の樹脂をバイオプラスチックで代替することにより、大幅に二酸化炭素の発生量を削減するとともに石油資源枯渇問題を解決できます。また、バイオプラスチックは、一般的に生分解性に優れているので、廃棄物対策にも有効と考えられます。しかし、電子機器分野では廃プラスチックのリサイクルが進んでいるので、廃棄物対策よりもむしろ高度なリサイクル性が要求されます。もちろん、生分解性は不法投棄などに対するリスク対策として価値があります。
O:バイオプラスチックにはいろいろな種類があるそうですね?
位地:バイオプラスチックは天然物系、微生物生産系、化学合成系に大別できます。さらに、材料的にはポリ乳酸(Poly Lactic Acid: PLA)系、微生物ポリエステル(ポリ-β-ハイドロキシブチレート:PHB)系、でんぷん系、ポリブチレンサクシネート(PBT)系などがあります。PHB系は研究開発の歴史が古いのですが、コスト等に難があります。一方、PLAは既に量産が開始され、今後コストダウンしていく可能性があります。強度、耐熱性等の特性向上のため、添加物との複合材が開発され、パソコン等の電子機器への利用が始まっていますが、この組成によって植物の利用度に大きな違いがあります。
O:植物利用度が高いPLAといえば、ケナフ繊維強化PLAが世界ではじめて携帯電話の筐体に採用されたそうですね?
位地:NECが電子機器の筐体用材料として開発したケナフ繊維とPLAの複合材は(図-1)、ケナフ繊維(繊維長:5mm)を10%以上PLAに配合したものです。ケナフは植物中最高レベルの二酸化炭素吸収速度をもっており(光合成速度は通常の樹木の3〜9倍、炭素含有量は約43%で、1トンで約1.4トンのCO2を吸収可能)、地球温暖化対策として有望です。そればかりではなく、PLAの課題であった耐熱性や剛性を大幅に高める効果があります。さらに他の植物系添加剤の利用によって、約90%のきわめて高い植物度(有機成分中の植物成分率)を維持しながら、衝撃強度や成形性も改良し、携帯電話に必要な実用性を実現しました(表-1)。
パソコンなどのもっと大きな機器には、火災防止のため難燃性が必要ですが、われわれは、従来の環境負荷の大きいハロゲンを含む難燃剤を一切使わず、安全な金属水酸化物の組成を最適化した吸熱剤等を利用する、PLAの難燃化処方を開発しました。近い将来、この処方を使った難燃性バイオプラスチックをパソコンなどに搭載していく予定です。
O:実用レベルのPLAをさらに高機能化しようとしておられると伺いました。
位地:PLAの付加価値をさらに上げ、利用用途を拡大するため、石油系材料の特性を超えるバイオプラスチックの開発を行っています。そのひとつが書き換え可能な形状記憶バイオプラスチックです。書き換え可能ということは、マテリアルリサイクル性を持つということです。
O:「形状記憶性」のプラスチックとはどういうものですか?
位地:熱と外力を加えて変形させても、ガラス転移点(Tg)を超える温度で再加熱すると、元の形状に戻るプラスチックです。Tgより高い温度領域で軟化する可逆相と形状を記憶するための固定相からなっており、固定相の構造で熱硬化型と熱可塑型に分かれています。
熱硬化型の形状記憶プラスチックは、共有結合による安定した3次元架橋構造が固定相として働くことから、プラスチックの形状を保持する力が強く、優れた形状記憶性を持ちます。ただし、溶融しないので、再成形性つまりマテリアルリサイクル性がありません。一方、熱可塑性の形状記憶プラスチックは、分子鎖の絡まりあい、水素結合あるいは結晶ドメインなど物理架橋構造が固定相として働くことから、溶融可能であり、マテリアルリサイクル性を持ちます。しかし、形状記憶能力に劣ります。
O:それでは、形状記憶性が高く、マテリアルリサイクル性の高いプラスチックをどのように開発されたのですか?
位地:プラスチックの架橋構造に着目し、バイオプラスチックを熱可逆結合で3次元架橋しました。熱可逆結合とは、高温域では解離し、低温域では結合する化学反応(Diels-Alder反応)を利用した結合です。この結合をバイオプラスチックに導入することで、架橋が形成される温度域(低温-中温)でプラスチックは熱硬化型となるため優れた形状記憶性を発揮します。架橋が解離する温度域(高温)ではプラスチックは熱可塑型となるため、マテリアルリサイクルが可能になります。つまりもとの形状記憶を消して、再書き込みが可能になります。
O:開発された熱可逆型架橋PLA(Reversible Cross-linked PLA: RCP)についてもう少し詳しく教えてください。
位地:PLAとソルビトールのエステル交換反応により、分岐構造を持つ末端水酸基PLA(HP)を合成しました。次に、2-フルフリルアルコールと無水コハク酸のエステル化反応により、カルボキシル基を持つフラン誘導体を合成し、これとHPを1-エチル-3-(3′-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライドを用いてエステル結合してフラン修飾PLA(PHP)を得ました(図-2)。リンカーには3官能マレイミド(TMI)を合成しました。PFPとTMIを160℃で溶融混合し、型枠内に溶融物を注型し、100℃で1時間架橋させてRCPを得ることができます(図-2)。
RCPは80℃で10秒ほど加熱すると軟化し、変形することができます(図-3)。U字状に変形させた状態でTg以下の室温まで冷却すると形状を固定でき(b)、再度加熱することによってもとの形状が復元できます。すぐれた形状記憶性があることがわかります。さらに、(a)のRCPを160℃まで加熱すると、試験片は溶融するので、文字形状の金型に注型し、100℃で1時間架橋させて(c)の形状を得ることができます。この試験片も80℃で(d)のように形状記憶性を示すことがわかります。
実験室レベルでは少なくとも4回までリサイクル可能であることが確認できました(図-4のDSC曲線)。また、PLAのUV吸収特性を図-5に示しますが、熱可塑性であることがわかります。
O:高機能バイオプラスチックを今後どのような分野に展開されるのですか?
位地:このバイオプラスチックは約96%がバイオマス由来でリサイクル可能なので、高度な環境適合性をもっています。すぐれた形状記憶性は、今後ますます薄型化される電子機器等の筐体では変形対策に威力を発揮します。また、ユーザーのニーズに合わせて自由に形状が付与できるので、将来のウェアラブル機器や、さらに、スポーツ、医療、福祉向け器具などへの応用が考えられています(図-6)。
O:今後ますます人間と環境にやさしい材料になるものと期待できますね。お話ありがとうございました。
参考文献
1) 井上和彦, 山城 緑, 位地正年:高分子論文集, 62 (6), 261 (2005).
2) 井上和彦, 山城 緑, 位地正年:技術総合誌OHM, 91 (11), 18 (2004).
3) 位地正年:ECO INDUSTRY, 9 (11), 35 (2004).
連絡先:〒305-8501 茨城県つくば市御幸が丘34
日本電気株式会社基礎・環境研究所エコマテリアルRG
Tel: 029-850-1512
URL: http://www.labs.nec.co.jp/rel/
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E-MRS/IUMRS ICEM 2006 報告 ―2006年5月29日〜6月2日,フランス,ニース― |
日本大学理工学部教授・日本MRS会長 山 本 寛
コートダジュール、ニースで開催されたE-MRS/IUMRS ICEM 2006の概要を報告する。会議は5月29日(月)から5日間、市街の中心に位置するアクロポリス国際会議場で開催された。参加者は62カ国から2,500名にのぼり、わが国からも300名以上参加していたようだ。主たるテーマとして、ナノマテリアルとナノエレクトロニクス、機能材料、エネルギー材料、有機複合材料、半導体材料、そして教育という6つのカテゴリーで23のシンポジウムが企画された。もちろんこれらの分野で多くのトピックスは重複していたが、様々な切り口で発表と討論が行われるのはMRSの特徴であろう。各シンポジウムの様子はMRSのホームページ(http://www.mrs.org/s mrs/sec.asp?CID=6519&DID=174283)をご覧になって頂ければ幸いである。
5月31日午前のプレナリーセッションでは次の4名の特別講演が行われた。Mildred Dresselhaus(MIT)、Hans Meixner(Siemens)、ノーベル物理学賞受賞者(1985年)Klaus von Klitzing(Max-Planck-Institute)、そしてMartin Green(University of New South Wales)。Dresselhaus先生は相変わらず元気で、近未来の世界規模のエネルギー問題にどう取り組むかを熱く語っていた。また、個人的な興味もあって、Klitzing博士の紹介されたマックスプランク研究所で進められているグラファイト面に着目した低次元(ナノ)導電系の研究には大いに触発された。ナノといえばつい華々しい応用の面がクローズアップされているが、欧州における基礎研究の着眼点やじっくり科学に取り組む姿勢には共感するところが多い。
会期中IUMRSの総会が開催され、出版活動や国際的な材料研究の活性化への貢献等について話し合われた。またIUMRS主催の国際会議についてはICAM2007(Bangalore, India)、ICEM2008(Sidney, Australia)の開催が確認され、ICAM2009の開催地については近日中に投票によって決定される予定である。
アカデミックな話題ではないのだが、連日の昼食は参加者全員が食堂に集い、準備されたミニコースのランチを楽しんだ。学会事務局の計らいはかなり高いものについたかもしれないが、サービスが良いという強い印象を参加者には与えたと思う。また、6月上旬という美しい季節に恵まれ、会議直前の週末はモナコグランプリやカンヌ映画祭も開催され、きっと会議の外においても充実した成果を挙げた方々は多かったろうと思う。
■ご案内
■第17回日本MRS学術シンポジウム―イノベーションを切り拓く先導材料研究―講演募集
主催:日本MRS(http://www.mrs-j.org/)
日程:2006年12月9日(土)〜10日(日)
場所:日本大学理工学部駿河台校舎1号館(〒101-8308 東京都千代田区神田駿河台1-8-14)
○講演募集
研究発表を希望されるかたは、日本MRSのホームページ(http://www.mrs-j.org/)の、第17回日本MRS学術シンポジウムの項内の、オンライン研究発表申し込みのページより下記の締切期日までにお申し込み下さい。
末尾記載「提出先:連絡Chairperson一覧」の各セッションの連絡チェア宛に自動的に送信されます。HPをご利用になれない方は、各セッションの連絡チェアまでお問い合わせ下さい。また、講演の採否、招待講演・口頭発表・ポスター発表の区分は、各セッションチェアが決定致しますので、こちらのお問い合わせも、各セッションチェア宛にお願い致します。
――――― 各種締切期限 ―――――
研究発表申込・シンポジウム参加申込開始 2006年7月14日(金)
研究発表申込・アブストラクト締切 2006年10月2日(月)12:00(日本時間)
オンライン参加申込締切 2006年11月17日(金)
Proceedings提出締切 研究発表当日
○問合せ先
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1物質・材料研究機構エコマテリアルセンター・篠原嘉一、E-mail: mrsj2006@nims.go.jp
A ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料
◎米田安宏(原子力機構)yoneda@spring8.or.jp、坂本 渉(名大)、野口祐二(東大)、樋口 透(東京理大)、廣田和馬(東大)、藤沢浩訓(兵庫県大)、松田弘文(産総研)
B 分子性薄膜の作製・評価・応用―高度な配向制御、配向解析、および機能発現を目指して
◎三浦康弘(桐蔭横浜大)yfmiura@cc.toin.ac.jp、岩田展幸(日大)、山本 寛(日大)、池上敬一(産総研)、松本睦良(東理大)、宮坂 力(桐蔭横浜大)、杉 道夫(桐蔭横浜大)
C 自己組織化材料とその機能 VIII
○大久保達也(東大)okubo@chemsys.t.u-tokyo.ac.jp、加藤隆史(東大)、木下隆利(名工大)、関 隆広(名大)、多賀谷英幸(山形大)
D 暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療
○小松隆一(山口大)r-komats@yamaguchi-u.ac.jp、中山則昭(山口大)、 中塚晃彦(山口大)、山本節夫(山口大)、喜多英敏(山口大)、
笠谷和男(山口大)
E 固体の反応性―ナノ領域での反応制御による新材料の創製とそれを支えるサイエンス
○仙名 保(慶大)senna@applc.keio.ac.jp、北條純一(九大)、嶋田志郎(北大)、石垣隆正(NIMS)、 ☆鈴木久男(静岡大)tchsuzu@ipc.shizuoka.ac.jp
F ナノスケール構造体の新展開―構造・機能・応用
○鳥本 司(名大)torimoto@apchem.nagoya-u.ac.jp、☆寺西利治(筑波大)teranisi@chem.tsukuba.ac.jp、村越 敬(北大)、佐藤 治(九大)
G 量子ビームによる埋もれた界面の解析―半導体・電子材料からソフトマテリアルまで
○桜井健次(NIMS)sakurai@yuhgiri.nims.go.jp、☆奥田浩司(京大)okuda@materials.mbox.media.kyoto-u.ac.jp、佐々木園(JASRI)、竹田美和(名大)、高原 淳(九大)
H 先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア
○白谷正治(九大)siratani@ed.kyushu-u.ac.jp、☆寺嶋和夫(東大)kazuo@terra.mm.t.u-tokyo.ac.jp、節原裕一(阪大)、堀 勝(名大)、知京豊裕(NIMS)、河野明廣(名大)、井上泰志(名大)、畠山力三(東北大)、藤山寛(長崎大)
I ナノ構造精密制御と機能発現
○三浦佳子(北陸先端科技大)miuray@jaist.ac.jp、有賀克彦(NIMS)、松田直樹(産総研)、☆白幡直人(NIMS)SHIRAHATA.Naoto@nims.go.jp、増田佳丈(産総研)
J 先導的バイオインターフェイスの確立
○高井まどか(東大)takai@bmw.t.u-tokyo.ac.jp、一木隆範(東大)、齋藤永宏(名大)、沼子千弥(徳島大)、井藤 彰(九大)、安川智之(東北大)、☆石崎貴裕(名大)ishizaki@plasma.numse.nagoya-u.ac.jp
K イオンビームを利用した革新的材料
○岸本直樹(NIMS)KISHIMOTO.Naoki@nims.go.jp”、☆辻 博司(京大)tsuji@kuee.kyoto-u.ac.jp、池山雅美(産総研)、鈴木嘉明(理研)、馬場恒明(長崎工技セ)、福味幸平(産総研)、末松久幸(長岡技科大)
L 燃料電池用材料の新展開
○西村 睦(NIMS)NISHIMURA.Chikashi@nims.go.jp、☆森 利之(NIMS)MORI.Toshiyuki@nims.go.jp、平野敏幸(NIMS)、片田康行(NIMS)
M ネットワークと溶媒が織りなすゲルのサイエンスとテクノロジー
◎原 一広(九大)haratap@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp、土橋敏明(群馬大)、八木原晋(東海大)、安中雅彦(九大)
N 生物系資源の最近の進歩
○岡部敏弘(青森県工業総合研究センター)okabe@aomori-tech.go.jp、☆辻純一郎(ポリテクセンター群馬)
O 材料データベース
○山崎政義(NIMS)YAMAZAKI.Masayoshi@nims.go.jp、☆徐 一斌(NIMS)XU.Yibin@nims.go.jp
P マテリアル・ダイレクト・ライティング技術の展開
○明渡 純(産総研)akedo-j@aist.go.jp、☆小木曽久人(産総研)ogiso.h@aist.go.jp、鶴見敬章(東工大)(予定)、中田正文(NEC基礎・環境研)(予定)
Q マテリアルズ・フロンティア
◎伊熊泰郎(神奈川工科大)ikuma@chem.kanagawa-it.ac.jp、野間竜男(農工大)、長瀬裕(東海大)、平賀啓二郎(NIMS)(予定)
■共催案内
◇プラズマ・核融合学会第19回専門講習会「レーザー・プラズマ複合技術の基礎と最前線」、
2006年12月22日(金)、
東京工業大学百年記念館、
(社)プラズマ・核融合学会事務局http://www.jspf.or.jp、
Tel: 052-735-3185
■IUMRS関係
◇IUMRS-ICA 2006, Sep 10-14,2006, Hotel Shilla, Jeju, Korea, sponsored by MRS-K
◇2006 MRS Fall Meeting, November 27-December 1,2006 Boston, MA, organized by MRS
To the Overseas Members of MRS-J
■Ecomaterials: Advancing to the Next Stage…p.1
Dr. Kohmei HALADA, Managing Director, Basic Research Team, Innovative Materials Engineering Laboratory, National Institute for Materials Science (NIMS)
■Kyushu Synchrotron Light Research Center―The SAGA Light Source…p.2
Dr. Toshihiro OKAJIMA, Kyushu Synchrotron Light Research Center
Saga prefecture has established a synchrotron light facility, and has constructed a 1.4GeV synchrotron/storage ring. The objective of the facility is to develop advanced industrial technology as well as to promote fundamental materials science. The critical energy of the synchrotron light from the bending section is 1.9keV. Saga prefecture has also constructed three beam-lines for public use. Another VUV and soft X-ray beam-line connecting to an undulator has been completed by Saga University for exclusive use.
■Interview with Dr. Masatoshi IJI, Research Fellow, Fundamental and Environmental
Research Laboratories, NEC Corporation…p.4
Bioplastics are a new generation of biodegradable&compostable plastics, derived from renewable raw materials such as lactic acid, starch, cellulose, soy protein, etc., not hazardous in production and decompose back to carbon dioxide, water, biomass etc. in the environment when discarded. Among many types of bioplastics, PLA (Poly Lactic Acid) is believed to be promising from the view point of mass productivity and thermal and mechanical properties.
NEC has brought into market for the first time a cell-phone for DoCoMo, made from a PLA composite containing more than 10% of Kenaf fibers, which shows higher heat resistance and mechanical strength comparing with original PLA. Bioplastics are facing practical stage.
Recently, thermal reversible cross-linked PLA (RCP) has been developed. The newly developed RCP not only has shape-memory function, i.e., it recovers its original shape when heated to 80°C, but also has improved recyclability; it can be molten and reshaped for another product. It may be used in wearable electronic products, medical or nursing appliances, sporting goods, etc.
■IUMRS-ICEM Report…p.6
Prof. Dr. Hiroshi YAMAMOTO, President of MRS-J, College of Sci.&Technol., Nihon Univ.
The IUMRS-ICEM (International Conference on Electronic Materials) 2006 meeting, in conjunction with European Materials Research Society’ s 2006 Spring Meeting was held in Nice, France, from May 29 to June 2, 2006. The 23symposia were organized and the number of the attendees was about 2500 from 62 countries. For further information: http://www.mrs.org/s -mrs/sec.asp?CID=6519&DID=174283
編集後記
執筆者ならびに出版作業に関わる皆様の御助力により、本号をお送りすることができます。今回、小棹委員の企画・尽力により初めてエコマテリアル関連の話題をインタビュー記事として掲載しております。なじみの薄い私などにとっては、当該分野の研究・開発の歴史、今後のトレンドをつかむうえで有り難く感じました。これはMRS-Jの活動目標の一つである分野の壁を越えた交流の促進とって有益と思われます。また、原田幸明博士巻頭言の終わりの一節、「電子の一軌道、スピンのひとかけらも徹底的に利用する物質設計が求められる」では、この分野でも基礎・応用の融合・連携が、単なる目標でなく、必須の課題となっていることを実感しました。(寺田記)