日本MRSニュース Vol.18 No.4  November 2006


やあこんにちは

文理融合・学際研究への期待

名古屋大学エコトピア科学研究所所長・教授  松 井 恒 雄

 私は、工学を専門とし原子力材料、燃料電池用固体電解質、熱電変換材料等のエネルギー機能材料の研究開発とそのための高温物性測定装置の開発、貴金属の分離・回収・有効利用、イオンビーム蒸着法による同位体制御機能薄膜作製等の研究を行っています。しかし最近は、法人化後に名古屋大学に新たに設置された文科省認可の附置研究所、エコトピア科学研究所の所長として日夜その舵取りに心血を注いでいます。エコトピア科学研究所のミッションは、「人間を基軸にした豊かで美しい安全安心な持続可能社会(エコトピア)創成」であり、そのために「もの、エネルギー、情報の循環・再生と人間との調和」を切り口にした文理融合・学際研究(人間社会と自然生態系が共存した社会を目指すソシオエコシステム科学研究、超高齢化社会のための介護・福祉・交通の安全安心研究と健康・医療・医薬研究など)を推進しています。本研究所には、上記融合プロジェクト研究を中心となって推進する文系と理系教員が所属する融合研究部門に加えてナノマテリアル、エネルギー、環境システム・リサイクル、情報・通信等の基幹科学研究部門がありそこでは融合研究に繋がる萌芽的、基盤的研究を行っています。
 日頃から日本MRSの理念「先進材料に関する科学・技術の専門家の横断的・学際的研究交流を通じてその学術・応用研究の実用化の一層の発展を図る」に大変共感し、また第16回日本MRS学術シンポジウムのテーマ「持続可能社会を創る先導的材料開発」、その中の「暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療」のセッションにも興味を持っていますが、現在の所は、発表研究内容はやはり理系のセンスから見た機能重視の材料開発であり豊かさの意味を文系の視点から問い直すような材料開発がもっと必要ではないかとも思っています。
 私が言うまでもなく、最近の我が国の色々なコミュニケでは理系と文系の研究者の連携研究が求められています。例えば日本学術会議報告・声明である「日本の計画」には文系・理系(研究者・領域)の対話・連携・融合による学理融合、知の統合・体系化による学術研究の必要性が謳われ、「日本の科学技術政策の要諦」では環境と経済の調和・両立、人類社会の持続可能性・サステナビリティが共通キーワードとして使われています。一方総合科学技術会議の「科学技術基本政策・基本方針」では異分野融合、知の統合による飛躍知の発見・発明、環境と経済の両立、環境調和型循環型社会の創造の重要性も記載されています。このようなコミュニケ発信の背景には、20世紀の科学技術及びその進め方が要素還元主義、分析主義、知の分化であり、自然・生態系と協調しない閉じた技術によるエネルギーとモノの豊かさを追求してきたことへの反省があると思われます。21世紀の科学技術のありかたとして本研究所が考えていますのは、要素を統合した知の体系化と、人間としての自覚に基づく科学技術の統合的解決―人間の快適さ、ゆとり、心の豊かさ、感性を大事にするサイエンスの構築―です、それは自然科学と人文・社会科学との連携融合によって初めて達成でき、心豊かな質の高い超高齢化社会も実現できると考えています。
 しかしながら多くの文系および理系の研究者等との議論を通じての私の印象は、表-1のように、価値観、方法論、学問の考え方が文系と理系の研究者の間では非常に異なっていると思います。
 各方面で文理融合・学際研究の推進の必要性が安易に言われていますが、その具体的推進には多くの困難を伴っているのが実情です。また、融合・学際研究を推進する側とそれを外から見る側(評価する側)とで文理融合研究の考え方、推進の仕方、何を成果とするのか等、評価の仕方、考え方に違いがでてきます。違いが出てくるのは当然であり、我々の研究所では学問・考え方の多様性を受容し共に共有化して文理融合をfusionではなくintegrate the intellectual spirit of the sciences and humanitiesと捉えて長期的スパンで文理融合・学際研究を推進しようとしています。また、学際研究の成果はモノではなく、むしろ考え方・提言であるとの認識も持っています。我々の研究所の試みはいまだ第一歩を踏み出したばかりであり、理系、文系の種々の分野の研究者の方々のご理解と温かいご支援、ご参加をお願いしたいと思います。タイトルを「期待」よりも「困難」と書くべきであったかもしれませんが、研究所外の多くの方々のご理解とご支援を期待・希望する意味で「期待」としました。最後になりましたが、私は本研究所の文理融合、学際研究の推進の中から理系の分野の研究者にとっても必ずやinnovativeな研究(分野)が生まれてくると確信しています。


■研究所紹介

独立行政法人海洋研究開発機構
地球シミュレータセンター

独立行政法人海洋研究開発機構地球シミュレータセンター 渡 邉 國 彦・草 野 完 也

 1. はじめに
 独立行政法人海洋研究開発機構地球シミュレータセンター(センター長 佐藤哲也)は、地球環境の予測をその主たる目的として開発された世界最高速・最大級のコンピュータ、「地球シミュレータ」の運用と、地球シミュレータを用いた大規模シミュレーションに関する研究開発を行う研究運用機関として、平成14年3月に、現在の独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の前身である特別認可法人海洋科学技術センターに設置されました。地球シミュレータセンターは、それ以来、海洋研究開発機構横浜研究所(神奈川県横浜市金沢区)において、世界最高水準のシミュレーション研究を活発に続けています。

 2. 地球シミュレータ
 1997年に、温暖化を防ぐために炭酸ガスを減らそうという決議が、京都で開かれた国際会議で提案されました(京都議定書)。地球シミュレータは、この地球温暖化に関する京都会議を最後の後押しとして、開発が開始されました。つまり、地球全体の100年後、200年後の未来を予測できるシミュレーションができる道具立てとして完成したのが地球シミュレータです。地球シミュレータは、8つのベクトルプロセッサからなるコンピュータ(ノードといいます)640台からなり、それらを全て1対1で超高速に密結合することによって、あたかも1台のコンピュータのように使える、理論演算速度40テラフロップス、総主記憶容量10テラバイトの性能を有する汎用スーパーコンピュータです。ベクトルコンピュータなので、特に流体系や構造計算系のシミュレーションに威力を発揮し、実際的な大規模シミュレーションでは、実効演算能力が70%近く(28テラフロップス)にもなります。
 地球シミュレータで行っているシミュレーションは、もちろん地球規模の長い時間にわたる気候変動がありますが、それ以外にも、地震波の伝播と被害予想に関する計算など多岐に渡っており、例えば、物質を造っている原子に近い大きさの新素材の特性を調べて製品に生かすナノテク研究、あるいは、地震が起きた時の原子炉圧力容器にかかる応力分布、ロケットや自動車などの工業製品の構造を調べる研究も行われています。

 3. 地球シミュレータセンターで行われている研究
 次に、当センターで行われている研究のごく一端を簡単にご紹介します。研究の詳細な中身は、ホームページ、http://www.es.jamstec.go.jp/esc/jp/に入って頂いて、「研究グループの紹介」を見て下さい。
 (1) 計算地球科学研究開発プログラム
 このプログラムには、大気・海洋シミュレーション研究グループと固体地球シミュレーショングループがあります。地球シミュレータの第一義的な目的は地球科学にあり、このプログラムでは、気象・気候及び地球内部の変動を大規模にシミュレーションするための高度なシミュレーション技術の開発を行っています。
 大気・海洋グループでは、週、季節単位から年単位の気象・気候変動を予測するためのシミュレーションプログラムの開発を行っています。ハインドキャストシミュレーション研究(ある現象を再現することによって後から行う擬似的予測)の一例として、平成16年7月20日に東京で39.5℃を記録した太平洋側の猛暑と、その2日前におきた福井県の集中豪雨の原因解明について紹介します。平成16年7月15日の気象庁提供の観測データを初期値として、5日間の全地球のシミュレーションを行った結果、偏西風が蛇行することによって、ユーラシア大陸の中緯度に、高気圧と低気圧が互いにいくつも隣り合う形となって(シルクロードに沿って波状に形作られるので「シルクロードパターン」と名付けました)、日本の南西部に強い高気圧が発生しました。この結果、日本海側、特に福井県に集中豪雨が降り、多大な被害をもたらすと同時に、その2日後に、太平洋側にフェーン現象が起きて、猛暑となったわけです(図-1)。このことは、偏西風の蛇行のような地球規模の大規模変動に伴う豪雨や猛暑は、3〜5日前位から予測が可能であることを示しています。

 固体地球グループでは、地球内部の構造とその時間発展を解明するために、新しい格子系や革新的なシミュレーション手法の開発、先進的なデータ解析手法の開発を行っています。ここでは、地球内部のコアやマントル対流のシミュレーションのために開発した、全く新しい格子系、「インヤン格子系」をご紹介します。この格子系は、固体地球シミュレーションだけでなく、後でご紹介する台風の動きを予測するための大気・海洋シミュレーションや、地球磁気圏、天文学のシミュレーションなどにも応用されています。インヤン格子は、図-2に示すように2つの球座標系の一部を組み合わせてできているもので、従来の球座標の不必要に集中した格子による計算時間の長大化が防げ、しかも、解像度の高いシミュレーションを短い時間で実行することができます。図-2の右端に、インヤン格子を用いたマントル対流のシミュレーション結果を示しました。

 (2) シミュレーション高度化研究開発プログラム
 このプログラムには、複雑性シミュレーション研究グループと高度計算表現法研究グループがあり、複雑性シミュレーション研究グループでは、数日から季節スケールの、全地球から、日本領域、都市部・地域の気象・気候現象を対象として、予測精度の向上とそれによる日常生活への貢献を目指しています。ここでは、台風の進路予測をご紹介します。
 全地球を水平方向10kmの格子点で切ってシミュレーションをしながら、同時に、日本を取り囲む2,000〜3000kmの領域を1kmの格子点で切って、詳細にシミュレーションします。図-3は、台風の5日予測の結果です。右図で等圧線極値部分の影が台風の雨雲で、海表面温度を高温から低温になるに従って、濃灰色→淡灰色で示しています。台風の進路がかなり正確に予測できること、また、台風の通過と共に、風が強く、海水がよくかき回される台風の進路の右側の海水温度が下がることがよくわかります。

 高度計算表現法研究グループでは、大規模なシミュレーションで得られた膨大なデータについて、効率の良いデータ処理法やその可視化に関する研究開発を行っています。特に可視化については、BRAVEと呼ばれる装置を用いた3次元バーチャルリアリティ表現に必要なソフトウェアの開発や、様々な可視化表現、更に、1ショット1ギガバイトのシミュレーションデータを1,000枚分、1テラバイトという膨大なデータを1日で動画化することも可能になりました。図-4は台風シミュレーションの結果を可視化したものです。

 (3) 連結階層シミュレーション研究開発プログラム
 気象シミュレーションを基礎付ける流体力学や材料開発で使われる弾性体力学など連続場を使った理論モデルはマクロスケールの現象を記述するための優れた方法ですが、原子分子レベルのミクロ現象を正確に取り扱うことはできません。しかし、物質科学や地球・宇宙科学、生物学、環境科学などでは、全く異なる階層の物理過程が相互に影響しあう現象がしばしば生じます。物質破壊に伴う亀裂進展はその典型であり、バルク物質の応力分布変化と原子間ボンドの破断が相互に影響を与えることで現象が進展します。
 それ故、これらの複雑現象を正確に捉えるためには、分子動力学モデルやプラズマ粒子モデルなど、ミクロスケールの計算方法を必要とします。しかし、たとえ地球シミュレータを最大限に利用しても、従来のミクロモデルによってマクロスケールの現象を再現することは、現実的に不可能です。現在、このマルチスケール問題は様々な科学分野における最重要課題として広く認識されています。地球シミュレータセンターでは「連結階層シミュレーション」と呼ぶ新たな方法論を確立することによって、この困難を克服するための研究を実施しています。連結階層シミュレーションは、ミクロ階層とマクロ階層にそれぞれ適合する計算モデルを連結し、必要な情報のみを交換することによってマルチスケール・マルチフィジックス問題を効果的に取り扱うことができる次世代のシミュレーションです。
 図-5は地球シミュレータセンターにおいて世界で初めて実現された第1原理雲形成シミュレーションの結果です。雲形成は大気の放射過程を通して温暖化に重要な影響を与えると考えられていますが、マクロスケールの大気力学の中でミクロスケールのエアロゾル・雲相互作用を正確に取り扱う方法論はまだ確立されていません。このことは温暖化予測の不確定性を大きくする主たる原因の一つにもなっています。私たちは「超水滴法」と名づけた新しいモンテカルロシミュレーションを大気シミュレーションと連結することにより、雲凝結核の化学種と質量、水滴の運動論、凝結成長、衝突併合などを第1原理から取り扱うことに成功しました。現在、さらに大規模な大気循環と雲微物理の相互関係を明らかにする研究を進めていますが、その成果は精密な降水予測や人工降雨の最適化などにも利用することができると考えられます。

 連結階層シミュレーションは大気現象のみならず、科学技術の広い分野で大きな貢献をすることができます。例えば、燃焼シミュレーションでは、圧縮性流体モデルの中に分子の衝突と反応を精密に扱うことができる直接モンテカルロ法を埋め込んだ新しい連結階層シミュレーションの開発に成功しています。このように、地球シミュレータセンターでは、オーロラ形成や太陽フレア発生などの宇宙プラズマ現象から、燃焼問題や摩擦動力学といった産業応用に関係する分野まで、広く連結階層シミュレーションの研究開発を実施しており、期待すべき多くの成果をすでに生み出しつつあります。

 4. 終わりに
 地球シミュレータセンターでは、従来型のシミュレーションの高度化と共に、連結階層シミュレーションに代表される次世代シミュレーションの開発を、地球シミュレータを最大限に活用しながら精力的に続けています。さらに、その成果と技術を受け継ぐ若い世代を育てるために、連携大学院や実習生制度など、大学院生の受け入れを積極的に進めており、すでに名古屋大学、広島大学、京都大学などの学生がセンターで研究活動を続けています。
 先端的なハードウェアと次世代シミュレーション技術の融合に基づく地球シミュレータセンターの研究活動が、環境予測はもちろん、幅広い学術の発展と国民生活の向上に貢献していくために、今後とも努力を続けていきたいと考えています。










連絡先:〒236-0001神奈川県横浜市金沢区昭和町3173-25
    海洋研究開発機構 横浜研究所内 地球シミュレータセンター
TEL: 045-778-5758
FAX: 045-778-5490
http://www.es.jamstec.go.jp/esc/jp

■トピックス

レアメタルリサイクルの現状に関する
情報交換会に参加して

編集委員/芝浦メカトロニクス 川 又 由 雄

 1. はじめに
 FPDや半導体デバイス、記録メディア等、近年の先端技術産業に必要とされる材料(マテリアル)は多岐に渡ります。
 なかでも貴金属(Au, Ag, Pt, etc.)、レアメタル材料(In, Ta, W, Mo, Cr. etc.)は資源の枯渇、偏在による資源国の輸出抑制、少数企業の採掘権の独占、投機による価格変動等により安定供給が懸念されており、これらの材料のリサイクル、省材料化、代替材料の開発が叫ばれています。電子部品製造工程、特に真空成膜プロセスにおいてもこれらは重要なテーマであり、今回、平成18年9月14日(木)14:00〜16:00、東京ビックサイトにて「レアメタルリサイクルの現状」をテーマに日本真空工業会と●社新金属協会との情報交換会が開催されました。
 スパッタリング成膜装置メーカーとターゲット材料メーカーとで成膜プロセス、装置に関わる近年話題のIn枯渇対策に代表されるレアメタルのリサイクルの動向紹介から、相手業界へ要望、問題点に対する活発な議論が行われました。
 真空工業会より11社12名、新金属協会より7社15名が参加し、本誌編集委員(川又)は成膜装置開発エンジニアとして真空工業会のメンバーでもあり、これに参加する機会を得ました。材料開発をとりまく製造工程におけるリサイクルの現状、問題点を討論会の内容を通して紹介したいと思います。

 2. 情報交換会内容
 (1) 新金属協会よりレアメタルであるTa、Inのリサイクルについての現状説明
・Taのリサイクルフロー Taはコンデンサー材料やリード線に使用され携帯電話、パソコン、デジカメ等民生電子機器へ展開されている。製品生産工程における材料端材のリサイクルが行われている。リサイクルされる部材はコンデンサーのリード線が大部分。国内全消費300〜500t/年の10〜20%をリサイクルでまかなっている。基本的に最終製品からの原材料回収は難しいのが現状。
・Inのリサイクルフロー FPD用透明導電膜として使用されるITO(In2O3+SnO2)中のInは供給不足が懸念されており価格が1年で10倍に高騰している材料2),3)。Inは8割がITOターゲット材へ利用され、国内総消費量760t/年のうち、リサイクルによるものが430t/年、約60%を占めている。製造工程でのターゲット端材と使用済みターゲットからリサイクルするシステムが出来ている。防着板からのリサイクルは現状出来ていない。ただし、このようなリサイクルが進んでいるケースは貴金属とTa、ITO(In)くらい。レアメタルの中でもTi、Mo、WはIn、Taと比較してリサイクルが進んでいない。Moを例にとると、純粋なMo材としてではなく鉄鋼の添加剤として再利用されることはある。

 (2) 成膜装置メーカーからターゲットメーカーへの質問
 Q:何故貴金属、ITO、Ta以外のレアメタルはリサイクルされないのか。
 A:原料価格が安い材料は再精錬するリサイクルがコスト的に成り立たないという理由が大きい。そこでリサイクルではなくリユースされることは多い。
 A:リユースとは最初の品物と違う形、用途で使用する事。品質保障の観点からグレードを下げた品物として扱う事になる。例えばターゲットの未使用部分を小さい形状に削り出して使用するなど。Moの鉄鋼添加もリユースとなる。AlターゲットはAl缶等の用途に再生される。高い品質保障が求めらる用途には向かない。

 (3) ターゲットメーカーからの成膜装置メーカーへの質問
 Q:ITOの場合ターゲット製造工程においては無駄のないリサイクルが確立している。比較すると後工程である成膜装置でのロスが大きいのではないか。
 A:スパッタ装置の構成により大きく変わる数値ではあるが、ターゲット利用効率は約50%、ターゲットから飛び出した材料のうち基板に付着する効率が50〜60%、両者の積から25〜30%程度の成膜効率となる。ターゲット利用効率分はリサイクル回収出来ているので残りの付着効率が問題となる。付着効率は向上させにくい。近年ユーザー側より成膜装置に高い膜厚均一性が要求されているためである。基板中央部分と同じ膜厚を基板の端に成膜しようとすれば当然基板に付着せず防着板につく膜が増加しロスとなる。装置メーカーとしては、基板を移動し成膜する機構をとる等の工夫で効率を改善する事は可能だが複雑な機構を装置に搭載する事で価格やトラブル発生の可能性が増加する。難しい問題といえる。
 A:光学膜フィルターの成膜には1%程度の高い均一性が要求されている。このために基板よりかなり大きいターゲットを使用する必要が出ている。
 A:リサイクルしやすい防着板の開発が必要。最終製品からリサイクルできるかが最後の課題だが法的な補助が必要か。
 Q:ディスプレイ、発光素子、電子デバイス等市場性をもつ部品を開発する段階で使用する素材の選定に資源、環境、リサイクルを考慮して欲しい。
 A:素材選定は基本的にデバイスメーカーが行っており装置メーカーはデバイスメーカーの方針に従っているのが現状である。

 (4) その他情報:
・貴金属の場合付着した膜の回収は既に行われている。
・Siの場合太陽電池用多結晶Siの需要、価格増大で半導体用Siのインゴット端材等からのリユースが進む方向にある。

 3. 討論会を終えて
 素材の枯渇、価格増加はデバイス製造メーカーにとって死活問題といえる。Zn系の透明導電膜研究に代表される希少材料を代替する新素材開発への期待も大きいが、実際の製造工程における材料供給がリサイクルをベースに成り立ち始めており、低コストの精錬技術とプロセスにおける材料効率向上は材料問題解決に不可欠なテーマであるとの印象を受けた。

参考文献

1) 斉藤茂:「スパッタリングターゲットの動向」, 真空ジャーナル, 2006年7月号
2) 工業レアメタルNo.122 Annual Review2006
3) 新金属産業50年(新金属協会)

 (本文は会合に参加し聴講した内容を筆者が書きおこしたものであり文責は筆者にあります)








・日本真空工業会
〒105-0003 東京都港区西新橋3-23-5 御成門郵船ビル13F
TEL: 03-3459-1228 FAX: 03-3459-9405
URL: www.jvia.gr.jp
・社団法人 新金属協会
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-21-8 秀和第三虎ノ門ビル
Tel: 03-3591-0389 Fax: 03-3591-0340
URL: www.jsnm.or.jp

■追  悼

JamesS. Koehler(1915〜2006)先生を偲んで

Ralph. O. Simmons1, Frederick Seitz2, Andrew V. Granato3, 堂山昌男4

 金属結晶欠陥の基礎研究で世界の先導的研究を常にされたKoehler先生が2006年6月19日にイリノイ大学本校のあるUrbanaで亡くなられた。91才であった。
 ピン止めされた転位の運動と減衰の理論、純金属の急冷とその後の回復の実験での原子空孔同士の相互作用、イリノイ大学での照射損傷実験の核心的役割をされた先生である。そのグループは金属中の格子間原子が極めて低温で移動することを世界で初めて示した。Koehler教授はイリノイ大学に透過型電子顕微鏡を導入し、結晶欠陥の研究も行った。これらの研究により、照射損傷後の各回復ステージの統一的解釈を行った。これらに反対する議論も出されたが、ステージVでの原子空孔の移動など、陽電子消滅でも正しいことが示されている。
 Koehler教授は教育、研究に立派な業績を残された。45名の博士論文の指導教官(Carnegie Tech 7, Illinois大学38)をし、25名以上のポストドック、多数の外国研究者を招聘した。Koehler教授はBell Lab., GE, Philips, 航空宇宙工業等の企業、コロンビア、イリノイ、ミズリー、ノースウエスタン、ユタ、ウイスコンシン、東京大学、広島大学、ソウル、欧州等の大学、Argonne, Oak Ridge, Sandia, デンマーク、ドイツ、日本等の国立研究所にも関係した。米国物理学会のフェローであり、J.S. Guggenheim Fellowshipを得ている。
 彼の故郷ウイスコンシン州Oskhoshで1935年に学士号を取り、ミシガン大学において、理論物理でPh. D.を1940年に取得、ポストドックをペンシルバニア大学、ピッツバーグのWHで行った。ペンシルバニア大学でFrederick Seitz先生に会ったことが、彼の生涯の研究方向を固体理論、塑性変形へ決定付けたといえよう。1942年Seitz先生がCarnegie Tech.へ移ったので、KoehlerもCarnegie Tech.に移り、講師に任ぜられた。第2次世界大戦中で、国家防衛研究委員会(National Defense Research Committee)の援助で実験室を立ち上げた。1944年にはManhattan Engineer District研究に入り、ウランの拡散を研究し、原子爆弾の形を円筒形からねじりドーナッツ型に変えさせた。
 戦後軍の研究費が基礎研究に注ぎ込まれ、1947年にはOffice of Naval Researchの支援で、塑性変形研究が始まった。1950年にはSeitz指導の固体物理プログラムに加わり、イリノイ大学物理学科に招聘された。Koehler教授はイリノイサイクロトロンを使った原子力委員会の照射損傷プログラムの大きな支援を得た。その後、材料研究所(現、Frederick Seitz Materials Research Lab.)に待望のVan de Graafを入れ、照射が自由に出来るようになった。この間、武藤俊之助、鈴木平、山口嘉夫、西島和彦、神崎熙、小林浩一、山形武虎、藤田英一、吉田ワ、藤原浩、二宮敏行、一丸節夫、比企能夫、紀隆雄、深井有、桐谷道雄、下村義治、木暮嘉明、小杉俊男ら(敬称略)50名近くの日本人がイリノイ大学物理学科にお世話になった。1981年に退職し、名誉教授となった。この年京都で高村仁一、堂山昌男、桐谷道雄により行われたPoint Defects and Defect Interactions in Metalsの立役者であった。
 Koehler教授は実験手段を特定せず、内部摩擦、巨視的塑性変形、電気抵抗、X線回折、エネルギー放出、X線異常透過、陽子チャンネリング、チャンネリング放出、理論では転位に関する研究を行った。
 Koehler教授は真面目で、決して人を押しのけてしゃしゃり出るような人ではなかった。地味にこつこつと一歩一歩組み上げて行かれた先生であった。日曜日には教会の席案内をしていた。
 Koehler教授は厳しい面もあった。文責者(堂山)は博士論文の実験として、「純銀の高温からの急冷実験」をさせられたが、2年程経ったとき、同じ研究室でWhityが「純銅の急冷実験」をさせられていたのを知らされていなかった。ある日Koehler教授が来て言うには「Whityの方法がうまく実験が行っているようだからお前も彼の方法を習ってやったらどうか!」。見ると彼の方法は堂山の方法より悪い。「彼の方法でうまく行くなら、私の方法で行かないはずがない。あと3ヵ月下さい」と頼んだ。それからは夜を日に接いで、3ヵ月は夜も寝ないで実験をした。文責者の実験がうまく行き出したら、今度はKoehler教授、Whityのところに行き、「Masaoの方法がうまく行っているから、お前は彼の方法を真似たらいい」。Whityはおとなしいものだから彼は自分の方法を捨てて堂山の方法を真似た。科学実験というものは誰が、何時、何処でやろうと同じ結果が出るはずであるが、きわどい実験はそうは行かない。言葉で言い表せないコツというものがある。また、情熱も重要なファクターだ。
 もう一つは堂山の恩師の橋口隆吉先生、お世話になった京大の高村仁一先生がKoehler教授を尋ねて来られたとき、「お前の研究室は見せてはいけない」と言われた。Koehler教授曰く、「発表前に研究室を見せると、見て先を越されるといけないと思って慌てて発表してしまう。だから見せるのは発表の終わった研究に限る!」。
 イリノイ大学物理学科のPh. D. Qualifying examinationは厳しい。2度落ちると、追放である。我々の時代には毎年物理の大学院に100名くらい入って来るのだが、そのほとんどがPh. D.を目指す人ばかりだ。それらで博士号がもらえるのは15〜16名であった。その残りは修士をもらって外にでなければならない。アメリカでは責任ある研究は博士号がないとやらせてもらえないと言っても過言ではなかろう。私の受験のときには、Koehler教授に呼ばれて、大きな教室で、2人で黒板の左右に分かれて過去問を解かされた。あの忙しい大先生も一緒に解いてくれたのには恐れ多かった。
 Koehler教授とその奥さんHarrietにはよく自宅に我々をよんでいただいた。このようなパーティで世界的に著名な結晶欠陥研究者を個人的に知る機会に恵まれた。奥さんは特に気を使う人であった。また、自宅リビングルームにグランドピアノが2台あり、Seitz先生夫人のBettyと連弾をして、我々に聴かせてくれた。彼女は晩年パーキンソン病に侵され、歩くことも出来なくなり、自宅も売って郊外の退職した人たちが住む施設の一区画を借りて住んでおられた。Koehler教授は奥さんの面倒をよく見たが、6年前に亡くなられてしまった。
 Koehler先生が全然大学に姿を現さなくなったということを聞いて、今年の4月にお見舞いに行った。それが最後となってしまった。そのときにはFrederick Seitz Materials Research Laboratoryで最近応用研究大プロジェクト方針をGranatoから聞き、憤りさえ述べられていた。最近のオイル危機で照射損傷研究費が急増しているとも聞いた。
 お二人のご冥福を祈ってこの稿を終える。

1イリノイ大学*名誉教授、元物理学科主任/2Rockefeller University名誉学長、イリノイ大学*元副学長/3イリノイ大学*名誉教授/4東京大学・帝京科学大学・蘭州大学名誉教授、日本MRS初代会長、IUMRS第3代会長(文責)
*University of Illinois at Urbana-Champaign


■会議報告

IUMRS-ICA 2006 報告
Sept. 10-14, 2006, Hotel Shilla, Jesu, Korea

日本MRS会長 山 本 寛(日本大学理工学部教授)

 2006年9月10日(日)、しばらく続いたという雨模様もおさまり、晴れ間が見え始め、心地よい風の吹く済州島に降り立った。Materials Research Society of Korea主催の標記会議は島の南に位置する中文リゾートにある南欧風ホテルThe Shilla Jejuで開催された。同ホテルは6年前のIUMRS-ICEMが開催された場所でもある。
 今回の発表論文数は1,300あまりで、そのうち約1/4がプロシーディングとして掲載される予定である。参加登録者数は約900名、そのうち100名が日本からの参加であった。11日から、17のシンポジウムが重複しながら、4日間にわたって行われた。ポスターは3日間、オーラルと平行して行われた。掲示時間は4時間と長く、発表者が見当たらないボードが多かったのはやや残念であった。
 連日午前の始まりはプレナリー講演であった。8時半始まりのせいか、聴衆はやや少なかったけれども、シンポジウム(Electronic Material Processing and Fabrications; Development of Functional Materials; Nano and Structural Materials; Energy and Environmental Materials; General)分野をカバーして、いずれも優れたレビュー講演であった。講演者とタイトルは次の通りである。
 1. Hee Dong Park “Current Display R&D States in Korea”.
 2. Min Young Lee (Samsung) “Materials Science or Materials Engineering? Securing R&D Funding Point of View.”
 3. Yoshio Nishi (Stanford Univ.) “CMOS Scaling and New Opportunities with Nanoelectronic Materials and Devices”.
 4. Robert J. Nemanich (North Carolina State Univ.) “Interface Band Alignment of High-k/Metal Gate Stack Structures”.
 5. Baicheng Liu (Tsinghua Univ.) “Progress on Microstructure Modeling of Solidification Process of Shape Casting”
 初日の夕刻、歓迎パーティは広々とした中庭を背景として、洒落たプールサイドで催された。ホストの韓国をはじめ、シンガポール、台湾MRS代表と挨拶を交わしたが、中国やインドの代表は欠席であった。雨のため、12日夜のバンケットは室内で催された。アトラクションのバンド演奏は韓国伝統音楽とポップスのフュージョンされた絶妙な技巧と情熱あふれる演奏で大いに場を盛り上げた。
 会議中、IUMRS-ICAメンバー代表による会合が開かれた。そこで、次回のICAは2008年チェアマン・高井治教授(前日本MRS会長)を中心として日本MRSがホストとなり、名古屋にて開催されることが決定された。ぜひ、会員の皆様、奮ってご参加頂ければ幸いである。また、2008年以降、ICAは毎年アジアメンバー持ち回りで開催されることも決議された。ちなみに2009年はシンガポール開催である。
 今回の会議、主催国の参加者が多いのは当然であるが、アジア各国からの参加が2割以上にのぼっており、多くの若い人たちの多彩な交流が彼処に見受けられた。特に材料研究が活発化しているアジア地域において、今後ICAの存在は先導的国際会議としてその意義と役割を益々深めていくものと期待される。
(詳細:http://www.mrs-k.or.kr/ica2006)


ご 案 内

■第17回日本MRS学術シンポジウム―イノベーションを切り拓く先導材料研究―講演募集

 主催:日本MRS(http://www.mrs-j.org/)
 日程:2006年12月9日(土)〜10日(日)
 場所:日本大学理工学部駿河台校舎1号館(〒101-8308 東京都千代田区神田駿河台1-8-14)
 各種締切期限
 オンライン参加申込締切 2006年11月17日(金)
 Proceedings提出締切 研究発表当日
 問合せ先
 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1物質・材料研究機構エコマテリアルセンター・篠原嘉一、E-mail:  mrsj2006@nims.go.jp

A ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料
B 分子性薄膜の作製・評価・応用―高度な配向制御、配向解析、および機能発現を目指して
C 自己組織化材料とその機能 VIII
D 暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療
E 固体の反応性―ナノ領域での反応制御による新材料の創製とそれを支えるサイエンス
F ナノスケール構造体の新展開―構造・機能・応用
G 量子ビームによる埋もれた界面の解析―半導体・電子材料からソフトマテリアルまで
H 先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア
I ナノ構造精密制御と機能発現
J 先導的バイオインターフェイスの確立
K イオンビームを利用した革新的材料
L 燃料電池用材料の新展開
M ネットワークと溶媒が織りなすゲルのサイエンスとテクノロジー
N 生物系資源の最近の進歩
O 材料データベース
P マテリアル・ダイレクト・ライティング技術の展開
Q マテリアルズ・フロンティア
詳細:日本MRSのホームページを参照して下さい。


■To the Overseas Members of MRS-J

■Expectation for Interdisciplinary Research, Integrating the Natural Sciences with Humanities and Social Sciences…p.1
Prof. Tsuneo MATSUI, Director, EcoTopia Science Institute, Nagoya University

 An ideal society that the 21st century is striving for is the human-oriented beautiful sustainable society with higher quality of life (we call EcoTopia).
 To successfully create such a society, interdisciplinary research, which integrates the intellectual spirit of natural sciences, humanities, and social sciences, is essential. At the EcoTopia Science Institute, Nagoya University, the interdisciplinary researches such as socio-ecosystem science for the safer and healthier society where humans coexist with nature through harmonizing recycle/regeneration of materials, energies and information with humans, and creation of a higher quality of life with safe and reliable care-giving, social welfare, health, and medical care have been performed.
 Through these researches new innovative science and technology field will be established.

■The Earth Simulator Center…p.2
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology


 The Earth Simulator was developed with the aim of making a comprehensive understanding of the global environmental changes such as the global warming. The Earth Simulator is still the most powerful supercomputer in the world from the viewpoint of its actual high performance for the various simulation programs. The Earth Simulator Center was established at Japan Agency for Marin-Earth Science and Technology in 2002, as the institution for the advanced simulation research as well as the operation of the Earth Simulator. Here, we would like to introduce the activity of the research groups of the Earth Simulator Center and some simulation results in brief.

■Symposium on the Present Status of Rare-Metals Recycling…p.4
■Obituary J.S. Koehler…p.6

■The Report of IUMRS-ICA 2006…p.7
Prof. Hiroshi Yamamoto, Nihon Univ.


 The conference was held on Sept. 10th-14th, 2006 at The Shilla Jeju in Chungmun Resort of Jeju Island, Korea. About 1300 papers were presented and the number of the attendees was 900, including 100 Japaneses. IUMRS Asia members decided the next ICA 2008 will be held in Nagoya hosted by MRS-J.

■The 17th MRS-J Academic Symposium…p.7
 The 17th MRS-J Academic Symposium will be held December 9-10th, 2006 at the Ochanomizu district of the Nihon University. Seventeen symposia will concurrently be organized. For further information: http://www.mrs-j.org/


■編後集記

 環境について漠然とした不安を感じている人も多いようですが、一方で日常の行動にはなかなか結びつかないものです。本号で紹介されたように、科学技術の進歩で人間はすばらしいツールも手にし始めているようですし、総合的な問題解決に向け、知の統合を目指した新たな活動も始まっています。材料研究・技術者は何をすべきでしょうか。環境をテーマとして紙面を作れればと始めた今回号の編集は、思わぬ出来事の連続となりました。そんななか、御多忙中にもかかわらず快くご執筆をお引き受け頂いた先生方に深く御礼申し上げます。また、編集委員各位にもいろいろお手数をおかけしながら、やっと完成することができ、皆様に深く感謝いたします。(富田)