日本MRSニュース Vol.19 No.1 February 2007
日本の薄膜材料に思う事
日新電機株式会社技術開発研究所・所長 緒方 潔
例えば固体材料は、分子・原子が規則正しく配列していると結晶をつくり、この結晶構造が変われば原子・分子が同一でも固体の性質は大きく異なる。簡単な例ではあるが、シリコンと酸素の化合物を例にとれば、単結晶の水晶は、非晶質のガラスに比べて電気伝導度は高いが、光吸収は少ない。多くの固体材料は、その結晶構造を変化させることでこのように機械的、電磁気的、光学的、化学的等の様々な性質を変化させることが知られており、結晶の構造制御を駆使した新しい材料が次々と生まれてきた。新しい材料は、今日までに多くの産業界をリードしてきたと言え、まさに工業の発展の根底に材料科学の進歩が必要条件であった事は論を待たないと言えよう。
このような材料科学の発展は、固体表面の高機能化というニーズで活用されるようになった。真空技術の発展と共にいわゆる薄膜材料として徐々に姿を変えてきた。今日、固体表面が関与する分野は非常に広範囲に渡っている。いずれの分野も表面現象を科学的に解析し、「表面の設計と加工」という努力がなされている。中でもその柱ともいえる表面加工技術では、物理的、化学的、機械的な多くの手段を組み合わせた様々な表面改質技術が誕生して、それぞれの目的に応じて最適な方法が利用されている。従来からのめっきや塗装に代表されるような薄膜を形成して改質する成膜法、浸炭や窒化法に代表されるプラズマやイオンの注入による表層改質法、さらにこれらの技術をハイブリッド化した方法など。中でも成膜法は多くの分野で使われている技術であり、ナノマテリアルに代表されるようなミクロな制御を必要とする半導体や医療分野の世界から、機械加工技術に必須となるハードコーティングまで、広く工業分野で実用化され脚光を浴びている。特に日本では、古くは’60年代のサンシャイン計画におけるプラズマ技術を用いた薄膜太陽電池のごとく、薄膜材料の開発は極めて早い時期から産業応用を目指して発展し、今でも材料、装置共にその技術的優位性は非常に高い。独創的な発想の元に世界をリードしうる多くの研究成果を生みだし、世界的に見ても決して劣る事のない技術レベルであるとは言い過ぎだろうか。
ところで、このような優れた薄膜材料技術がより多くの市場で活用されるためには、どうしても解決しなければならない課題がある。それはコスト、いわゆる生産技術の発展である。かつて安く作る為にアジアに工場を建設し、安価な製品が日本へ流れて来るようになった。やがて、現地の生活レベルが向上して大きな市場を形成するようになると、それらの工場は現地向けの生産工場へと変わっていった。そして今や多くの製品が中国で製造されるようになり、我々の日常生活においても中国が関与していない製品を見つけるのは難しい。薄膜関連製品についても同様である。私事であるが、昨年度、中国の大連で開催された中国真空協会主催の全国薄膜技術検討会にゲストスピーカーとして参加する機会に恵まれた。中国全土の薄膜材料関係の主な研究者が集い、2日間で100件以上の研究発表が実施され、中国国内では比較的大きな学会である。報告された薄膜材料は多岐にわたり、TiNやDLCといったハードコーティング材料、TiO2などの光学薄膜、そして太陽電池向けの電子薄膜材料等。いずれのセッションでも熱心な討論が行われ、中国国内でも薄膜材料に関する研究は確実に高まっていると感じた。しかし報告者は大学研究者が大半であり、企業の参加は非常に少ないのが現状である。基礎検討は着実に進んでいるが、応用面はこれからということであろう。だがこのような現実に対しては中国の研究者曰く、製造装置、材料に関する技術のほとんどは日本、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアからの輸入であり、これからの中国の課題は、これら技術の自国開発であるという。
研究者の中心メンバーは米国や日本の留学経験のある30代の若手であり、その能力と同時に、有り余るぐらいの熱意を共に兼ね備えている。かつて欧米出張等で中国の人と話をする機会があったが、極めてアグレッシブでギラギラしていた。近年、私は中国に出かける機会が多くなったが、米国でみたギラギラした人を多く見かける。日本は少子・高齢化でやがて人口減少に転じる。例えば国民の1%が優秀な人材として国を引っ張っていくとすると、日本とは桁違いの優れた人材集団が桁違いのスピードで自国中国を発展に導く事ができるということになる(ちょっと、言い過ぎか)。少なくとも日本の人口の10倍以上を抱える中国では、無尽蔵とも言っていい人的資産によって製造コストを他国よりも下げることができる。一方、日本は優れた先端技術を蓄積しているが、製造コストの低減技術については下位技術という認識があるのか、韓国や台湾メーカーの後塵を拝している。かつての日本がそうであったように、そう遠くない将来、彼らの目標は現実のものとなり、日本の脅威となることは想像に難くない。日本を除くアジアの台頭により、世界的なPCメーカーがアジアの企業に買収されるようになった。中国をはじめ、韓国、台湾といった隣国の追い上げに対して、今後、日本はどのように接するべきであろうか。DRAMの惨状を繰り返してはならない。今後日本は保有技術の優位性を更に高めることはもちろんであるが、製造コストの低減は競争力の維持に必須である。「良い物が必ずしも売れるのではなく、売れる物が良い物」という事もそろそろ認識しなければならないのではないだろうか。
第17回日本MRS学術シンポジウム
─ イノベーションを切り拓く先導材料研究 ─
2006年12月8日(金)〜10日(日)、日本大学理工学部駿河台校舎(東京都千代田区)
▽シンポジウム総括
本シンポジウムは、2006年12月8日(金)から10日(日)の3日間、東京・御茶ノ水にある、日本大学理工学部・駿河台校舎1号館で行われました。本年度は、「イノベーションを切り拓く先導材料研究」をテーマに、口頭発表(招待講演含む)301件、ポスター発表、397件、合計698件の発表が行われ、昨年同様(昨年合計651件)非常に活気にあふれるシンポジウムになりました。17のセッションからなる幅広い分野をカバーし、日本MRSの理念「先進材料に関する科学・技術の専門家の横断的・学際的研究交流を通じて、その学術・応用研究および実用化の一層の発展を図る」をまさに再現していたと思います。昨年に引き続き国際セッションを5セッション(セッションA、H、K、M及びO)設けました。今回は韓国MRSの協力を得て、11名の講演者(内、招待講演2名)の方々に発表をしていただきました。来年からもより多くの方々のご協力をいただき、国際セッション数を増やしていきたいと考えております。各セッションの発表の様子、トピックスなどは、チェアの皆様にまとめて頂いた以下の報告を参照して下さい。今年も、若手の優れた口頭発表・ポスター発表を対象とした奨励賞を選考し、対象者431名の中から44名を選出しました。受賞者を一覧にして以下に示します。受賞者の皆様にお祝い申し上げるとともに、ご参加いただいたMRS-J会員、発表者各位、セッションチェアならびにシンポジウム企画・運営にあたられた皆様方に、あらためて感謝を申し上げます。
▽2006年日本MRS奨励賞受賞者
Session A:岩田麻希(名古屋大)、吉田周平(兵庫県立大)、稲葉慶吾(東京大)
Session B:相原秀典(相模中央化学研)、木村秀人(東京理科大)、星沢裕子(山形大)
Session C:安田琢麿(東京大)、平井友樹(東京大)、早田祐貴(名古屋大)
Session D:須藤祐司(東北大)、角田世治(青森県工総研)
Session E:鎌田 海(九州大)、鈴木美羽(東京理科大)
Session F:中谷昌史(筑波大)、三浦 智(神戸大)、石川明弘(九州大)、猿山雅亮(筑波大)
Session G:矢代 航(東京大)
Session H:坂田 務(広島大)、濱島絵里(名古屋大)、岩下伸也(九州大)、田中洋則(法政大)、篠原正典(長崎大)
Session I:緒明佑哉(慶應大)、佐藤慈之(北海道大)
Session J:星野裕樹(筑波大)、徐 知勲(東京大)
Session K:Piyanuch SOMMANI(京都大)、中田由彦(京都大)
Session L:Cherry L. Ringor(物材機構)、Pilwon Heo(名古屋大)
Session M:浅野恵美(東海大)、梅林江里(宇都宮大)、古澤和也(群馬大)、馬場 亨(横浜国立大)
Session N:青蜿[(三重大)、木村隆之(新神戸電機)、坂井麻美(慶應大)、藤本純也(明星大)
Session P:加藤義寛(ソニー)
Session Q:近藤幹人(東京工業大)、半谷剛大(神奈川工科大)、萩谷将之(神奈川大)、浅田 毅(日本大)
▽Session A:ドメイン構造に由来する物性発現と新機能材料 Domain Structure-related Ferroic Properties and New Functional Materials
本セッションではドメイン構造を有する強誘電体や磁性体の話題を中心にドメインの観察手法からドメインを利用したアプリケーションにいたるまで幅広く討論が行われた。発表は招待講演6件、オーラル10件、ポスター35件の合計51件で、2日間にわたり行われた。本セッションは今回で5年目を迎え、現在MRS-J学術シンポジウムで行われているセッションでは最多となった。また今回は磁性を扱った研究発表が増え、本シンポジウムにおける磁性体研究者の受け皿にもなれたと感じている。
昨年に引き続き、今回も国際セッションを行った。初日は招待講演者のTarasKolodiazhnyi氏(NIMS)がチタン酸バリウムに関する発表であったことから、チタン酸バリウムに関する研究発表は全て英語セッションで行った。修士の学生による英語口頭発表も行われたが、参加者や座長のフォローによって活発な議論に進展し、有意義な国際セッションとなった。また韓国MRSからの参加者を考慮し、2日目にも相転移や欠陥制御、材料設計など多数の報告を英語で行ったため、全セッションの半分が英語セッションとなった。 英語セッションならではの苦労もあるが、海外からの参加者を受け入れるためにも、来年度以降も国際セッションを続けていきたいと考えている。
発表内容では、基礎研究が増えており理学系(基礎)と工学系(応用)の融合はうまくはかられているように思う。しかし、昨年からの課題であった企業からの参加者は少なかった。特定の物質や現象にとらわれず、あえて「ドメイン」のみをキーワードとしたセッション名では企業からの注目度が少ないのかも知れないが、基礎研究、応用研究を経て、新しい産業を生み出すことに目を向けていくことが、本セッションの重要な役割である。
今回、奨励賞対象となった28件の中から、若手一般および博士課程学生として稲葉慶吾氏(東大先端研)、修士課程学生から吉田周平氏(兵庫県立大工)
岩田麻希氏(名大エコトピア研)の3名が選ばれた。
最後に、事務局をはじめ、本セッションにご協力いただいたすべての皆様にこの場を借りて感謝の意を表します。
(代表チェア 米田安宏(原子力機構))
▽Session B:分子性薄膜の作製・評価・応用―高度な配向制御、配向解析、および機能発現を目指して
― Fabrication, Characterization and Application of Molecular Thin Films―Structural
Analysis and Control toward the Realization of Novel Functions ―
本セッションでは、昨年度に引き続き、有機EL素子や有機FETなど、実用化の出口に近い分子薄膜デバイスの研究者と分子薄膜の構造・物性評価に取り組む基礎研究分野の研究者が交流を深め、分子薄膜系の基礎・応用研究が更に発展することを期待して企画された。発表は、招待講演3件、一般講演5件、ポスター発表22件の合計30件で、12月8日(日)の午前中にポスター発表、午後に、口頭講演(一般講演、招待講演)というスケジュールであった。ポスター発表は、昨年同様、他セッションと合同であったため、他セッションの発表者との討論もあり、MRS-Jの特徴が活かされ、会場も熱気に溢れた。
午後の口頭講演は、まず、「気水界面における単分子膜構造のX線を用いたその場測定」と題された飯村兼一先生(宇都宮大工)の招待講演により始まった。内容は、シンクロトロン放射X線を用いて、微小角入射X線回折(GIXD)、および、X線反射率法(XR)により、気水界面の分子膜の構造を、3次元的に(膜の面内、および厚み方向で)詳細に評価した最近の成果についてであり、多くの聴衆の興味を惹き、活発な議論が展開された。LB膜、組織分子膜の構造評価に関する一般講演が3件続き、その後、三崎雅裕先生(産総研・光技術)による、「ポリフルオレン配向膜からの高度な偏光エレクトロルミネセンス」と題された招待講演があった。内容は、液晶表示素子のバックライトとしての可能性を持つ分子薄膜素子に関する詳細な構造評価を含んでおり、聴衆の興味を強く惹き、活発な議論が展開された。その後、LB膜の構造評価、および分子膜の光機能に関する一般講演が続き、口頭講演のプログラムの最後は、加藤景三先生(新潟大工)の「クレッチマン配置における配向分子の発光による表面プラズモン励起」と題された招待講演により締めくくられた。内容は、配向分子膜からの発光がナノ光学分野で非常に有用であることを示しており、多くの聴衆の興味を惹き、活発な議論が展開された。
今回、奨励賞の対象となった発表は25件あった。その中で、最若手(修士1年・学部4年生)の健闘が光り、その結果、選考は困難を極めたが、その中で、相原秀典氏(相模中研、若手一般)、木村秀人氏(東理大院修士)、および、星沢裕子氏(山形大工4年)の合計3名が奨励賞に選ばれた。
(代表チェア 三浦康弘(桐蔭横浜大院工))
▽Session C:自己組織化材料とその機能VIII Self-assembled Materials:
Synthesis and Applications VIII
自己組織化を利用した高度な組織体の形成は、従来にはない革新的な手法である。本セッションは、有機系、無機系、生物系、さらにその複合・集積系における、自己組織化現象に関する新材料・構造体の創製、更にそれらの構造と機能の解明等の広範な研究を含むものである。本年は招待講演2件、オーラル9件、ポスター24件の合計35件の発表から構成され、活発な討論が行われた。
午前には3件の一般講演が、午後には2件の招待講演と6件の一般講演が行われ、その後にポスターセッションが開催された。午後のセッション冒頭の招待講演では産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門の玉置直之先生により「大環状ジアセチレン誘導体の自己組織化と重合反応」の題目で、超分子化学に基づくナノチューブ構造の創製に関する最近のトピックスが紹介され、多様な視点からの活発な質疑応答がなされた。3件の一般講演をはさんだ2つ目の招待講演は、慶応義塾大学理工学部の今井宏明先生による「自己組織化による階層構造を有する無機結晶の合成」と題する講演で、結晶成長の制御手法の分類に基づく階層構造の設計に関する研究が紹介され、活発な質疑応答が行われた。
以上のように本セッションでは、広く自己組織化に関連して様々な学会で活動している研究者、学生間の交流が推進され、本分野の一層の展開と深化が図れた。なお今回セッションCにおいては、優れた発表に贈られる奨励賞に、若手一般から安田琢麿氏(東大院工)、博士学生から平井友樹氏(東大院工)、修士学生から早田祐貴氏(名大院工)の3名が選ばれた。
(代表チェア 大久保達也(東大院工))
▽Session D:暮らしを豊かにする材料―環境・エネルギー・医療― Materials for
Living ― Environment, Energy and Medicine ―
本セッションでは暮らしを豊かにする材料その応用の立場から、活発な講演と討論が行われた。発表は招待講演1件、オーラル35件、ポスター11件の合計47件で、2日間にわたり行われた。口頭発表の会場では講演の内容が広い分野であったが、活発な討論が行われ、講演時間をオーバーするものもあった。
9日は、まず廃棄物のガラス化、形状記憶合金等の9件の研究成果が発表された。午後のセッションは、まず下坂建一氏(株式会社宇部三菱セメント研究所)による招待講演「クリンカーおよびセメントの諸物性に対するクリンカー中の少量成分の影響」が行われ、その後最近のセメント及びコンクリート製造の5件の成果が報告され、次いで結晶中のイオン交換と電池のメモリー効果抑制の成果が報告された。16:00からは5件のポスターセッションがなされた。
10日は、9時から6件のポスターセッションが行われた。口頭発表は10時30分から、ガーネット等の結晶構造解析、アイソレーターの設計、垂直磁気記録の新方式についての数値解析等の成果が報告された。午後は真空材料の研磨方法、有機物の共鳴3次非線形光学効果、ゼオライト、炭素膜等の分子ふるいの成果が報告された。最後のセッションでは波長選択膜、触媒用金属坦体、酸化鉄の光触媒活性が報告された。
2日間にわたり環境、エネルギー、医療に関する広い分野での研究発表であったが、昨年と較べオーラルセッションでは13件も発表件数が増加し、休憩時間も十分確保できない状況であったが、質の高い講演並びに活発な質疑応答が行われた。
今回、奨励賞対象となった26件の中から、須藤祐司氏(東北大先進医工)、角田世治氏(青森県工総研、弘前大理工)の2名が選ばれた。
(代表チェア 小松隆一(山口大工))
▽Session E:固体の反応性―ナノ領域での反応制御による新材料の創製とそれを支えるサイエンス―
Solid
State Reaction―Basic Science and Chemistry for Advanced Materials by Reaction
Control in Nanosize Region―
本セッションは、かつて日本化学会の連合討論会の枠内で13年間行われてきた「固体の反応性討論会」のポリシーを継承し、新規材料開発の基礎となる固体と固体、固体と液体あるいは固体と気体との反応制御、固体と光・電磁波あるいは固体と電子などとの相互作用による新規機能性の発現をも視野に入れた総合討論の場として開設された。材料プロセスに関する基礎現象の解明に関する研究を含め、「固体の関与した現象や知見を広い視野から交換できる場」をモットーに、口頭発表14件、ポスター発表15件の合計29件をベースにして、活発な討論が行われた。
発表内容は、セッションのポリシーを反映し、ナノ構造単位自己配列のシミュレーションからガスクロミック材料の特性まで、きわめて多岐にわたった。しかし、その内容には、ナノ構造体の生成から応用までの流れに関する一貫性があり、現代の材料設計にとって最重要課題のひとつである「異分野から学ぶ」という姿勢に関して、多くの参加者にとって得るところが多かったものと思われる。
ポスターの会場は、通路を行き交う人の波が、結晶中のイオンの拡散を彷彿とさせるほどに密であり、討論もきわめて活発であった。口頭発表の会場は、参加者に比べてやや広すぎた感もあったが、活発な討論とスケジュールどおりの運営がバランスよく両立していた。
今回、奨励賞対象となった14件の中から、若手一般として鎌田海氏(九州大)、学生から鈴木美羽氏(東京理科大基礎理工)の2名が選ばれた。
(代表チェア 仙名 保(慶應大理工))
▽Session F:ナノスケール構造体の新展開―構造・機能・応用―
Recent Progress
in Nano-structured Materials―Structure, Function and Applications―
本セッションでは、有機、無機、およびこれらのハイブリッドからなるナノ構造体の作製やキャラクタリゼーションと、その構造に依存した特性の解明や得られた材料の応用に関して活発な討論が行われた。発表は招待講演2件、口頭発表20件、ポスター発表30件の合計52件であり、12月9日〜10日の2日間で行われた。口頭発表の会場では質問時間が足りなくなるほど、非常に実のある討論がなされた。
内容としては、金属・酸化物・高分子などの新規材料の創製と物理的・化学的性質に関する基礎的な研究に加えて、これら材料の構造をナノメートルレベルで制御し、発光材料、磁性材料、触媒・光触媒材料、太陽電池などに応用する研究についても報告が数多くあり、有機―無機複合ナノ材料の重要性が今後ますます増してくるように思われた。招待講演では、初日に高野敦志助教授(名大院工)により「ABC星型ブロック共重合体の自己組織化を利用したモルフォロジー制御」に関する最新の研究成果が報告され、ABC星型ブロック共重合ポリマーに特有のモルフォロジーとその制御について分かりやすく紹介して頂いた。会場には、ポリマーを専門とする研究者は少ないようであったが、非常に活発な討論が展開され、今後、この分野が急速に展開されると実感した。続いて2日目には、立間徹助教授(東大生研)による「金属-半導体ナノ複合材料のプラズモン共鳴に基づく光電気化学機能」に関する招待講演が行われた。酸化チタンと金属ナノ粒子をハイブリッド化させた材料の光電気化学特性に関して紹介して頂いた。現在、非常に注目されている金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴を利用する光エネルギー変換デバイス、光記録材料などの創製に関して、最新の研究動向が手に取るように理解できた。本セッションでは、口頭、ポスターに関わらず、新規なナノスケール構造体の創製と構造特異的な性質について極めて刺激的な研究成果が多く報告されており、今後ともナノスケール材料とその性質に焦点を当てたセッションとして継続していければと思う。
今回は、13件の口頭発表、29件のポスター発表の計42件を奨励賞対象とし、12名の審査委員により厳正な審査を行った。その結果、中谷昌史氏(筑波大)、三浦智氏(神戸大院自然科学)、石川明弘氏(九大院総合理工)、猿山雅亮氏(筑波大院数理物質科学)の4名を奨励賞に選定した。
(代表チェア 鳥本 司(名古屋大大学院工学研究科))
▽Session G:量子ビームによる埋もれた界面の解析―半導体・電子材料からソフトマテリアルまで―
Structural Analysis of Buried Interfaces Using Quantum Beam
Technologies―Wide Applications ranging from Semiconductors to Soft Materials―
ナノサイエンス、ナノテクノロジーの研究では、表面に露出しているものばかりではなく、何がしかの物質によって覆われた「埋もれた」ナノ構造を扱う必要がある。また人工的に形成された積層構造の各層や各界面は、常に上層に「埋もれた」状態にある。最近、こうした「埋もれた」界面を破壊せずに研究するために、X線、中性子等の量子ビームによる反射率法等の解析技術を高度化しようとする機運が高まっている。本セッションは、半導体、ソフトマテリアル、バイオシステム等について、物質の種別や材料としての応用の違いを超え、「埋もれた」界面の制御、機能、反応等に関わる最先端のサイエンティフィック・
トピックスを交流し、解析技術の将来像を討論することを目的として開催された。
プログラムは招待講演(口頭講演)18件、ポスター16件の合計34件から構成され、2日間にわたり行われた。口頭講演は、全講演が招待講演であり、多岐にわたる物質・材料の分野を広く取り上げ、レビュー的な内容の講演をお願いした。いずれの講演もたいへん有意義であったが、結果的に質疑込みで20分の持ち時間では多少不足気味であったろうか、議事進行が少し駆け足になってしまった感がある。次の機会には、討論を深めやすくするため、テーマにもう少しアクセントをつける等の工夫も考慮したい。ポスター発表では、他のセッションとも共通の会場で、やや手狭で歩いて回るのも困難なほどの大混雑状況のなか、長時間にわたり大変熱心で活発な議論が行われた。日本MRSでの発表は初めての参加者も多数おり、「これほどの活況であれば、ポスター発表をもう1つ申し込んでおけばよかった」といった感想も聞かれた。
X線・中性子反射率法およびその関連技術は、従来から表面や薄膜・多層膜の界面の解析に有用なツールとして広く用いられてきている。本セッションでの討論では、必ずしもその単純な延長線上にはない、ある意味ではこれまでの常識の枠外にあるような、思い切った拡張、高度化にむけての期待感が多く語られた。Quick計測(刻々変化する埋もれた界面の研究)、微小領域分析(場所的に均一ではない界面の研究)、あるいは、情報の種類と量を増やすことを意図したほかの測定技術(回折、小角散乱等)との融合、X線と中性子の相補利用等は、特に重要と考えられ、多くの発表者が異口同音に、その意義を指摘した。先駆的な研究の試みも始まっており、今後、一層の高度化とともに、多くの興味深い物質・材料への応用の広がりが期待される。
奨励賞については、今回候補となった9件の中から、矢代航氏(東大新領域)の「多波回折現象を利用したSiO2/Si界面下のひずみの研究」が選ばれた。
(代表チェア 桜井健次(物質材料研究機構))
▽Session H:先端プラズマ技術が拓くナノマテリアルズフロンティア Frontier
of Nano-materials based on Advanced Plasma Technologies
本セッションでは先端プラズマ技術を用いたナノマテリアルズの作製と構造・機能評価ならびにその応用についての活発な討論が行われた。発表は国際セッションとして、プレナリー講演1件、招待講演4件、オーラル6件の合計11件、国内セッションとしてプレナリー講演2件、招待講演5件、オーラル17件、ポスター40件の合計64件で、3日間にわたり行われ、海外から韓国、中国、ブラジル、デンマークからの講演者が参加した。口頭発表では、活発な討論がなされたため休憩時間が大幅に短縮された。
初日の国際セッションでは、まず韓国Sugnkyunkwan大のJ.G.Han氏がナノ構造多層膜を用いた新しいトライボロジーコーティングについてプレナリー講演を行い、続いて青色発光Siナノ結晶、ガス原子内包Siクラスター、BNミクロコーン等の新規ナノ物質の創成、マイクロプラズマを用いた表面改質等の最新の極めて興味深い研究成果が報告された。本国際セッションでの講演は、伝統ある国際会議にも引けをとらない極めて高い質であったことを強調しておきたい。
2日目の国内セッションでは、熊本大の秋山秀典氏がパルスパワーのプラズマ応用、バイオ応用への展開についてプレナリー講演を行い、続いてSi関連プロセスに関する研究成果が報告された。午後の後半にはポスターセッションが行われた。
3日目、午前前半・後半合わせて38件のポスター講演に続いて、午後から東京大学の田畑仁氏がナノテクノロジーにおけるトップダウンとボトムアップの融合についてプレナリー講演を行い、続いて各種ナノマテリアルの創成とその応用に関する講演が行われ、全体として質の高いディスカッションが行われた。
(代表チェア 白谷正治(九大システム情報))
▽Session I:ナノ精密構造制御と機能発現 The Development of Functional
Materials by Control of the Fine Nano-structures
セッションIでは、12月9日(土)に招待講演5件、ポスター発表8件を、また12月10日(日)にポスター発表15件を行った。招待講演は「ナノ構造制御による精密機能の発現」をテーマとして、有機材料、有機電子材料、微粒子、バイオナノ材料についてご講演いただいた。
まず、ERATO・福島孝典先生から、自己組織化を利用した有機材料についてご講演いただいた。福島先生のご研究では、ヘキサベンゾコロネンというコア材料を、溶液中で両親媒性化、自己組織化させることにより、ナノファイバーの形成することを見出し、これを用いた有機導電体、FET材料、光導電体を実現した。また、こうした自己組織性材料の設計指針についても詳細にお話し頂いた。
次に、NIMS・不動寺浩先生から、構造色を用いた材料創製についてご講演いただいた。不動寺先生のご研究では、高分子微粒子とエラストマーを組み合わせた材料の創製によって、種々の刺激によって色調が変化する材料についてご講演頂いた。
また、東工大・中川勝先生から、高分子を利用した機能性ナノ材料の創製についてお話頂いた。中川先生のお話では、高分子の微細構造形成能や、高分子とナノ微粒子とのハイブリッド形成によって、効率的に制御されたナノ材料の創製方法についてご講演頂いた。
次に、京都大学・木村俊作先生より、ペプチドを用いた有機電子材料設計についてのお話を頂いた。木村先生のお話では、ペプチド(特にα-へリックスペプチド)の持つ、大きなダイポールモーメントに着目した電界駆動型の電子材料についてご講演いただいた。
次に、東工大・半田先生より、磁性微粒子を用いたバイオナノテクノロジーについてお話いただいた。半田先生のお話では、磁性微粒子を使った場合の生物学者、医学者としての立場から、優れた機能について焦点を当てて話を進めていただいた。磁性微粒子の開発にいたる材料科学の観点についてもわかりやすくお話があった。
今回、奨励賞対象となった23件の中から、若手一般として緒明佑哉氏(慶應大理工)、学生から佐藤慈之君(北海道大)の2名がポスター賞に選ばれた。
(代表チェア 三浦佳子(北陸先端科学技術大学院大))
▽Session J:先導的バイオインターフェイスの確立 Frontier of Biointerface
本セッションでは、バイオインターフェイスをナノ・マイクロレベルで理解し、それを制御し、新たな機能性を発現させる材料探索に関わる討論が行われた。発表は招待講演4件、オーラル14件、ポスター24件の合計42件で、タイトなスケジュールであったが、12月9日の1日で行われた。口頭発表では、どの講演も白熱した議論がなされ、15分という一般講演の時間内では収まりきらず、最終的に40分ほどの遅れが生じ、ポスターセッションの時間と重複してしまった。ポスターセッションでもオーラルセッションと同様熱心な議論がされた。しかし、十分な時間がとれなかったことが非常に残念であった。
午前には、5件の一般講演と2件の招待講演、名古屋大学の高井治先生による「プラズマナノテクノロジーを用いたバイオインターフェースの開発」と、京都大学の小寺秀俊先生による「再生医療に向けたバイオ/ナノハイブリッドプラットホーム技術の構築」があった。高井先生のプラズマCVD法による超撥水性表面は、新しいバイオインターフェイスの可能性を示す大変興味深いものであった。小寺先生は、再生医療に向けたプラットホームを、NEMS/MEMS技術を用いて構築する展望について講演された。中でも微小孔をもつマイクロチップは、組織工学において有効な解析ツールであることを実感した。午後のオーラルセッションでは、9件の一般講演、2件の招待講演があった。九州大学の高原淳先生の招待講演「表面開始重合を用いたソフトインターフェースの精密設計」では、高精密重合法を用いた高密度ポリマーブラシ表面が低摩擦特性を示すこと、また、さらなるナノレベルでの界面制御技術の必要性が強調されたのが印象的であった。最後の招待講演は、名古屋工業大学の増田秀樹先生の「機能性金属錯体で修飾された金電極の作成」で、微生物の反応解析に、ナノレベルで構造制御した修飾電極の有用性を実証された。
本セッションを通して、バイオインターフェイスの材料探索研究の分野融合的な広がりを感じた。来年度のプログラムでは、時間的に余裕をもたせたスケジュールとし、より深い議論を楽しめるセッションとしたい。なお、奨励賞は、対象者22名の中から、星野裕樹氏(筑波大院)、徐知勲氏(東大院工)の2名の学生が選出された。
(代表チェア 高井まどか(東京大))
▽Session K:イオンビームを利用した革新的材料 Innovative Material
Technologies Utilizing Ion Beam
国際セッションKは、招待講演10件(海外より6件)と一般発表37件(口頭発表12件、ポスター発表25件)の合計47件で2日間にわたり開催された。
本セッションの発表内容は、イオンビームの利用は半導体のみならず、新たな材料開発にはまだまだ大きな進展と実りを期待させた。特に、生体関連およびナノテクノロジーに関するものが多く、イオンビームによる材料創製研究の方向性を示していた。
ナノ粒子形成とその利用については、ナノ粒子の形成制御(大きさ、深さ、平面位置、そして元素)ができる新たな手法が発表され、また、応用分野も半導体の単電子メモリー指向から、非線形素子、発光素子、更には高感度センサーの開発と繋がることが報告された。新たな方向としては、イオントラックの方向に長軸を持った粒子、ナノ粒子成長の面内分布の形成、ナノ粒子の1次元配列、イオン工学プロセスを用いた新たな光学素子形成手法が示された。ナノ加工の最先端技術として、FIBやイオンビーム投影リソグラフィー等が、数十nm以下の加工精度に入り、イオンビーム技術が、再び脚光を浴びてきた。ナノ粒子の集合制御についても、自己組織化技術との組み合わせによって、ナノレベルに進展していく兆しが見られた。
また、医学、生物、農学などの境界領域への発展が大きく期待された。特に、植物細胞や酵母への低エネルギーでのイオン注入処理が報告された。数十keVという低エネルギーで細胞膜の加工やDNAへの衝撃により、DNA交換や部分的改質による突然変異が期待され、有能な品種の開発や高機能で高効率なアルコール発酵の酵母などを開発することができ、将来のエネルギー問題の解決策に繋がるなど大きな可能性を秘めている。さらに、イオンビームによる高分子材料の改質は、細胞接着制御やパターニングだけでなく、幹細胞の目的細胞種への分化誘導(MSCから神経細胞へ)の可能性も示されると共に、細胞チップ作製の道具としてイオンビームが利用できることが示された。
国際招待講演等による世界最先端の研究発表とともに学生の発表も多く、また、ポスターセッションも多数の来聴者が訪れ、活気溢れる発表と討論が行われた。
(代表チェア 岸本直樹(物質材料研究機構))
▽Session L:燃料電池用材料の新展開 New Trend for a Development of
Fuel Cell Materials
本セッションでは、燃料電池を構成する材料および水素の製造、貯蔵に関わる材料の最前線について、国内の若手研究者・学生を中心に集め議論を行い、今後の発展の可能性を探る視点から活発な討論が行われた。発表は招待講演2件、オーラル17件、ポスター12件の合計29件で、12月10日に丸1日かけて行われた。口頭発表の会場では、一般講演の中で6件が英語により行われ、質疑応答でも英語による活発な討論が行われたと思う。
発表の中で目だった内容としては、横浜国大の石原顕光氏が、燃料電池材料において最も注目されている非白金系電極の創製に関し、「高分子形燃料電池用新規カソード材料としてのタンタル系化合物」に関する発表を行い、その発表の中で、非白金系電極材料の可能性についての指摘を行った。続いて、名古屋大学のPilwon
Heo氏による「中温動作燃料電池用プロトン伝導性Sn0.9In0.1P2O7固体電解質」の発表では、従来の高分子形固体電解質が使用不可能な200℃付近における高性能プロトン伝導体の開発に関する発表が行われ、出席者の間でも高い関心を集めていた。その他、今後の有望な新規炭素材料としてのフラーレンナノチューブの合成に関して、Cherry
L. Ringor氏が行った発表は、その発表の内容は言うに及ばず、発表における工夫や、その分かりやすい英語による口頭発表が、出席した学生や若手研究者からも大変好評であり、多くの学生の見本となる発表がなされたと感じた。
また、水素関連材料の発表においても、燃料改質材料、水素分離、水素貯蔵及びセパレーター材料に関して、最先端の話題が提供され、燃料電池材料研究に関わる、非常に幅広い層の研究者間での有用な意見交換がなされたものと確信する。
次回も燃料電池材料に関係する、なるべく幅広い分野の研究者が一同に集まり、議論や親交を深める場を提供できるよう、努力することを申し合わせて閉会した。
ちなみに、今回の奨励賞対象となった20件の中から、学生からPilwon Heo氏(名古屋大環境学研究科)、若手一般からCherry
L. Ringor氏(物材機構)の2名が奨励賞に選ばれた。この受賞された両氏をはじめ、今回参加いただいた若手研究者・学生の今後の発展を心より祈念するとともに、本セッションが、燃料電池材料分野の発展の一助になることを願うものである。
(代表チェア 西村 睦(物質材料研究機構))
▽Session M:ネットワークと溶媒が織りなすゲルのサイエンスとテクノロジー
The
Science and Technology of Gels’ Characteristics Woven by Network and Solvent
本セッションでは、食品・日用品から環境関連分野にわたる様々の領域で利用されている高分子ゲル等のソフトマテリアルにおける構造、機能、物性について活発な討論が行われた。発表は、日本語セッション(招待講演2件、一般講演10件)、国際セッション(招待講演2件、一般講演4件)、ポスターセッション28件の合計46件で、2日間にわたり行われた。特に今回初めての試みとなった国際セッションでは心地よい緊張感が会場に漂い、これから国際化していくシンポジウムの姿がおぼろげに見える感じであった。
初日午前には、まず招待講演として群馬大工の窪田健二氏による「フィブリンゲル形成と糖との相互作用」、続いて主として生体、生体関連物質等のゲル、ゲル様物質、その後、合成高分子系ゲルに関する精力的な研究の成果が発表された。中でも、「ゲルをテンプレートに用いたナノポーラスシリカの作製(横浜国大環境情報・馬場亨氏)というユニークな発表も行われ、この分野の新しい発展の一端が垣間見られた。
その後行われた午後前半の国際セッションでは、中国科学院過程工程研究所副所長の馬光輝氏(Prof.
Ma Guanghui, National Key Laboratory of Bio-chemical Engineering)の招待講演「Preparation
and Application of Uniform-sized Microgel by a Special Membrane Emulsification
Technique」をはじめとするゲルビーズ、ナノカプセルの作製法や特性に関する講演、エアロゲル作製法に関する講演等があり研究分野の広がりが実感された。中でも、東海大理の浅野恵美氏による「Dielectric
Behavior of Water in Calcium Silicate Hydrate(CSH)Gel for Portland Cement」には多くの関心が寄せられた。国際セッションの最後の講演は、ちょうどこの時期に来日されていたS.K.
Kundu氏による招待講演「Dielectric and Dynamic Light Scattering Study of
Liposome and Liquid Crystals in Dilute Solutions」が行われ、ダイナミクスの立場からの構造形成ソフトマテリアルについての先進的な知見が披露された。
この日の午後の後半、及び、2日目の午前にポスターセッションが行われ、ひしめき合う聴衆の中で多くの熱心な議論がなされていた。2日目の午後は、京大院工の浦山健治氏の招待講演「液晶ゲルの刺激応答特性」を皮切りに主に合成高分子ゲルを中心とした講演が行われ、最後まで多くの聴衆からの活発な議論が展開された。
(代表チェア 原 一広(九大院工))
▽Session N:生物系資源の最近の進歩 Advances in the Application of
Biological Resources
本セッションは、例年を上回る規模で成功裏に開催することができました。これもひとえに、皆様のご協力とご尽力の賜と、心より感謝申し上げます。本年も当セッションでは「生物資源の有効利用、リサイクル、新素材の開発や評価技術、ナノオーダーでの高機能利用法」を中心に最近の進歩について討論してまいります。本年もよろしくお願いします。
招待講演をされた三木先生(兵庫県大院工研)の「炭素を用いた電波吸収体の開発」は、ウッドセラミックス、SiC、木炭やカーボンブラックなどをベースとした1〜10GHz範囲の波に適当な吸収装置の開発についての講演でした。伊藤先生(近畿大院総合理工)の「植物電位の電気エネルギー源応用への可能性」では、植物を用いた、まったく新しく環境にやさしい電力エネルギー源についての研究成果が発表されました。両講演とも、質疑応答も活発で、質の高いディスカッションが行われました。
オーラルセッションは、午前11件、午後前半10件、後半5件の3部に分かれて、朝9時から6時すぎまで行いました。籾殻を利用した新材料、木材・植物からの成分抽出法、リグノフェノールなど抽出成分の利用法、木材の機械的性質、新機能性材料ウッドセラミックスの応用など多岐にわたって高度な研究発表が行われました。分単位のスケジュールで、かつ時間超過も多々ありましたが、十分な発表と討議が出来たものと思います。
ポスターセッションの発表件数は42件で、昨年の2倍近くの発表があり、16時から17時まで開催されました。籾殻、藺(い)草など植物系資源を材料とした新素材の開発、ヒバ油やリグノフェノールなどの成分抽出とその応用、木炭やウッドセラミックスに関する基礎研究およびその応用等、今後も期待できる分野の発表が多く、いたるところで、質問や討論が活発に行われていました。発表数が増えたにもかかわらず、発表時間は昨年より短かったため、参加者の皆様には非常に物足りなかったことと思います。また、発表者の方は、まったく休む時間が無かったと思います。ご苦労様でした。
今回は、奨励賞対象となった30件の中から、青蜿[氏(三重大院・生物資源JST SORST)、木村隆之氏(新神戸電機)、坂井麻美氏(慶應大理工)、藤本純也氏(明星大理工)の4名が選ばれました。
(代表チェア 岡部敏弘(青森県工業総合研究センター))
▽Session O:材料データベース Materials Database and Application System for
Materials Design
本セッションでは材料データベースの構築事例とその応用システムおよび材料評価に関する討論が行われた。材料データベースに関するセッションは初めてであったが、韓国から4件の申し込みがあり国際セッションとして開催した。発表は基調講演1件、招待講演1件、オーラル5件、ポスター10件の合計17件で、2日目の午後に行われた。
口頭発表はまず、基調講演でNIMS山崎政義氏がNIMS物質・材料データベースおよび国内外のインターネットで公開されている材料データベースを紹介した。続いて招待講演として韓国のBo-Young
Hur教授がRheological Characteristics of Molten Metal for Casting Designについて講演した。東洋大学の芦野俊宏教授は材料データベースの共通プラットホーム開発プロジェクトの紹介と材料データベース構築とデータの記述における問題点を指摘した。口頭発表およびポスター発表で拡散、高分子、超伝導、構造材料および環境負荷データベースなどの構築事例が紹介され活発な質疑が行われた。
(代表チェア 山崎政義(物質材料研究機構))
▽Session P:マテリアル・ダイレクト・ライティング技術の展開
The Latest
Achievements and Challenges of the Material Direct Writing (MDW) Technology
本セッションでは、従来AD法やコールドスプレー法など、微粒子の噴射成膜法に焦点を当てていたが、今年は、これら成膜法を包括し、小型、低コスト化だけでなく製品の多様化や製品サイクルの短期化に対応できる設計・製造技術を構築できる新たなプロセス法の範疇として、Material
Direct Wrinting(MDW)というキーワードを提案し、このもとで、発表・議論を行った。MDWは、発表はオーラル17件(うち、基調講演1件、招待講演1件)、ポスター7件の合計26件で、2日間にわたり行われた。
招待講演は、材料から、直接機能をもった構造の作製の実例として、大阪大学接合科学研究所スマートプロセスセンター長の宮本欽生先生より、電磁波を閉じ込めるためのフラクタル構造を、光造形法によって形成する技術の研究発表をいただいた。昨年同様、AD法関連の発表が多くなされたが、内容が電子セラミックス以外、疲労ゲージへの応用や摩擦特性向上など機械分野への応用の発表や、プロセス自体を微小重力化行うなど野心的な試みの発表もみられた。また、インクジェット法関連についても、新規なレオロジー特徴をもつスラリーやMDW用ゾルゲル液の開発など材料面の研究、およびレーザー加熱との組み合わせなどプロセス高度化のアプローチなど、インクジェット法の枠を広げMDWのコンセプトと適合しようという研究報告がなされた。分野のもつ新しさのせいか、すべての発表に新規性があり、興味深いセッションになったと思う。
(代表チェア 明渡 純(産業技術総合研究所))
▽Session Q:マテリアルズ・フロンティア Materials Frontier
本セッションでは過去何年にもわたって幅広く無機材料、有機材料、金属材料、半導体材料、生体材料、複合体材料の最近の進歩に関する発表を募集してきた。今回も、同じ方針で開催し、多種の材料関係の発表があった。過去のこのセッションではポスター発表のみを行ってきたが、前回(2005年)から口頭発表とポスター発表の両方を行っている。ポスター発表33件、口頭発表9件(招待講演1件を含む)であった。招待講演では米国Argonne
National LaboratoryのJ.P. Singh先生から「Residual Stress Measurements in
Advanced Ceramic Composites by Neutron Diffraction」という題目で講演して頂いた。講演では、中性子回折法の特長に関する説明の後、これを用いたセラミックス複合材料(c-
ZrO2-m-ZrO2, Al2O3-SiC(whisker), SiC(fiber)-Si3N4)中の残留応力測定への応用とこの方法の有効性を解説していただいた。他の発表では、ステンレスの微小引張試験片の変形、複合材料の超塑性変形、酸化チタンナノチューブアレイ、酸化物と有機材料の複合材、各種薄膜の作製、環境浄化に用いる材料の発表などであった。
口頭発表を含めて奨励賞対象の発表は29件(学部5件、修士17件、博士5件、一般2件)であった。12名の審査員で審査したが3位は2名の人が同点となり、結局4名の方に奨励賞を授与することを提案した。
(代表チェア 伊熊泰郎(神奈川工科大))
第17回日本MRS学術シンポジウムは盛況のうちに終了できました。シンポジウムを組織されたセッションチェアに御礼申し上げます。
A:坂本 渉(名大)、野口祐二(東大)、樋口 透(東京理大)、廣田和馬(東大)、藤沢浩訓(兵庫県立大)、松田弘文(AIST)
B:三浦康弘(桐蔭横浜大)、岩田展幸(日大)、山本 寛(日大)、池上敬一(AIST)、松本睦良(東理大)、宮坂 力(桐蔭横浜大)、杉 道夫(桐蔭横浜大)
C:大久保達也(東大)、加藤隆史(東大)、木下隆利(名工大)、関 隆広(名大)、多賀谷英幸(山形大)
D:小松隆一(山口大)、中山則昭(山口大)、中塚晃彦(山口大)、山本節夫(山口大)、喜多英敏(山口大)、笠谷和男(山口大)
E:仙名 保(慶大)、北條純一(九大)、嶋田志郎(北大)、石垣隆正(NIMS)、鈴木久男(静大)
F:鳥本 司(名大)、寺西利治(筑波大)、村越 敬(北大)、佐藤 治(九大)
G:桜井健次(NIMS)、奥田浩司(京大)、佐々木園(JASRI)、竹田美和(名大)、高原 淳(九大)
H:白谷正治(九大)、寺嶋和夫(東大)、節原裕一(阪大)、堀 勝(名大)、知京豊裕(NIMS)、河野明廣(名大)、井上泰志(名大)、畠山力三(東北大)、藤山 寛(長崎大)
I:三浦佳子(北陸先端大)、有賀克彦(NIMS)、松田直樹(AIST)、白幡直人(NIMS)、増田佳丈(AIST)
J:高井まどか(東大)、一木隆範(東大)、齋藤永宏(名大)、沼子千弥(徳島大)、井藤 彰(九大)、安川智之(東北大)、石崎貴裕(名大)
K:岸本直樹(NIMS)、辻 博司(京大)、池山雅美(AIST)、鈴木嘉明(理研)、馬場恒明(長崎工技セ)、福味幸平(AIST)、末松久幸(長岡技科大)
L:西村 睦(NIMS)、森 利之(NIMS)、平野敏幸(NIMS)、片田康行(NIMS)
M:原 一広(九大)、土橋敏明(群馬大)、八木原晋(東海大)、安中雅彦(九大)
N:岡部敏弘(青森県工業総合研究センター)、辻純一郎(ポリテクセンター群馬)
O:山崎政義(NIMS)、徐 一斌(NIMS)
P:明渡 純(AIST)、小木曽久人(産総研)、鶴見敬章(東工大)、中田正文(NEC)
Q:伊熊泰郎(神奈川工大)、野間竜男(農工大)、長瀬 裕(東海大)、平賀啓二郎(NIMS)
■第18回日本MRS学術シンポジウム
主催:日本MRS
日程:2007年12月7日(金)〜9日(日)
場所:日本大学理工学部駿河台校舎
詳細:詳しい案内は次号。
■IUMRS関係
●2007 MRS Spring Meeting
April 9-13, 2007, San Francisco, CA
●2007 E-MRS Spring Meeting
May 28-June 1, 2007, Congress Center, Strasbourg, France
●International Conference on Materials for Advanced Technologies (ICMAT
2007)
July 1-6, 2007, Singapore
●IUMRS-ICAM 2007-10th International Conference on Advanced Materials
Oct 8-13, 2007, Bangalore, India
●2007 MRS Fall Meeting
November 26-30, 2007, Exhibit: November 27-29, Boston, MA
■新刊案内
Trans. of MRS-J, Vol.31, No.4, Decemberが発刊されました。
L:次世代エコマテリアル―環境調和型高機能エネルギー材料―
N:生物系資源の最近の進歩
P:エアロゾルデポジション―コールドスプレー法の新展開
Q:マテリアルズ・フロンティア
以上のセッション56報にレギュラーペーパー4報、合計60報
詳細問合せ先 mrs-j@sntt.or.jpまたは東京工業大学 大学院理工学研究科 鶴見・和田研究室
〒152-8552 目黒区大岡山2-12-1-S7-2
Tel: 03-5734-2517 Fax: 03-5734-2514
mrsjpub@cim.ceram.titech.ac.jp
■堂山シンポジウム
2007年9月5日(水)〜8日(土)に東京大学を会場にして池谷科学技術財団主催の第17回池谷国際会議が開催されます。テーマは「Materials
to Save Humankind: The Dream, Creativity, and Working Toward its Realization」です。本会議はまた日本MRS初代、第3代会長で東京大学名誉教授、帝京科学大学名誉教授・堂山昌男博士の傘寿を記念してThe
Doyama Symposium on Advanced Materialsとして開催されます。
詳細問合せ先 http://www.iketani2007jks.ynu.ac.jp/
■IUMRS Somiya Award 2007 Somiya
Awardの応募締切は2007年4月1日です。宗宮賞は東京工業大学名誉教授・帝京科学大学名誉教授・宗宮重行博士の材料科学における業績をたたえて創設された賞です。今回から宗宮賞は隔年で贈賞されることが決定されました。表彰式は2007年10月インドカルナカタ州都ベンガルール(旧バンガロール)で開催されるIUMRS-ICAM-2007会議中に行われます。
詳細問合せ先 http://www.iumrs.org
■To the Overseas Members of MRS-J
■Material Research for the Practical Use…p.1
Dr. Kiyoshi OGATA, Director, R&D Center, Nissin Electric Co., Ltd.
It may safely be said that now the technology of the new materials synthesis
in Japan is in the van of the field in the worldwide. A prominent functional
materials and that manufacturing technologies are developing. However,
the production technology in the low cost should be also investigated and
developed to be used for the practical materials.
■The 17th MRS-J Academic Symposium…p.2
Materials Society of Japan organized the 17th academic symposium in December
8-10, 2006, in Ochanomizu, Tokyo. More than 1000 scientists and researchers
from wide range of disciplines attended the Academic Symposium, held at
the Nihon University’s Ochanomizu Campus. Seventeen symposia with 698
oral and poster presentations highlighted advances in the basic research
and applications of advanced materials.
■Doyama Symposium
The 17th IKETANI International Conference on “Dreams, Creation and Realization
of Materials Saving the Humankind” will be held at the University of Tokyo,
Tokyo, Japan from Wednesday, September 5 through Saturday, September 8,
2007. This Conference is also planned in commemoration of the 80th birthday
of Prof. Masao Doyama and will be supported by the Iketani Science and
Technology Foundation.
■IUMRS Somiya Award
The International Union of Materials Research Societies (IUMRS) is seeking
nominations for the 2007 So^miya Award, which recognizes research on real
materials conducted by a research team whose members are drawn from at
least two continents.
第15、16、17回と日本MRSシンポジウムの現地責任者を仰せつかった。シンポには、セッションBのチェアとしても携わり、本号の日本MRSニュースの編集を行った。幸いな事に第16、17回のシンポでは、当研究室の学生が奨励賞を頂いた。毎年の恒例行事となりつつある。そんな時、シンポで学生時代の先輩に出会った。「おまえも頑張っているな」と励まされた時、シンポでは「お仕事」でしか関わっていないことを痛感した。自分はまだ奨励賞をいただける年齢でもある。第18回も日大理工学部で実施することがほぼ確定している。せっかくの横断的会議に、研究者としてさらに積極的に参加することを誓った。(岩田)