重里前会長の後任として、このたび日本MRS会長を拝命いたしました物質・材料研究機構(NIMS)の有沢でございます。
日本MRSは、設立当初より「国際的かつ学際的なネットワークの形成」を理念に掲げ、活動を続けてまいりました。国際性の観点では、International Union of the Materials Research Societies(IUMRS)の構成メンバーとして、国際会議などを通じて海外との交流を深めています。学際性については、材料科学が多くの学問分野の基盤となることから、分野横断的な交流を積極的に推進してまいりました。また、多くの国内学会が登壇を会員に限定している中で、日本MRSでは非会員の発表も認めており、これはオープンな交流を重視する姿勢の表れです。さらに、2019年より開催しているMaterials Research Meeting (MRM)は、この国際性と学際性の双方を体現するものとなっています。
材料科学は現在、量子デバイス、バイオテクノロジー、エネルギー変換と蓄電、半導体など、さまざまな分野で急速に進展しています。これらの技術は、持続可能な社会の実現に不可欠であり、環境保護、エネルギー効率化、医療の高度化など、さまざまな領域でイノベーションをもたらしています。特に、カーボンニュートラル社会の実現を目指した環境材料の開発や、医療材料のヘルスケア応用は、今後の地球規模の課題解決に向けた重要な研究分野です。
日本が伝統的に強みを持つ素材産業は、現在もなお自動車産業に次ぐ主要産業の一つであり、ハイテク材料の開発と応用を通じて国際的競争力を維持しています。特に機能材料や電子材料は日本の得意分野であり、これらの領域では次々と新たなイノベーションが生まれています。しかし、その中で近年、社会は大きく変化しています。材料科学をはじめとする分野では、中国の研究が質・量ともに日本や欧米を凌駕しつつあります。また、長らく懸念されていたサプライチェーンの東西分断は、近年の米国の政策などにより、西側諸国間でも顕在化しつつあります。
このような状況下で、日本MRSは国内外の研究者をつなぎ、研究成果の交換を促進することで、材料科学コミュニティの活性化と、わが国および世界の材料科学のさらなる発展を支える重要な使命を担っています。また、若手研究者の育成にも力を入れ、次世代を担う革新的技術人材の育成にも注力しています。
これらの活動を通じ、日本の材料科学が世界の技術革新により一層貢献できるよう尽力してまいります。会員の皆様をはじめ、関係各位のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
一般社団法人 日本MRS 会長 有沢 俊一