japaneseenglish
login contact

日本MRSについて

会長挨拶

「ここが頑張りどころ」

 材料の革新は世の中に大きなインパクトを与えることは、歴史の教えるところです。我が国の物質・材料の研究は、金属学の本多光太郎をはじめ、世界が認める幾多の傑出した研究成果を産み出してきました。その結果として素材は日本の最も高い競争力をもつ産業の一つになりました。テレビやディスプレイなどの電化製品を作る産業は、世界を制覇したかつての勢いは今や消失してしまいましたが、それを構成する素材は日本製のものが今も主になっています。しかしながら、その基礎となる学術論文は、質でも量でも急速に国際的順位を下げています。このまま推移すると、10年もすると素材産業も強い国際競争力を失うことになってしまうでしょう。それでは学術の交流の場となる学会はどうなっているのでしょうか?日本学術会議材料工学委員会で調べてみました。材料関係の学会組織は31ほど登録されています。その殆どは正会員数が1,000名以下で、しかもその年齢分布は55-60歳のところに大きなピークがあり、それよりも若くなると急速に人数が減少します。また、海外の会員の数も高々数%程度にとどまっています。その発行する学会誌のインパクトファクター(IF)は概ね1、またはそれ以下です。これが日本の材料系学会の現在の実情です。   

 それでは、材料は学問領域として縮小しつつあるのでしょうか? 世界の主な関連学会の発行する論文誌をみれば、全くそんなことはなく、むしろ材料領域がかなり伸びてきていることが分かります。米国物理学会、協会はPhysical Review誌にPhysical Review Materialsを、Applied Physics LettersにAPL Materialsを、米国化学会はChemistry of Materials, ACS Nano, Nano Letters, ACS Materials Lettersなどを創刊し、いずれのジャーナルも高いIF(これを過度に尊重してしまうと次のオリジナルな研究の芽が出にくくなるので注意が必要ですが)を獲得しています。商業誌ではこの傾向はより顕著で、高いIFの論文誌には機能物質、材料の関係のものが数多く見られます。ところが、材料系学会が発行する論文誌にはこのような傾向はあまりみられません。すなわち、既存のディシプリンが、どんどん材料領域を取り込んで成長を図っているのです。それだけ物質の研究が原子、分子からそれらが膨大な数だけ集まった凝縮系(Condensed Matter)に大きくシフトしているようです。凝縮系では構成する原子・分子の性質からは及びもつかない性質が発現します。これを求めてのシフトです。しかし、材料として使うためには粒界、界面などの高次構造を制御する必要があります。ここが材料研究の難しさです。これについてはこれまで有効な手段が少なかったのですが、ニューラルネットや機械学習など最近のAIの手法を取り入れることで研究がかなり進展しそうです。世の中には地球規模で解決を迫られている課題が山積みです。その解決には新しい材料が必要です。

 このような状況から、材料研究はこれから飛躍期を迎えるのではないかと感じています。 個々のディシプリンの深化が重要であることは論を待ちませんが、分野横断型の学際的研究をもっと発展させないと飛躍は困難です。1973年に誕生した米国のMRSが大きく発展したように、30年前に発足したMRS-Jもその使命とする分野横断型研究を推進する役割をしっかり果たしたいものです。先ずは、このような背景から創設した国際会議である第一回Materials Research Meeting (MRM)を是非とも成功させましょう。昨今のスポーツをみると、これまで殆ど活躍が無理だろうと思われてきた種目で日本人選手の活躍が目につきます。これは10年の年月をかけて裾野の強化から始めた成果が出つつあるということのようです。日本の材料研究も教訓にしたい事例の一つです。

一般社団法人 日本MRS 会長 細野 秀雄